邪魔が入る
部屋は既に暗くしてあった。
いつの間にかカーテンも引かれている。
その暗がりで伸弘はテレビをつけ、スポーツニュースを見ていた。まるで家にいてくつろいでいるかのようだった。伸弘にとっては、女の子とベッドインすることって、そんなに重要じゃないのかもしれない、なんて考えた。
伸弘は、そんなことを瑠璃が考えているなどと知らずに、パッと笑顔を向ける。瑠璃を誘うように、ベッドの毛布をまくり上げ、どうぞとジェスチャーで示す。
そこへ瑠璃が腰かけると同時にテレビが消され、部屋が真っ暗になった。
突然、闇の中へ放り込まれたようで、目が眩んだ。
そんな瑠璃の肩に手をかけ、伸弘はバスローブをするりと外し、ベッドに横たわらせた。それがあまりにもスムーズで手慣れているような気がした。
それなりにスマートで気の利く優しい人だから、瑠璃の前に何人かとこういう関係でいたのだろう。それにしても慣れ過ぎている、と感じていた。
伸弘も自分のローブを脱ぎ、瑠璃の横に側臥してきた。温かな肌が触れる。伸弘が瑠璃に覆いかぶさって、顔を近づけてきた。
瑠璃のドキドキが頂点に達していた。
その時、ドアの方から何か物音がした。伸弘の動きも一瞬、止まったから、彼も何かを聞いたのだろう。
一、二秒静止していたが、何も聞こえてこなかった。
再び、彼の黒い影が近づいてきた。吐息がかかるほど、間近になった時、今度ははっきりと聞こえた。
コツコツ、という何か固いもので、誰かがドアをノックする音が。
はっとした。
「誰?」
伸弘がドアに向かって言う。
その声は、少し苛立っている感じだ。ドアの向こうからは返事はなかった。
「ルームサービスも頼んでいないし、誰もここにいることは知らないはずだし」
ブツブツ言いながらも伸弘は、そのノックを無視することにしたようだ。また瑠璃に顔を近づけてくる。
しかし、再びノックの音が響いた。
今度は遠慮なく、ガンガンとホテル中に響くかのようなガンガンという音だったから、伸弘だけでなく、瑠璃も飛び上がるほど驚いた。
伸弘が舌打ちをした。その表情は見えないが、怒っているのがわかった。
「なんだよっ、誰だっ」
結構ドスの利いた声で叫んだ。すくみ上るような怖い声だった。いつも優しい伸弘がそんな声をだすなんて意外だったから、それにも瑠璃は驚いていた。別の伸弘の顔を見たような気分だ。
伸弘はすぐさまベッドから飛び降り、ローブをひっかけるとドアを開けた。そのドアをノックした張本人がそこにいるつもりなんだろう。
廊下の光が部屋の中に入ってきた。その眩しさに瑠璃はシーツをかぶった。
伸弘が廊下に出て、人影がないか調べている。誰もいない様子だった。
「くっそ~。悪戯か、後でフロントに文句、言ってやる。高い値段、取ってるんだからな」
それは瑠璃の知らない人のように見えた。今まで瑠璃には見せたことのない顔だ。
しかし、彼はそんなこと、お構いなしでベッドに入り、さっきの続きをしようとキスしてきた。
少し乱暴で、歯がかちりとあたった。優しい言葉とか、しらけたムードを取り戻そうともしないで、いきなりさっきの続きの行為をしようとしていた。
瑠璃は、その勢いを少し緩めようと話しかける。
「ねえ、なんだったの? あのノック」
誰もいないことをわかっていての質問だった。
「さあ、知らねえ」
彼はもう興味がないとばかりに冷たい返事をする。
怒るのはわかるが、もう少し落ち着いてもらいたかった。今夜は瑠璃にとって、二十歳の誕生日、しかも初体験なのだから。
少し逃げるように体をずらした。彼は瑠璃の体を捕まえて、引き寄せる。それでもまた逃げる。
伸弘は瑠璃の体をもう動けないようにがっちりと押さえつけてきた。まだ、怒りが消えていないようで、その手は乱暴で痛い。まるでレイプされている気分になった。恐怖さえ生まれる。
「ね、ちょっと、いやだ、こんなの。やめてよ」
というと、伸弘はちょっと怖い声を出した。
「なんだよ。今更、ここまできて逃げんのかっ」
すべての怒りが瑠璃に向けられた。