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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第二章 日輪を支えし歌姫
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42話 アクシデント発生

 流れる曲に合わせて、ステージ上で二人の少女が躍り始める。

 美しく着飾った金と銀の協奏曲はアップテンポにリズムよく奏でられ、聞けば元気が湧いてくるような気がした。


「ほう」


 ステージに上がって歌うナニィと四葉の姿に思わず感嘆の声をこぼす。

 ナニィには多少ぎこちないところもあるが、そこは隣に立つ四葉が絶妙にフォローに回ることで事なきを得る。

 二人が一生懸命に歌う姿はとても美しく、周囲のスタッフも作業の手を止めて思わず魅入っていた。


『あの子、確か昨日社長が連れてきた子ッスよね?』


『可愛い娘ね! それにどことなく気品に溢れてるような?』


『四葉ちゃんと並ぶと更に絵になるなー。これは絶対受けるよ!』


 これまで多くのアイドルを手掛けてきたであろう百戦錬磨のプロ達が手放しで賞賛の声をあげて褒め称える。


「すごいね。貴方の彼女、あっという間にみんなの心を掴んじゃったみたい」


 隣の少女がステージにいるナニィ達を見上げてそう呟く。

 その表情はマスクとサングラスに遮られて伺い知ることはできないが、その声音はどこか羨望が滲み出ていた。


「いや、別にナニィは俺の彼女って訳じゃないんだが」


「あれ? 違うんですか? 仲良さそうにしてたからてっきり」


「あいつは……なんていうか、上手く言えねえけど友達……かな? 会ったのはつい最近なんだが、俺がやばい時に助けにきてくれたんだ。見捨てたって誰も責めなかったろうにな」


 病院で俺が捕まっていた時、ナニィは逃げようと思えば逃げれたはずだ。

 しかもルール違反スレスレを犯してナニィ達よりずっと以前に潜伏していた候補者が罠を張って待ち受けている可能性も高かった。

 にも関わらずについ最近知り合ったばかりの人間を助けるため、少女は奮戦して候補者を退け、救ってくれた。

 ナニィが来てくれなければ俺もマルも今頃どうなっていたか分からない。

 当初は興味半分、成り行き半分でこの戦いに付き合っていた俺だったが、今ではそれに加えて純粋にナニィという少女の手助けをしてやりたいと思うようになっていた。


「そう、ですか。大変なことが色々あったんですね」


「そんな理由もあって、あいつの役に立ってやりたいというか? なんか放っておけないというか……分かるかな?」


「なにか分かるような気がします。危なっかしい感じして目が離せないみたいな」


「おまけに転んだらその場でわんわん泣き出しそうな気がするんだよな」


「あははっ、本人には言えませんね」


 和やかに談笑している間に、ナニィ達の歌が終わり、周囲から割れんばかりの拍手が起こった。

 ステージ上で、興奮しているのか頬を上気させたナニィがこちらに手を振っているのが見えたので、俺も手を挙げて応えた。

 いきなりアイドルなんて言われてナニィが上手くできるのか心配だったが、杞憂だったようだ。

 もちろん本職の四葉には劣るだろうがナニィは見目麗しい少女だ。

 多少問題があろうとも愛嬌で済まされるだろうし、客の本命はあくまで四葉なのでそこまで気にすることもないかもしれない。


「とりあえずは一安心ってところか」


 頭を悩ませる問題は依然として山積みではあるが目先の不安は解消されたのだ。

 胸を撫で下ろして一息つくと背伸びして肩をほぐした。

 天井を見上げるとステージ会場だけあって照明の数が多い。


「ん?」


 視界に映る天井に少し違和感を覚えて、凝視すれば照明がぐらついているのが見えた。

 それは今にも落ちそうなくらい危なげで……。

 ガチャンと金具が外れる幻聴が聞こえた気がした。

 照明が外れて重力に従い落ちていく……。


『もう一曲お願いします!!』


 真下には今まさにリハーサル中の四葉達がいる。

 その事実に自分の顔から血の気が抜けていくのを感じた。


「ナニィ!! 上だ、避けろぉおお!」


「えっ!?」


 叫びながら走り出すが間に合うような距離じゃない。

 ナニィも落下してくる照明に気づいたが、突然のことで固まってしまっていた。


「どきなさいっ!」


 その状況に対応できたのは意外にも横にいた四葉だった。

 呆然とするナニィをステージ上から突き飛ばす……。


「くそっ、間に合わねぇ!」


 俺は蹴り飛ばされたナニィを抱きとめるが、四葉までは手が届かない。

 落ちてきた照明が、顔を青ざめながら棒立ちになっている四葉に振りそそいだ。

 甲高い落下音が会場に鳴り響く……。


「四葉ちゃんっ!」


「あ、ああ!?」


 突然のアクシデントに騒然となる会場。

 阿鼻叫喚が渦巻き、あっという間に騒然となった。


「ムクロさん! 四葉ちゃんが!?」


「分かってる、助けに行くぞ」


 一番近くに居た俺達はステージをよじ登って落下物を取り除く。

 その下には傷だらけになって倒れている四葉が居て……。


「おい、四葉! しっかり……」


 しろと続ける前に倒れていた少女が目を開いて胸元を掴んでくる。


「静かに……そのまま聞きなさい」


 驚くよりも先にその豹変ぶりにたじろぐ。

 そんな俺に遠慮せずに小声で言い募る。


「いい? 出来るだけ人目につかないように舞台袖から私を医務室に運びなさい」


「あ、ああ……分かったが怪我はないのか?」


「……心配は無用よ。急ぎなさい」


 有無を言わせないその強い口調に俺達は黙って頷くしかない。

 四葉を静かに抱きかかえると舞台袖から出る。


「えっと医務室は……どっちだっけ?」


「あうぅ……すみません、私も分かりません」


 通路から左右に道が別れている、しかし俺達はここに来て間もないので医務室がどちらにあるのか分からない。


『神無さん! 医務室はこっちです。急いで!』


 そんな俺達の後ろから一人の少女が現れて右の通路を指し示した。

 黒いサングラスに白いマスク、その特徴は忘れるはずもない。


「白詰さん! 助かります」


 スタッフの一人である白詰の手慣れた案内で医務室へと辿り着くと、部屋に備え付けられているベッドに四葉を寝かしつける。

 しかし医務室には俺達4人以外の人影はなかった。


「駐在のお医者さんが一人いるはずなんですけど」


「くそっ、間が悪いな。医者を呼んでこないと……」


「いえ、好都合です。それよりも神無さん、誰か来る前に鍵をかけてくれますか?」


「あん?」


 俺が人を呼びに行こうとするが白詰さんが押し留めた。

 何故と言うよりも早く白詰さんは四葉に駆け寄ってその手を取る。

 ベッドに横になっていた四葉が、白詰をゆっくりと見た。


「ごめん、私……ヘマしちゃったわ」


「そんなこと……それよりも怪我は大丈夫なの?」


「この程度、大したことないわ。でも、ちょっと魔法は維持できないみたい……上手く誤魔化しといてくれるかしら?」


「うん、私に後は任せて……アリスちゃん!」


 ベッドで休んでいる少女は目を閉じて寝息を立て始めた。

 それと同時に白詰の髪が変色して金色へと変化し、身長が縮み始める。


「「ええっ!?」」


 驚きのあまり俺達の口から変な声が出る。

 白詰と名乗っていた少女がどんどん変化していき、かけていたサングラスとマスクを取っ払うと、そこにはベッドに眠る少女と瓜二つの外見になった。

 それは俺達もよく見知った少女でもある。


「よ、四葉ちゃん!? じゃ、じゃあベッドで寝てるのは四葉ちゃんじゃなくてアリスちゃんだったんですか!?」


「そういうことみたいだが……分からねぇ、何故そんなことを?」


 察するについ今まで二人は魔法を使って入れ替わっていたということなのだが、果たしてそれにどんなメリットがあったのだろうか?


「すみません、後で必ず説明しますから。だからまずその前に神無さん、少し後ろを向いててもらえませんか?」


「どういうことだ?」


「今から着替えますので」


 四葉はそう言って眠っているアリスを指差したのだった。


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