私みーつ天使
案内された部屋に出迎えてくれた子を見て思ったこと。
あ、私死ぬかも。
これに尽きる。
ざっくり言えば幼きお嬢様の可愛らしさが悶絶級。ちょっと本気で息が止まるかと思った。
美少女……美幼女?とかそういうレベルを軽く飛び越していた。もはや天使。もはや妖精。この子を美少女と形容するなら世界に美少女は片手で握れるくらいの人数しかいないと思う。
「おとうさま!あ、れ…?
あなた、だぁれ?……あっ、もしかしてリディとあそんでくれるひと!?」
は い 撃 ち 抜 か れ た 。
ふわふわウェーブのピンクっぽい金髪を揺らして首を傾げた天使は訝しげに眉をひそめ、しかし次の瞬間ぱぁと花が開くように笑った。もうね、なんかね、ほんとにね、まさに天使の微笑み。これは確実に犯罪誘発する。
「はじめまして、リディア嬢。
イルニアルカ・アイリアです」
何て言うか、記憶が戻ってからこっち感情を表に出して子供らしく振る舞うことに照れというか抵抗を感じていたんだけど、このときばかりは全力で微笑んだ。
たぶん今の成人してたら完全にアウトの部類の顔。前世だったら確実に職質コース。
「! ………えっと、リディ、……わたくしは、リディア=アントワーヌ・フェイトルナ・フリージオですわ!」
可愛らしく淑女の礼を決めて見せ、はにかむように笑ったお嬢様はもう世界の宝に認定されるべきだと思う。
「イルニアルカはリディとあそんでくれるの?」
「ええ、今日は短いお時間しかございませんが」
「ほんとう?うれしい!」
両手を合わせて発言通り嬉しそうに染めるリディア嬢は直視できない程可愛かった。一人だったら頭振り回してる。
「じゃあイリア、私は少々外すよ。
また迎えにくる」
「承りましたわ」
今まで私の背後で会合の始終を静観していたフリージオ侯は、そう言って部屋の前から去っていった。お忙しいのかしらね何てったって大貴族の御当主様ですし。
去っていくお父さんの背中を見送るリディア嬢の顔はすごく寂しそうですごく庇護欲をそそられる感じになっていた。
やめろうずくな私の右手……!まだほぼ初対面なのに手ぇ出したら犯罪者街道まっしぐらだよ……!
「……うん、しかたない、うん、おとうさまはおいそがしいから、しかたない、さみしくない、だいじょうぶ」
ちっさく聞こえてきたリディア嬢の独り言に胸がきゅうってなった。体的にはまだ11歳だっていうのに母性本能を刺激されることこの上ない。
「イルニアルカ、」
「長いでしょう。イリアで結構ですよ」
「そう、じゃあイリア!なにしてあそびましょうか!」
うつむいていたリディア嬢が顔をあげる。再び笑ったその顔に、寂しさは残滓も残っていない。
………まだ4歳なのに。この幼少期の結果があの様とか、同情せざるをえないというか哀れまざるをえないというか。
「リディア様は何をなさりたいですか?」
「わたし?」
「ええ」
「うーん……」
腕を考えて悩むリディア嬢を微笑ましく眺めつつ、部屋の中を見渡す。ピンクと白で作られた、子供らしさを象徴するような可愛らしい部屋だ。
うさぎやくまのぬいぐるみがあって、オシャレな鏡があって、絵本があって、勿論天蓋付きのベッドもある。
…………あれ。
何だあれ。
「イリア、」
「リディア様」
「…なぁに?」
何か思いついたように声をあげたリディア嬢を遮っちゃった実にごめん。
いやでもこれは言っておかねばと思って。
「……もしリディア様がよろしければ、魔法のお勉強などいかがですか?」