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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第二章 日輪を支えし歌姫
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29話 セキュリティ

 警察署を出て、黒部が運転する車に揺られること数十分、俺は窓から流れていく外の景色を眺めていた。やはり、島だけあって一面に青い海が広がっている。砂浜には釣りや散歩などを楽しむ人に溢れ、夏シーズンになれば海水浴するにも適していそうだ。


「坊主、さっきは悪かったな。偉そうなこと言っておいて俺の目は節穴だったみてぇだ」


 黒部が運転しながら助手席に座っている俺に話しかけてくる。


「ごめんで済んだら警察はいりませんよ?」


「それを刑事である俺に言っちまうかね」


 皮肉で答える俺に、まあその通りだけどよと笑いながら言って黒部はハンドルを右に切った。

 カーブを曲がってぐっと身体を引っ張られる感覚に襲われながらも、俺は気になったことを聞くことにする。


「……1つ、教えて欲しいことがあります。それで水に流しますよ」


「何だ? 言ってみろ」


「この島のセキュリティがどうなってるのか教えてもらえませんか?」


 そもそもこの島に来たのは招待状を受け取ったからなのだ。いきなりハプニングに見舞われてしまったが、折角現地の刑事と話が出来る機会を得ることができたのに棒に振るのはあまりにも勿体ない。


「随分、妙なこと聞くんだな? まあ調べればすぐ分かると思うし、別にいいが」


 高校生が聞くような話題ではないのか黒部が訝しむが、世間話と受け取ったのかそう答える。


「さて、何から話すか……そうだな、ずっと昔の話になるがこの星見ヶ原分島が元々は本島の一部だったことについては知ってるな?」


「水位の上昇とか諸々の事情で標高の低い場所が海水に浸かるようになったから切り離された……でしたよね?」


「そそ、んでその頃から始まったのが響渡祭(ひびとまつり)だ。お前もこの時期に分島にいるってことはそっちが目当てなんだろ? GW期間を利用した地元の音楽祭で昔は本島にいる連中に聞こえるぐらいに大はしゃぎするだけの祭りだったんだが、最近じゃあ有名どころのバンドなんかも招集して一大音楽祭みたいになっちまったんだから世の中分からんもんだな」


 昔を懐かしむように黒部が遠い目をして目を細めた。


「俺がお前らをさっさと取り押さえたのも響渡祭(ひびとまつり)のせいで警察がぴりぴりしてるってのもある。この時期はどうしても、頭の湧いた奴が出る」


「なるほど、そういう事情があって……」


「まあ本当はもう一つ事情があるんだが、それは向こうについてから話した方が手っ取り早いだろうからな」


 黒部がどこなく言いづらそうな様子になったので、それを不思議に思いつつ話題を変えることにした。


「そういえば、黒部さんは何で船に乗ってたんですか? もしかしたらそれも警備の一環で?」


 何往復もする船の上を警備しなければいけないのだとしたらそれはとても大変だと思ったが、黒部は首を横に振った。


「はは、いくらなんでも定期船にデカが乗り込むとかはねえよ。俺は本島の出身でこっちには単身赴任で来てるんだが、休みに家族の顔見に行って着替えとか諸々持って帰る途中だったんだわ」


 なるほど、運悪く乗り合ってた警官にしょっぴかれた訳か。色々とついてないなと嘆息をつく。


「さて、話をまとめると今この分島は響渡祭(ひびとまつり)の準備で警備が厳重。出入りは本島からの定期船を経由する必要があって持ち物検査とか受ける必要がある。不審人物は全員しょっぴく警察の威信にかけてってやつだな、だからお前達は安心して楽しんでくるといい。それでこそ俺達の仕事にも価値があるってもんだ」


 警備体制は万全であることを念押しするように黒部が胸を張った。


「まあ、後は干潮の時に出てくるあの道だが……」


「ああ、あの潮が引いたら出るっていう」


「海ってのは月の引力とかの影響で1日に2回ずつ満潮と干潮を繰返す。動力がなかったころの船はこの満潮を利用して港に入り、干潮と共に港を出たことから潮時なんて言ったりした訳だが、星見ヶ原とこの分島を繋ぐ道は満潮の時は海につかり干潮の時は姿を現すから地元民はモーゼ海道なんて呼んでるな」


 どこからモーゼの十戒が出てきたのかは分からないが、まあ海が割れるからってだけで安直な誰かが言い出したんだろうなと俺は推測した。


「こっちは通行禁止になってるから歩いてきたら見咎められるし、陽が落ちてからだと暗すぎてとても渡り切れねえからな。警備とかはしてないけど、まあ心配する必要はねえだろ」


「なるほど。大体分かりました。ありがとうございます」


 イベント期間中だけあってやっぱり警備は厳重なのかと思うが、何が起こるか分からない。相手はある意味何でもありの候補者(プリンセス)なのだ。決して油断は出来ない。


「いいってことよ。それよりも、ようやく着いたぜ? ここが目的地だ」


 キィと車がブレーキを踏んで止まる。黒部が指差した先には有栖院芸能プロダクションとでかい看板が掲げられていた。


「……はぁ?」


 その看板を見た時に思わず声が漏れる。有栖院芸能プロダクションはその筋では有名で、多くの歌手や芸能人などを排出している超大手だ。なんだってこんなところにきたんだ?


「ほら、突っ立ってないで着いてこい。用があるのは中だ」


「あ、ちょ、待ってくださいよ」


 指をクイっと室内に向けると、黒部は自動ドアをくぐって中に入って行く。

 俺は慌てて、黒部の背中を追った。

 全く、一体何だって言うんだ?


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