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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第一章 白銀の忘却姫
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1話 路傍の石

挿絵(By みてみん)





 晴れ舞台……そう聞くと人はどんなイメージを抱くだろうか?

 スポーツの大会、音楽の発表会……あるいは女の子なら結婚式、綺麗なドレスに身を包む自分を想像するのかもしれない。

 そんな物を持ってる人が素直に羨ましい。でも、それはきっと私には縁がないものなのだ。

 私はただ、目の前にそびえたつ巨大な扉を見上げた。

 王家の紋章である6枚羽の王冠が彫刻されたその扉は神々しく、私には仰々しいように感じて重圧となって心に重くのしかかる。

 

「どうしましたナニィ? 顔色が優れないようですが?」


 鈴の音のように綺麗で澄んだ声、隣に立っていた姉が気遣うように覗き込んでくる。


「あっ……エミィ姉様」


 私の顔を覗き込むその美しい青眼からは深い知性と品性が宿っている。

 姉は妹の私から見ても完璧だった。

 気品に溢れた見目麗しい立ち姿、均整の取れたスラッとした長身に、艶の良い銀髪を背中まで流す。編み込まれた髪が特徴的に映える。多くの人を魅了して、その心を、その視線を釘付けにする天性のカリスマを感じずにはいられない。

 私は慌てて丸まりほうだった背筋を伸ばす。


「体調は大丈夫なんです、ただこれからなんだなぁと思うと気後れしてしまって……エミィ姉様は怖くないですか?」


 そうですねぇとエミィ姉様は編み込んだ白銀の髪を細い指で撫でる。

 その仕草一つにすら色気が漂う。


「緊張はあります。ですが、これも王族の務めですから」


 凛とした迷いのない回答には王族の責務と自信が漂っている。

 その覚悟に私はただかっこういいなあと憧れの視線を送った。


「……ナニィ姉は緊張しすぎ、適当にやり過ごせばいいのに」


「あははっ、ネミィちゃんは普段通りだなぁ……」


 適度な緊張を保つエミィ姉様と対照的に、肩の力を抜くどころか緩みまくってるのは末妹のネミィだ。

 常時マイペースを崩さない妹は、ふわふわの特注枕に顔を埋めて今にも夢の世界へと旅立ちそうな様子で目を細めていた。

 確かに今日は気温も暖かく良い天気、何もなければ昼寝していてるくらい陽気なので無理もないかもしれない。

 

「ネミィ……流石に緩みすぎですよ。今日は我が国の命運を分ける日なのですから」


「ナニィ姉助けて? エミィ姉がお説教してくる」


 エミィ姉様が注意しようとするが、ネミィちゃんはその手をスルっと躱して私の背に逃げ込んでくる。


「まぁまぁエミィ姉様。もうすぐ呼ばれると思いますし、ね?」


「まったくネミィは困ったことがあるとすぐナニィを盾にして……王族の者がそんなことではいけませんよ?」


「えへへー、ごめんねー」


 エミィ姉様も、毒気を抜かれたのか小言で済ませた。

 ペロッと舌を出すネミィちゃんに反省する様子はないみたいなのだけれども……。

 そんな他愛のない会話が続けばいいのに、無情にもその時はやってくる。


『姫殿下のおなーりー』


 私達の耳に扉の向こうから兵士達の先触れが響く。


「やれやれようやくですか」


「ん、なんかえらい手間取ってたねー」


 兵士の声を聞いて、二人が扉の前に立つ。

 慌てて私も姉妹の隣に並び立つと、扉がゆっくりと開かれて玉座の間が姿を現した。

 左右に居並ぶ大臣や将軍達が列を作ってこちらを待ち構えている。

 その数多の視線が私たちへと突き刺さった。


「さて、準備はいいですね?」


「……さくっと済ませちゃおー」


 エミィ姉様の問いかけにネミィちゃんはコクリと頷いた。

 二人にとってこの程度に注目は日常茶飯事……私は人の目はちょっと怖いけど、エミィ姉様の前で恥ずかしいところは見せたくないし、ネミィちゃんにも姉としての威厳を少しでも示したい。


「だ、大丈夫ですっ!」


 震えた唇が紡ぎ出した言葉は、我ながら全然大丈夫ではなかったがここで立ち止まっている訳にはいかない。

 エミィ姉様が最初に入り、続いてネミィちゃんが、そして二人の後を追うように私が最後に玉座の間へと入ると、扉が重い音を立てて閉まった。


 もう後戻りはできない。


 ここから続くのは試練への道。


 これから始まるのは世界の女王を決めるため、各国の候補者が競い合う女王選抜試練。


 通称【プリンセスセレクション】と呼ばれる儀式が始まるのだ。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




『どんな人間であろうと自分の人生では誰もが主人公である』


 昔の偉い人……ぶっちゃけ私たちのご先祖様である初代女王の言葉らしいが、私はこの言葉が好きになれない。

 主人公というのは誰からも愛されるキラキラした人間を指す言葉だ。

 何の才能もない凡庸な人間に、大役が務まるはずもない。

 誰しも輝きたい訳じゃないし、私のようにそっとしておいてほしい人間だって存在するのだ。


「でも、不参加って訳にもいきそうにないなぁ……」


 内心で愚痴る。そもそも何故私のような日陰者が、この戦いに参加するのかというと、別に私が特別に強いからじゃないし、何か特殊な技能がある訳でもない。

 ただ、生まれた場所がここ……ワロテリアという国で、生んでくれたのが女王だったというだけ。

 私がこの国の第2王女である。そしてそれだけが理由だった。

 被っていたヴェールを少し深くして、周囲の視線から隠れるように歩く。

 入り口から玉座までそれほど長い距離ではなかったはずだが、それは私にとってみれば無限の時間にも感じられるほどに長かった。


「……面を上げよ」


 ようやく絨毯の道を歩き終えると、頭上から威厳に満ち溢れた声が降ってきた。

 少し目線をあげれば王冠を乗せた白髪の女性が玉座に座っているのが分かる。

 私達のお母さまであり、この王国の女王。

 とても三人の娘を生んでいるとは思えないほど若作りで美しいが、厳格で当たりがきつく、私はそんなお母様が……苦手だった。


「お母様、ご機嫌麗しく。招集に従い参上いたしました」


「ネミィも来たよー」


 エミィ姉様の儀礼に沿った挨拶に続き、末妹のネミィが間延びする返答が返ってくる。

 その妹の不遜な態度にも関わらず、お母様は慈愛の視線を注いだ。


「……同じく参上しました」


 その瞳はしかし、私が口を開いた途端に冷めたものになる。

 ちらっとだけ私に視線を投げて、すぐに関心を失ったように姉妹達に向き直った。


(……私はやっぱり2人のおまけなのかな?)


 胸の奥が微かに痛む、期待されてないことなど百も承知だった、それでも無関心という刃が私の心を切り裂いていく。

 もしも私が2人のように優秀だったなら、あの柔らかな視線は私にも向けられていたのだろうか?

 そんな私の感傷など知らず、いや配慮もせず玉座の母は口を開いた。


「今日、お前たちを呼び立てたのは他でもない。本日をもって行われる女王選抜試練プリンセスセレクションについてだ」


 お母様は持っている杖を支えに立ち上がると、高らかに宣言する。


「これより、この大陸全土の覇権を賭けて執り行う試練が始まる。お前たちはこの試練に参加し、他の候補者(プリンセス)を打ち破り、女王の座を勝ち取ってみせよ」


 試練の勝利条件は至って明確、他の候補者(プリンセス)を蹴落として最後の一人になること。

 勝利した者には永遠の栄光が約束され、勝者を輩出した国も絶大な恩恵を受けることができる。

 どんな国でもこの女王選抜試練プリンセスセレクションにかける想い入れは強く、この国もまたその例外に漏れなかった。

 お母様が候補者(プリンセス)である私たちにあらゆる分野での英才教育を施すのは親である以前に、為政者として必要だったのだ。お母様は二人の姉妹を誇らしげに見つめて口上を続ける。


「エミィ。我が王立魔術学園を主席で卒業し、政治家としても目覚ましい活躍を示したその実力、期待しておるぞ」


「ありがとうございますお母様。ご期待に沿うよう頑張りますわ」


 エミィ姉様は華麗な仕草で一礼する。


「ネミィ。我が国の精兵さえ赤子のごとく捻るそなたの武勇を持ってすれば、他の候補者に遅れは取ることはないであろうが、油断だけは禁物であるぞ」


「……ま、その辺はてきとーに頑張る」


 妹はお母さまの前でも変わらず眠そうにしている、しかしそのねぼけた顔に反して妹の剣の腕は国でも随一の腕前を誇る最強の武人だ。

 不遜(ふそん)な態度を、余裕として受け取ったのか叱責(しっせき)することもなかった。


「エミィとネミィは試練開始後、速やかに合流して試練に当たるように、そして……ナニィ」


「は、はい」


「私は……お前には期待しておらぬ」


「っ!?」


 心臓を冷たい手で鷲掴みされたような衝撃。

 お母様の言葉が私の心を悲しみで締め付ける。

 心無い言葉にただ俯くことしかできない。


「ただ、試練に参加するにあたり、候補者(プリンセス)は強力なアイテムを1つ持ち込める。それをどちらかに渡し、速やかに帰還せよ……よいな?」


「……はい、心得ております。お母様」


 見下ろすお母様の言葉に頷くしかなかった……そう、私はこの世界に必要とされていない。

 皆が求めているのは賢明な姉と勇猛な妹。

 私は綺麗に咲き誇る姉妹の傍に生えてるだけの徒花(あだばな)だ。


「お前達には王家に伝わる三種の神器を与える、これらはどれも伝説級の秘宝であり、試練を勝ち抜くにあたって大きな助力となるであろう」


 お母様の号令に従って3つの品々が運び込まれてくる。

 長大な刃渡りがある、素人でも一目見れば分かるであろう業物の剣。

 神秘的な輝きを放つ魔鉱石で作られた鏡。

 最後にアレはなんだろうか? 今までの二つと明らかに違う薄汚れた硝子玉のようなものだ。


「では、私から選ばせていただきますね」


 エミィ姉様は3種の品々を手に取り、各品がどんな能力を持っているかを確認していたが、すぐに退場する予定の私には道具の使用方法なんて聞いていても仕方がない。

 ただ天井を眺めて時間を過ごした。


「分かりました。これを持っていきます」


 エミィ姉様は長い熟慮の末、魔鉱石の鏡を手にした。光を反射して綺麗に輝く鏡は、エミィ姉様にはよく似合っていた。


「……? ナニィ姉、先にいかないの?」


 エミィ姉様が戻ってきても、身動きしない私に妹は怪訝(けげん)な瞳を向ける。

 その曇りない無垢な瞳に、思わず苦笑した。

 きっと妹はエミィ姉様が先に取りに行ったから、次は私の番だろうと思ってくれている。

 でも期待されているのは私じゃないから妹より先に選ぶ訳にはいかないのだ。


「ううん、先にネミィちゃんが選んで」


「でも……」


「私は残ったものでいいから……ね?」


「……ん、じゃあこれで」


 私が微笑みかけると妹は頷いて、エミィ姉様とは対照的に、即断で剣を取って戻ってくる。


「やっぱり……ネミィちゃんには剣が似合うね」


「えへへ、ありがとー」


 大剣を引きずりながら戻ってくるネミィとすれ違う時にそっとささやけば、妹は照れたようにはにかんだ。

 最後に私が秘宝を安置していた場所に立つと、そこには硝子玉が入った箱が取り残されている。

 パッと見ただけでは何に使うかも全く想像できないただの石ころ、こんなものが一体何の役に立つんだろう?

 何の役にも立たない、見向きもされない路傍(ろぼう)の石。

 誰にも選ばれずに残った石ころが、綺麗に磨かれた魔鏡、荘厳な存在感を放つ魔剣。2人の至宝に比べてあまりにも惨めに思えて、この硝子玉が少し「私」に似ているように感じた。


「何を突っ立っている? さっさとそれを持って戻れ」


「ご、ごめんなさい」


 母の、いや女王の言葉に会場からクスクスと失笑が沸き立つ。

 涙をこらえて硝子玉の入った箱を抱えてそそくさと元の場所に戻る。


「っ!!」


「むぅ……」

 

 その途中、私の失態を嘲笑う声に、いつもは柔和な笑顔を浮かべるエミィ姉様の顔が憤怒に染まり、普段眠そうにしてるネミィちゃんが露骨に眉を歪めているのが見えた。


「二人ともごめんね? ありがとう」


 だが、こんな大事な祭典の途中に暴れてはエミィ姉様達の立場も悪くなってしまう。

 小声でお礼を言ってから元の場所に戻ると、二人もとりあえず体裁を繕ってくれた。

 私が犯した失態なので、反省しなければいけないはずなのに怒ってくれる姉妹を見て少し嬉しい気分になってしまう自分は少しだけ……性格が悪いのかもしれない。


「では行くがいい! 我が候補者(プリンセス)よ!」


 秘宝を選んだ私たちは、お母様の号令に従って転送の間へと移動する。

 試練のため、王宮に作られたこの部屋には、世界を渡るための巨大な鏡と魔方陣が設置されていて、時間が経てば試練が執り行われる会場へと送ってくれる仕組みらしい。

 この魔方陣はルールに違反した物を持ち込むと弾かれる仕様になっているそうなので、入る前にドレスの中に変な物が入ってないか見ておこう。


「……ナニィ姉」


 声を掛けられて振り向くと、そこにはネミィちゃんが立っていた。


「あれ? どうしたの? もうすぐ転送時間だよ」


 不思議に思って問いかけるが、ネミィは返事もせず飛びついてくる。


「ネミィちゃん?」


「ん、えっと……しばらく会えなくなっちゃうからナニィ姉を堪能しておこうと思って」


 小さな声で恥ずかしそうに呟く姿があまりにも可愛くて、ぎゅっと抱き締める。


「ふぅ、この大きさにこの弾力……やっぱり、ナニィ姉のおっぱい枕は至高」


 すりすりと頬をこすりつけてくる妹を、私は静かに引きはがしていた……妹は軍部に出入りしてる関係なのか、発言が時々おっさん臭い時がある。


「ん? なんで離れちゃうの?」


「自分の胸に聞くといいよ」


「ネミィの胸、まだまだ発展途上。でも、部隊のみんなそこがいいって言ってた」


「うん、後でその兵士の名前を教えてね? 全員処刑するから」


 なんてやつらだ、こんな幼い妹をどんな目で見ているのだろうか?

 私は姉としてこの愛くるしい妹を男の魔の手から守る責務がある。


「ナニィ、少しいいですか?」


 私がネミィとおしゃべりをしていると、背後から呼びかけられて飛び跳ねる。

 親しみを込めて私の名前を呼んでくれるのはこのお城には二人しかいない。

 一人は目の前で眠たげにしている、悪意とは無縁な妹のネミィ。そしてもう一人は……。


「エミィ姉様」


 柔和な笑みを浮かべるのは敬愛する姉、エミィ姉様だった。


「いよいよ始まりますね、女王選抜試験プリンセスセレクションが」


「私、応援してます。きっと勝てます! 私ってばエミィ姉様の妹なのが唯一の自慢なぐらいだし」


 あたふたする私は不意にぎゅっと抱き締められて、甘い花の香が私を包む。


「ごめんね? お母様を止められなくて、辛い思いをさせてしまいましたよね?」


「ううん、エミィ姉様が気にすることじゃないから。私は大丈夫だし、出来ることがなんにもないのも、本当だしね」


 そんな分かりきったことであるはずなのに、エミィ姉様はいつもやるせない顔をする。敬愛する姉様に申し訳なく思う反面、ほんのちょっぴり嬉しくもあった。


「もう少しの辛抱です。私は必ずこの女王選抜試練プリンセスセレクションを勝ち抜きます。そうすればもうお母さまを抑えることぐらいなんということもありません、その時は……3人で誰の目も気にすることなくお茶しましょう?」


「はい、私もまた、昔みたいにエミィ姉様とお茶したいです!」


「ネミィはエミィ姉の焼いたスコーンがいいなー」


「はいはい、その時はもちろんちゃんと作ってあげますよ」


 3人で顔を突き合わせて微笑む。

 子供の頃、姉様とよく過ごした城の庭園で、花に囲まれながらお茶ができるかと思うと心が躍った。


「……向こうに行ったら、その箱にかけた探知の魔法を辿ってすぐに駆け付けます。私が行くまで、待っていてください」


「あはは、心配しすぎだよ。これ持って隠れてるだけだし、ゆっくりでいいから」


 箱を開けて中にある硝子玉を見せるが、それでもエミィ姉様の不安げな顔は晴れることがなかった。


「もしも、アイテムを狙って他の参加者に襲われるような事態になったなら、それを相手に渡してでも逃げるんですよ? 約束……してくれますね?」


 身を案じてくれる姉の優しさに喜びを感じ、それと同時に悪戯心が沸き上がる。


「うーん、どうしよっかな?」


「ナニィ、私は……」


 なおも言い募ろうとするエミィお姉様の唇へ指を置いた。


「じゃあエミィ姉様も約束してください。必ずこの勝負を勝ち抜いて、私の姉様は世界で一番の、最高の姉様なんだってことを……私に証明してください」


 ドヤッと決めて見せた私の台詞に、お姉様には珍しくきょとんとした表情を見せて私の頭を撫で回した。


「ええ、任せておきなさい」


 余裕の笑顔を見せて、私たちは約束を交わした。


「ところでネミィ」


「ん? なーに?」


「貴方の持ってるそれ、何ですか?」


「何ってマクラだけど?」


 歯に衣着せぬもの言いにエミィ姉様の眉間(みけん)(しわ)が寄る。

 

「その枕、確か特注品のマジックアイテムではありませんでしたか?」


「そうだよー。世界に一つだけのネミィの枕なんだよ!」


 どう? すごいでしょ? そう言って自慢げに笑う妹の枕を、姉様は無言で取り上げた。


「ちょ!? エミィ姉何するの!? 返して、ネミィの枕返して!」


「ここに置いてきなさい。それ持ってると魔剣持っていけませんよ」


「えっ? そうなの?」


 初めて聞いたと言わんばかりに驚くネミィに、私は苦笑しつつも首肯する。

 残念ながら持ち込めるアイテムは1人につき1個だけだ。


「じゃ、この魔剣を置いていくという選択肢も、ある?」


「ないです。いいから置いていきなさい」


 ネミィが先ほどもらった大剣を近くにいた兵士に預けようとして、エミィ姉様が制止する。

 枕を悲しげに見つめ、この世の終わりを迎えたといわんばかりの表情で呆然とするネミィを(なぐさ)めていると、兵士の声が広間に木霊する。


「転送始まります!」


 その声が反響するのと同時に、鏡が輝き出す。


 どうやらいよいよ試練が始まるようだ。

 青色の光が満ちあふれ、広間を満たしていく。

 その光は近くに居たエミィ姉様とネミィちゃんも飲み込んで、すぐに私をも飲み込み始めた。

 転送の影響なのだろうか?

 意識がゆっくりと薄れていく。

 次に目が覚める時はきっと試練が開始されたときだろう。

 私は上手く自分の役目を果たせるだろうか?

 そう不安に思う気持ちもあったが、この時の私はあまり深刻には考えていなかった。


 そう、難しいことなんて何もないのだ。


 だって私の役目は姉妹の引き立て役、仕事は石ころをただ運ぶだけ。

 成功してもそれぐらい出来て当然と言われ、失敗しても期待なんてしてなかったと言われる。

 私は誰からも期待されてないし、見向きもされていない。

 それは当然のことだ。それは当たり前のことだ。ごく普通の日常に過ぎないと分かっている。それでも……。


「こんな私にも何かできること……あるかな?」


 もしも誰かの期待を、全力で成し遂げ、認められることが出来たなら。

 こんな私でも、胸を張って笑えるだろうか?

 心からの笑顔を誰かと分かち合えただろうか?

 姉と妹はきっと私のことを馬鹿にしないと思う。でも二人に並ぶ自分のみすぼらしさが拭いきれない。

 どんなに頑張っても私は姉妹には遠く及ばないのが分かっているから心のどこかで遠慮してしまう。


「いつか私も出会えるのかな? 一緒にいるだけで笑い合えるようなそんな人に」


 そんな益体のないことを夢想しながら、光に飲み込まれた私の意識は完全に闇に閉ざされるのだった。


 【主要キャラ紹介】


ナニィ

挿絵(By みてみん)


エミィ

挿絵(By みてみん)


ネミィ

挿絵(By みてみん)



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