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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

本部百葉短編集

枯れ枝の季節

作者: 本部百葉

この構成の仕方は始めて……だからなんだってのか。

 冬も終わりに近づいてきたある日。私の通う学園の中庭におかれているベンチでのこと。

 もうすぐに彼女ーー私の先輩、私の心の一番を占める人の卒業式が近づいていた。

 この悲しさと寂しさと。果たしてそれが恋心なのか、それとももっと別の何かか。私にはそれがわからずにいる。

 鐘の音が一つなって、木枯らしが強く吹く。学園の中心にある大きな桜の木、その葉の散った枝が、ガサガサと音を立てて揺れる。

 ーーそれはきっと、あの桜のようなものよ。

 彼女の言葉が思い出されて、胸をずきりと痛める。

 思いを告げたのは、まだ桜の花が咲いていた頃。舞い落ちる花びらと輝く陽気が自分を祝福してくれるような、そんな自惚れをよく覚えている。

 ーー入学したての頃、その壮大さと美しさに圧倒されて……。でも桜が咲いているのはほんの少しの間だけ。夏に葉がなって、秋に紅葉しても、冬には何も残らない……そういうものだと思うの。

 詩的というか、なんというか。こういうわかりにくい比喩をよく使う人だった。

 実際に言いたいことを理解できたかはわからないけれど、彼女はその言葉以降、私の目をまっすぐに見てはくれなくなったように思える。

 また木枯らしが吹く。私の目に涙が浮かんだのはきっとそのせいだろう。

 枯れ枝に小鳥が止まって、小さく鳴いた。そこに何があるのか、ぜひ教えて欲しいものだ。そうすれば私の気持ちにも答えが出るだろうから。

 ……この気持ちが恋心なのかどうか、私にはわからない。しかし、私の桜がすでに枯れていたとしても、またすぐに花びらを咲かせるのだとしても、どうかと願わずにはいられない。

 彼女への思いで咲いた花。それを携えてくれていただろう枯れ枝に、どうかまだ、新たな花が咲きませんように。この悲しさを、寂しさを、今しばらく忘れませんように。

 がさがさと枯れ枝が揺れる。小鳥は何処かに飛び去る。

 鐘の音が鳴って、また一つ時間がすぎたのを私に伝えた。

好き嫌い別れそうだなぁ、とは思ったり。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 失恋の傷みを「新しい恋で早く忘れたい、立ち直りたい」ではなく、むしろその悲痛さを持ち続けようとする態度に、語り手の純粋さや誠実さが感じられます。 想いの対象である先輩が最後まで姿を現さず…
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