大人の本音
「どうだいうちの子は」
「とてもお可愛らしい方ですわね!」
万感の思いを込めて言った。限りなく笑顔で。だって可愛いは正義。
人外レベルに顔が可愛い上に純粋無垢かつ深謀遠慮。完璧超人ってつまりこれ。要するに天使。
「どうだろう、あの話なんだが、受けてもらえるかな」
「─ええ、それはもちろんなのですが…最後に一つお聞かせ願えますか?」
「何かな」
「何故私だったのです?」
いくら友人の娘っつたって私まだ小5だし。そりゃあ傍に仕える人と信頼関係みたいなのを作るのは早い方がと思うけどこれは些か早すぎるんじゃないかと。
早いって言うか急いているって感じ。
答えが返ってこないあたり言いにくいことを聞いちゃったっぽい。ごめん。
「申し訳ありません、不躾でしたわね。
子供のしたことと思って平にご容赦ください」
「…いや、いい。聞いてくれ」
そしてフリージオ侯は何か言葉を探すように目を閉じた。
あの子は、天才なんだよ、
それがようやくフリージオ侯の口から出た言葉だった。誇らしげな色はあるけれど素直にそれを表に出していいのかどうかわからないといった感じ。
フリージオ侯爵家は、王宮の書類管理を任される彼自身を含め有能な人間の産地だが、それは努力と根性みたいな体育会系な思考回路に裏打ちされた能力だ。
「私はあの子の言っていることが理解できない。何を考えているのか理解できない」
あの子の見ているものが、何か自分と違うように思えてならない。
自分より遥かに年下なはずの人間に思考回路が追い抜かされる感覚。恐怖にも似たそれを、自分の娘に感じるのは一体どんな気分だろう。
私には想像することしかできない。
「たとえばそれを理解したとしよう。時間が空いたときにでも考えて、仮にそれを理解することができたとしよう。
でもその時にはもうリディアは別の思考にたどりついているんだよ」
アキレスは亀に追いつけないということだろうか。4歳の幼女相手に哲学理論を強いられているのは哀れを通り越して滑稽ですらある。
…うん?でも相手の進む速度のが速いんだからアキレスと亀じゃないのか?まあいいや。
最初にご無礼をしてしまったのだからついでに聞いておこう。所詮子供のしたことだ、で済ませてもらえるうちはそれに頼るにつきる。
「それは娘さんが怖いということですか?」
「こわ、…いや、怖いというか…
可哀想、なんだ。一番近しいはずの私たちにすら理解されないあの子が可哀想でならないし──理解してやれない自分たちが不甲斐ない」
理解するための努力を怠っているというわけではなく、努力より天賦の才が遥かに先行しているというだけの話。
「だから君なんだ」
「私ですか」
「少しでもあの子の考えを理解してくれる可能性の大きな人間がいい。天賦の才を持っている人間がいい。
理解されないままじゃあの子はいずれ一人になる。少しでもあの子の言ってることを理解して、側にいてくれる人間が欲しい」
私が持ってる“天賦の才”は反則技だけど、それはお口チャックですよね。
ゲーム内でリディア嬢の根性がねじ曲がったのは努力しても隠匿しても愛されることがなかったからみたいな設定だったけれど、この状況から鑑みるにそれはやはりどうも間違いらしい。
フリージオ侯はこれ以上なくリディア嬢を愛しているし、それはわりと絶え間なく注がれているようだ。当事者と部外者じゃこんなに認識に差が出る。
まあそれはおいておこう。
とりあえずは二つ目の問いに対して正式な返事をせねばなるまいよ。
「過分にもお褒めいただき恐縮次第もございません。
まだまだ若輩者の身ではございますが、リディア=アントワーヌ様に今後より良い人生を送っていただけるよう、僅かながら尽力させていただきます」
自分にできる渾身の礼。
よっしゃ働くぜ!まってろ麗しのお嬢様育成ライフ!最初の目的と取り違えてる?知らんな!