モブの報告
報告いたします。
お嬢様は無事に編入を果たし、学園寮へと入られました。
奥様が金にモノを言わせて私と同室になりましたのでそこはバッチリ悪印象でございます。
成金万歳!な感じの服装と装飾で着飾りましたので見た目もバッチリ。
編入前に打ち合わせをした通りにお嬢様は『鼻持ちならない高慢な感じ』の雰囲気を頑張っていたのですが、やはりお嬢様はお嬢様でございました。
学園につきましたら季節外れの編入生だからと学園の案内をしていただけました。
案内をしてくださったのは見目麗しい方でした。ていうか、伯爵家のお坊ちゃんですねそうですね。
親切にも案内をすると笑顔で出迎えてくださったのですが、お嬢様は「案内をする暇があるなんて学園の程度がしれるわね」と厭味ったらしく鼻で笑われました。
お坊ちゃんの眉がピクリといたしましたので、不快に思われたのでしょう。
お嬢様、グッジョブです。と付き従いながら思いました。
表面上の不愉快さはそれくらいでして、その後の案内中はお嬢様の高慢な態度や口調にはあまり反応されず、終始笑顔で対応してくださいました。
けれど、お嬢様はお嬢様でございました。
案内の最後にとどめをさそうとなさったのでしょう。
笑顔の坊ちゃまに「その貼り付けたような笑みも気持ち悪い」とおっしゃいました。
悪態をついたつもりだったのでしょうが、それを聞いた彼は目を瞬かせると面白そうにニヤリとしたではありませんか!
お嬢様は気づかれてないようでしたが、どう考えても興味をもたれちゃいましたよ。これ。
お嬢様、それはフラグです!テンプレです!と、叫びたかったのですが飲み込みました。
これだけではございません。
学園での生活が始まって数日。
お嬢様の成金ぶりはよく出来上がっておりました。
良い具合に周りに嫌われ、金目当てにすり寄ってくる小物を貶めつつ、お嬢様の『悪役』計画は順調にも思われました。
ある日、私、お嬢様を見失ってしまったんです。
いえ、その、言い訳をさせていただきますとすり寄って来ていた小物にお嬢様との中を取り持つように迫られておりまして、うざかったんで沈めときましたがお嬢様と少しばかり離れてたんですよ。
でまあ、そいつのせいで見失ってしまったのです。
例えそれが演技であってもお嬢様が嫌われているのは事実。何があるか分かりません。
やっべぇまじやべぇと思いつつお嬢様をお探ししましたら学園裏の庭園にいらっしゃったのです。
見つかったことにホッとしたものの、どうやらどなたかと口論をなさっている様子。
気が付かれないようにそっと窺っていれば、お嬢様の平手がそのどなたかへとさく裂。
お嬢様もやりすぎたと思ったのかバツが悪そうにしながらも謝ることなく「そっちが悪い!」と相手を指さし、走り去りました。
お嬢様と合流して詳しく話をきけば、妖精様に綺麗な花があるからと連れられてきたら気障な男がいて、お嬢様を自分に告白しにきた女生徒だと勘違いをされて、迫ってきたので返り討ちにしたとの事。
「あんな軽い人なんて見たことない!」とお怒りでらっしゃいましたが、私はとても叫びたかったです。
フラグ回収オツ!…と。
また別の日のことでございます。
根っこが優しいお嬢様。そろそろ悪役のお面がはがれてまいりました。
おそらく本人的にはこっそりだとは思うのですが、庭園や花壇などで妖精様と戯れていらっしゃることがありまして、目撃情報がちらほらと…。
元からお嬢様は妖精の見える人として社交界では話題に上がる人でもありましたし、『妖精姫』などという呼び名もありますしね…。
だいたいこの学園に来た理由が妖精様のためなのです。そこからして根本的な何かが間違っていると思うのです。
もう無理せずヒロインでいいんじゃないですかね。悪役といったらお嬢様よりご子息様の方が似合うと思うんですよね。
あの迅速な手回し。有無を言わせない威圧感。刃向った相手には容赦のない攻撃!!
はっ!?殺気が!
ワタシナニモイッテナイヨー。ゴシソクサマスバラシイヒトネー。
話が脱線いたしました。申し訳ありません。
悪役が難しくなってきたころのことでしたね。
悪役の仮面が剥がれてきたお嬢様にご友人ができました。
最初は悩んでらっしゃいましたが、なんだかんだと楽しそうにしてらっしゃいましたので、これはこれで良かったと思います。
お嬢様の友好の輪が広がることは良いことです。
ええ、その輪の中にお嬢様が幼いころに出会っていた男の子がいようとも!
なんでもお屋敷の傍の森で何度か会っていたのだとか。
もう驚きませんよ!お嬢様でございますもの。フラグ回収ですね!
だいたいですね、ご子息様とは義理の兄妹ってだけでも王道なんですよ。
お嬢様は戦で焼かれた村に一人だけ精霊様に守られて生きていた。
そこに奥様と旦那様が通りかかって引き取った。
私は詳しい事情までは知りませんが、想像できない辛さがあるのだろうと思います。
けれど、だけれども。私は言いたいのです。
そういう生い立ちってだけでもう完璧なるヒロインですよ!!
悪役にはなれませんって!
案内役だった貴族の坊ちゃんは腹黒ですし。
勘違いの遊び人はところ構わずちょっかいかけてきますし。
幼馴染は変に執着してヤンデレ風味ですし。
ご子息様は相変わらずお嬢様にべた甘ですし。
奥様、旦那様。
私にはもう見守ることしかできません。
お嬢様「今日も『悪役』やるぞー!」
モブメイド「………おー」