天使の心中
「え……」
「お嫌ですか?」
部屋の、天蓋付きのベッドの上。積み重なったぬいぐるみの下敷きになるようにして、一冊の本が押し込まれているのを私の目は見逃しませんでした。
まるで隠しているみたいに。あれたぶん魔法系の学問書。私も小学校で同じの使った記憶ある。
「…いや、じゃ……ないけれど」
「ならよかった」
「……あなたは、いやじゃ……ないの?」
「何故です?」
リディア嬢は、大きな碧の目を瞬かせた。それから、何か言葉を探すように言いよどむ。
少し間があいて、やがて小さいピンクの唇が言葉をこぼした。
「……だって」
「はい」
「…だって、おべんきょうがすきなんておかしいでしょう」
そうだろうか。
いや前世の私だったらそれこそ勉強好きとか頭おかしーんじゃねぇの!とか言ってたけど、転生してからこっち勉強するの楽しすぎてつらい。主に魔法。魔法系。魔力とか精霊とか楽しすぎる。
「ふつうのこは、おにんぎょうであそんだり、おようふくをみつ、……みつくろったり?するのでしょう?」
「……」
「わたしがふつうのこじゃないと、おとうさまもおかあさまもかわいそうじゃない」
「……可哀想」
「かわいそう。
おねえさまはふつうのこだったのにって、みんないってるわ」
誰だそんなことほざきやがったゴミは。あれか、使用人とかか。
いや余所様のお家のことに口突っ込むのは好きじゃないけどこれはちょっとクズ過ぎるだろう。
「それは、お父様やお母様が?」
「ううん、おてつだいしてくれてるひとたち。
でもきっと、おとうさまもおかあさまもそうおもってる」
この家の使用人は1から教育を受け直した方が良いと思う。こんな状況のなかで育ったらそりゃ誰だってグレるわ。私だったら家に火をつけていたかも知れん。
ゲーム内でリディアは『私はどれだけ頑張っても愛されなかったのに何で貴方は愛されるの!私より何もできないくせに!私に比べたら遥かに劣っているくせに!』と絶叫した。美麗なスチルと中の人の熱演によりかなり凄惨なシーンになっている。
プレイしてた私はそのシーンを画面の外側から見て『うわぁお嬢様すげぇテンプレ出たよ愛されたいキャラ|(笑)』とか言っていたけれどこれは。
……これは。
普通の幼子じゃないと愛されない、だから本当にやりたいことは隠れて一人でやっていた。なのに両親は自分との時間を殆ど作ってくれない。別にそれは愛してないとかそういうことじゃないんだけど、その微妙なニュアンスをいくら聡いとはいえ4歳の子に理解しろというのはあまりにハードルが高すぎるだろう。
小さい子は、両親とのふれあいの中でたくさんのことを学ぶべきだ。特に愛情とか、愛情とか、愛情とか。それは貴族だとかそういう括りにとらわれず全人類に共通してしかるべきことだと思う。
うん。
えっと。
「あら、お勉強が好きなのはおかしなことですか?
……それなら私も普通じゃない子、ですね」
ちょっと首を傾げて笑いかけてみたら、リディア嬢はただでさえ大きな碧の目をさらに大きく見開いた。
うちの兄貴もかなり普通の人だからな!能力値とかの話じゃなくて趣味とか普段の行動とかが!
「私はリディア様くらいの歳の頃、もうずっと本を読んでいましたよ。
朝から晩まで」
「……そうなの?」
「ええ。特にね、魔法の本を読むのが好きだったんです」
お揃いですね。
魔法の教科書。あれ中身面白いし挿絵綺麗だし超興奮する。
服とかは全部母様が用意してくれたし、欲しがった学問書は父様が買ってくれた。兄貴に言ったら何お前みたいな目で見られたけどな!
そう考えると私の家ってすごく恵まれてた、のかも?
「リディア様、それでリディア様は本当は、何がなさりたいですか?」