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Next Gate  作者: 青絨毯
3/3

出逢い

赤い 紅い 朱い


空は炎に焦がされ、日が沈みかけているというのに辺りを明るく照らし、その炎に照らされた大地は紅く染まっていた。


村人たちの流した血によって。


「……!」


声にならない。


見渡す限りに存在する村人たちの無残な亡骸。腕が千切れた者、腹部に穴を穿たれた者、頭部だけになった者。損壊箇所は違えど、皆、死んでいる。


何十、何百という人間が死んでいる。


今、私の目の前で。


グルルルルル……!


無数の亡骸を産み出しし者が、死体の上を闊歩していた。


その姿は生きてきて、一度も見たことも聞いたこともない姿をしていた。


虫の複眼のように集まっている六つの眼、鋭い爪を持つ四本の腕、不気味に開く巨大な口、長い体毛に覆われた巨体


その生物を体現するには、こう呼ぶしかなかった。


「ば…化け物……!」


ギロッ!


声を振り絞った瞬間、化け物の六つの眼が私を捉えた。


その化け物に反応してか、どこからともなく他の化け物が集まってくる。その数、十匹。


この十匹の化け物に村人たちは惨たらしく殺されたのだ。


「逃げなきゃ……!」


ズズズッ…!


化け物たちは腕を使いながら、その巨体を引きずるように迫ってくる。


「いや…!来ないで……!」


足に力が入らない。立つことができない。


恐怖に支配された私はその場から逃走を図ることが出来ないでいた。


そうこうしている間に、化け物たちは距離を縮めていく。


(嘘…私……死ぬんだ……。)


徐々に、だが確実に死が迫ってくる。


(ごめんなさい…パパ…ママ…お兄ちゃん……。)


絶望に打ちひしがれるしかない。


懺悔の言葉しか浮かんでこない。


自分勝手に行動し、何もすることが出来ず、独りでに死んでいく。


それのなんと惨めなことか。


(ごめんなさい……。)


涙が止まらない。


化け物の巨体が目前にまで迫る。


絶望に染まったその瞬間


「エレナ!!」


誰かが手を引っ張り、走り出した。


動かなかった足も、その人物の走りにつられて、動き出す。


前を見ると、よく知っている人物の背中がそこにあった。


「パパ!!!」


「エレナ、お前って子は本当に……!パパを迎えに来てくれたのか!?」


「ごめんなさいパパ…私、どうしてもパパがしんぱ」


「ありがとう。」


「え?」


予想だにしない返事だった。


父の言いつけを破り、身勝手に死にかけていた娘に対してありがとうと言ったのだ。


なぜ、そのようなことを言うのか、私には理解ができなかった。


「お前は本当に優しい子だ。大切なもののためなら、喜んで自分を差し出してしまう。その優しさが、パパは大好きだ。」


「けどな、その優しさが時には人を困らせることもある。それだけは忘れないでくれ。」


「うん……。」


「本当にエレナが無事でよかった。」


パパの言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。自分はなんと愚かな行動をしたのだろうか。


しかし、パパの生存を確認出来て、心から安堵しているのもまた事実。


そう、大好きなパパがまだ生きていたのだ。


「よかった…本当に良かった……!」


私の頬を涙が伝う。それは先ほどまでの恐怖からの涙ではなく、安心したが故の涙であった。


「だが、すまない。パパが広場に着いたころには既にあの有様だった。無力なパパを許してくれ……。」


本当に悔しそうな顔でパパが言う。あの亡骸の中には、私たちがお世話になった、仲よくしていた人々の姿が見受けられた。


昨日までは平和に暮らしていたのに、その平和を僅か数分で崩されたのだ。


あの得体の知れない化け物に。


「ママの所に帰ろう。」


「うん…。」


私たちは森を駆け抜けた。


一目散に、ママの待つ場所へ。暖かな我が家へ。






だが、そんな暖かい場所も奴らにとっては、ただの破壊対象でしかなかった。


燃え盛る我が家、その家を眺めるかのように存在する化け物。


そしてその家の前に倒れる一人の女性。


「テスリアアアアッッ!!!」


今まで聞いたことのないパパの絶叫が木霊する。


表情が一瞬にして憤怒の表情へと変貌する。


「殺してやる…!!」


「そんな…ママ……。」


グルルルルル…!


化け物は唸り声を上げている。その声が私の耳には、まるで私たちを嘲笑っているかのように聞こえた。


ガサッ


背後で物音がした。


「エレナっ!!」


ドンッ!


「え?」


振り返る間もなくパパに突き飛ばされた。


「痛っ…どうしたのパ…」


「パ?」


信じられなかった。


ついさっきまで隣にいたパパが


あんなに怒りをあらわにしていたパパが


貫かれている


化け物の腕に貫かれている


「パパッ!!!」


「こいつ…いつの間に……さっきまでは…いなかったはず……。」


化け物が現れた状況は明らかに以上だった。


あの巨体を、ましてや引きずりながら移動しているなら、もっと物音がしたはず。


しかし、耳に届いたのは私に襲い掛かる瞬間に触れた枝の音のみ


まるで、一切、移動せずに突然、そこに湧いたような……


「エ…エレナ…に…げろ……。」


パパは胸の中心を貫かれ、そこから血が噴き出している。


きっと耐え難い激痛だろう。


しかし、パパは力を振り絞り言葉を発し続ける。


「おまえ…は…死ぬ……な…!」


「い…き…ろ……。」


「生きる…んだ……!!」


死ぬわけにはいかない。


そう決意した。


パパが、ママが、そう望むなら


私は絶対に生きてやる。


死んでやるものか!!


次の瞬間には私は走り出していた。


ゆく当てもなく、ただ己の足の赴くままに。


「ハッ…!ハッ……!!」


どのぐらい走っただろうか。


ただがむしゃらに走った。


肺がまともに酸素を吸いこめない。


足は鉛のように重く、言うことを聞いてくれない。


だが涙だけは、未だに止めどなく溢れてくる。


「パパ…ママ…みんな……。」


どうしてこんなことになってしまったのだろう。


神様…私が何か悪いことをしましたか?


「どうして…こんなことに……。」


深い森の中、私はただその場に蹲り、泣くことしかできなかった。


「おい。」


「え…?」


突如、森の奥から誰かの声がした。男の人の声だ。


「誰…?まだ誰か生きてるの?」


「おい、誰か聞こえねぇのか!?」


「待って!聞こえてる!聞こえてるよ!」


「ちっ…この世界もハズレか。」


(私の声が聞こえてない?)


当てもない私は重たい足を引きずり、声のする方へと歩みだした。


「はぁ…次の世界行くかぁ…。」


声は間違いなくこの辺りから聞こえる。


しかし、声の主の姿が見えない。


あるものといえば、不可解に刺さった地面の一本の剣のみ。


その剣は森の中にあるにはあまりに不自然なほど、美しい装飾が施された柄が紅い剣であった。


「どこ?どこにいるの?」


「…!誰かいるのか!?」


「まさか…ねぇ。」


「おい!そこにいるんだろ!?俺の声が聞こえるんだろ!?」


「聞こえるけど…あなた、剣なの?」


「まぁ、そうだな。しかし、やっと俺の声が聞こえる奴が現れた!」


目の前の剣は意気揚々と喋っている。


剣と会話する日が来るとは、まさか夢にも思わなかった。


「おい、とりあえず、俺を抜いてくれ!話はそこからだ!」


「抜けば…いいの?」


「あぁ!そうだ!」


「あなたってさ…強い?」


「は?」


「得体の知れない化け物を倒せるぐらい強い?」


今の私には、もうすがれるものはこの剣しかなかった。


「……なにやら訳ありみたいだな。」


「…うん、実は……。」


私は包み隠さず全てを話した。村の惨状、化け物の存在、そして…家族が殺されたことも。


「…話はわかった。」


先ほどとは打って変わって、剣は静かに話し始めた。


「とりあえず、俺を抜け。あとは俺が何とかしてやる。」


「本当…?」


「あぁ、約束してやる。」


「わかった。じゃあ、抜くね…。」


「待て。」


「?」


「その前にお前の願いを言え。」


「願い?」


「そうだ。お前が今、心の底から願っていること。一番叶えたいことを言え。」


一番の願い、そんなものはもう決まっている。


私は剣を手に取り


「返して…!みんなを…!私の日常を!!」


一気に引き抜いた。

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