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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第一章 白銀の忘却姫
8/88

8話 そのリネン室はどちらですか?

「何故こんなかくれんぼなんてするハメになっているのか」


 俺はナニィが持ち込んだ宝珠という異物を飲み込んでしまったのでその検査を受けるために病院に来ていたはずが、いつの間にか、ナニィが病院にお見舞いに来ていたマルという子供と友達になりかくれんぼをして遊ぶことになっていた。鬼の役である俺はナニィと、この病院で出会ったマルという子供を探している。


「それにしてもナニィの奴、こんなことしてて大丈夫なんかね」


 といっても無理もないことなのかもしれない。

 ナニィは候補者(プリンセス)ではあるが、本命は姉と妹らしく。

 本人はこのゲームを有利にするためのアイテムを持ち込む支援要員(サポーター)として送り込まれたに過ぎないらしく、女王選抜試練プリンセスセレクションに挑むモチベーションは決して高くない。

 しかもそのために持ち込んだアイテムを事故とはいえ俺が飲み込んでしまった上に、赤髪の少女との遭遇戦で通信手段を紛失し、姉妹と連絡が取れなくなるというおまけ付きだ。


「こう、考えてみるとアイツいいとこなしだな」


 こんな状況でも落ち込みもせずに楽しくやってるのが長所ってところか。

 まあいい。さっさと見つけてこのかくれんぼは終わりにしてやろう。


「それにこのゲームには必勝法がある」


 ニッと含み笑いを浮かべながら獲物を探す。

 今の俺は、森林を練り歩くハンターだ。

 獅子は兎を仕留めるにも全力を尽くす、早速手頃な位置に白服に身を包んだ病院の代名詞ともいえるナースさんが歩いているのが見えたので、ススッと近寄って行って声をかける。


「そこの綺麗なお姉さん。このあたりで、元気が有り余った子供と白髪の女を見ませんでしたか?」


「あらやだ綺麗なお姉さんって私のこと?」


「もちろんです。あなた以外に誰がいるんですか」


「もうやだお上手ね。白髪の女の子は見てないわねえ、元気が有り余った子供って多分マルちゃんのことよね? マルちゃんならもう1つ上の階を歩いているのを見かけたわ。屋上への扉はもう鍵閉めちゃったから、まだそこにいると思うわよ」


「この上か、ありがとうお姉さん」


「いいのよぉ。なんでも聞いてくれれば……でも患者さんもいるからあまりはしゃいだら駄目よ」


「すみません、気を付けます! じゃあまた」


 俺は看護婦さんにお別れを告げて階段を上っていく。

 外向きの笑顔を引っ込めて思案する。

 廊下を歩けば白衣の天使という名の諜報員が俺に獲物の情報を教えてくれる。

 卑怯だと、卑劣だと指を差して笑う奴は勝負に徹しきれない人間の戯言だ。

 例えどれほど下らないものだとしても始まってしまえばもはや真剣勝負あるのみだ。

 結果、マルの居場所はほぼ特定できたと言っていいだろう。

 しかし逆に全くと言っていいほど目撃情報が入ってこないのが意外なことにナニィだ。


「あんな目立つ髪で、隠密行動なんて出来るとは思えないんだがなあ」


 むしろさっさとナニィを見つけられる自信があっただけに、この結果は予想外だった。

 仕方なく、ナニィより先にマルを捕まえるべく移動している。


「さーて、屋上にはいけないとなると隠れる場所は病室ぐらいか?」


 いや、他にもう1か所だけある。


「リネン室か」


 階段の横に張り出された見取り図を見て、そう確信した。

 俺がリネン室に行くと、中からすすり泣く声が聞こえてくる。

 思わずぎょっとして扉を開けた。


「おい、どうした!?」


「ふぇぐ、お兄ちゃん……」


 その中には涙で目を腫らしたマルがいたのだ。

 何事かと駆け寄るとぼそぼそと鼻水声で話し出す。


「ぼく、ぼくね。隠れる場所を探してここを見つけたんだけど」


「お、おお」


「ここって患者さんが使うシーツ置いてる場所なんだよね? どうしよう、ぼく気づかずに布触っちゃった」


 並べられたシーツを指差しながら涙をこぼす。

 患者さんに菌が移っちゃったらどうしようと、涙目で狼狽えるマルの頭に手を置いて安心させるようにささやいた。


「あー、いいか? リネン室ってのは今から患者さんが使う清潔室と患者さんが既に使った後の不潔室ってのに別れててだな」


 俺は部屋の外にマルを連れてって緑色で不潔室と書かれた表札を指差した。


「俺たちが今いた場所は不潔室の方なんだわ」


「……え?」


「つまり俺たちがいかにベタベタ触ろうが、何の問題も起こらない。何故ならこの布の行先はそもそも病室じゃないからな」


「あれ? じゃあ」


「お前が泣く必要、なーんもなし」


 手をパッと開いて言うと持っていたハンカチで拭ってやる。

 ゴシゴシと擦るたびにくすぐったそうに身をねじるマルを抑えつけながら、頬に流れた涙を拭い取った。


「よ、よかったあ」


 未だ目を赤く腫らして、安堵の表情を見せた。


「そんじゃあナニィを探しに行こうぜ? 一緒に行くだろ?」


「うん!」


 俺はマルと手を繋いで来た道を戻っていく。

 さて、ナニィは一体どこに隠れているのやら。


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