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本当の真朱?

 白磁は、王に呪いの混じったサビを浴びせた張本人だ。悪の根源。

 王がまだ黒い森の診療所で苦しんでいるのに、なんでこいつがこんなに若返り、人々の前に立てるのか。なぜ、こんなに悪い奴が皆の歓喜を浴びているのだ。警戒しなければならない相手だというのに。

 瑠璃は怒りを感じる。


「これは、行方不明だとされていた真朱さまが舞い戻ったという喜びに満ちている集会。王と共にサビを受け、ずっと黒い森で隔離診療を受けていた真朱さまが、このほど完治なされたからね。それに真朱さまのサビは、白磁が治したということで、皆が大喜びし、英雄扱いされている」

「ええっ、そんなこと、でたらめもいいとこっ。なんでそんなことになったの」

 瑠璃は烏羽の言葉が信じられなかった。白磁こそが悪の張本人だというのに、皆が騙されている。

 真朱は二十一世紀で亡くなっている。なぜこんなことが起っているのか、こんなことを何故、皆は信じるのか。


「ねえ、真朱ちゃんは偽物なんでしょ。あれって、よく似ている誰かを仕立てているんでしょ」

 そう言ってほしい。しかし、烏羽は首を振る。

「最初はそう思った。僕も真朱さまがこの世にはもういないことを知っている」

「そうよね」

 瑠璃は烏羽に、あの女の子は偽物の真朱だと言ってもらいたかった。しかし、烏羽は幼子を諭すように、表情を緩め、ゆっくりとした口調で言う。

「あの真朱さまは本物だ、といえる。少なくとも意識は真朱さまだった。危険を承知で真朱さまの意識を探ったんだ。そうしたら、あの人には真朱さまにしか知り得ない記憶があるんだ。僕が王にも告げなかったキャンベルリバーへ迎えに行ったことまでが、そのまま記憶に残っていた。あの真朱さまは本物だろう」


 烏羽の言葉が信じられなかった。

「じゃ、あっちで消えた真朱ちゃんの方が偽物だったってことなの?」

 そう考えるしかない。

「いや、あっちが偽物なら絶対に王にわかる。そんなわけない。シアンは真朱さまの魂を感じとっていた」

と紫黒が言う。

 そうだ、真朱はシアンの腕の中で消えていったのだ。そんな王までを誤魔化せるはずがなかった。

「じゃあ、どういうことなのよっ」

 瑠璃はわけがわからず、イライラの感情を紫黒にぶつけた。

 三人の守り役たちは何も言わない。皆が困惑している様子だった。けれど、能力者たちが集まっているのだ。なにかわかっているはずだ。


「オレ達もいろいろ考えてみた。その結果、あっちも本物だってこと」

「ちょっとわかるように説明してよ」

 相手が紫黒だとかなり言い方がきつくなる。


「いいか、真朱さまはここから二十一世紀へ飛ぶとき、白磁の元を訪れている。その時に自分の魂の一部を売っているんだ。ってことは白磁は真朱さまの魂の一部を握っているんだ」

「あ、そうか」

 その魂の一部を売るということが恐ろしく響く。

「白磁は、その魂の意識を他の誰かの体に植え付けて、外見まで真朱さまに再生させたんじゃないかっていう結論」


「そんな・・・・そんなことできるの? それでもあの人は真朱ちゃんなの?」

「そうだ。それでも真朱さまなんだ。死者だって生き返らせるという白磁ならできる。あいつはなんだって恐れずにやるから。特に今回は、自分への利益がついてまわる真朱さまを広告塔に使って、皆の前に出てきた」

 そんな・・・・。

「白磁にはやってはいけないタブーなんてない。悪に手を染め、とことんまでやってのける恐ろしい奴なんだ。そんな危険な奴だから、前世王が封じ込めたのに」


 紫黒は悔しそうに言う。

 守り役の琥珀が言った。

「シアン様は気にかけておりました。そろそろ強力な封印をやり直した方がいいと思われていたのです。しかし、それには王妃の力も必要でした。シアン様は真朱さまが正式な王妃さまになるまで待ち、それから行うつもりでおりました。けれどその直前にこんなことが」


「いえ、あの白磁はそれを知っていた。だからそう仕向けたと考えられませんか」

 烏羽が言った。

「もしも白磁が、再び封印しようとする王と王妃を待ち受けていて、その場で二人にサビを植え付けていたら、もう我々には何もできなかった。結果的には、真朱さまが密かに二十一世紀に飛んでくれたおかげで、ここに瑠璃ちゃんがいる。それは力強いことなんだよ」

「えっ、私? なにもできないのに」

「瑠璃ちゃんは王妃の水晶玉を持っているからね。きっとあの白磁は自分が王になるつもりでいる。それに対抗できるのはそれを持っている瑠璃ちゃんだけなんだ」


「ねえ、なんで、皆、騙されるの。王の魂を持っている人が王になるんじゃないの」

「そう。そうだけど、そんなの国民にとってはどうでもいいことなんだ。実際に誰でもいいんだよ」

 烏羽の言葉とは思えないほど厳しい響き。

「国民の本音はね、自分たちの生活が安定していて、自分たちの要求が満たされれば誰が王であってもかまわないんだ」

 そうかもしれなかった。王には聞かせたくない言葉でもある。

「それに白磁は派手だ。いいか、こいつは今、真朱さまを治したとされる英雄なんだ。王はまだ病気で黒い森から出られない。すると代りに真朱さまがこの国を牛耳ることになる。白磁はその真朱さまを助けて、王の代行を務めようとしているんだ」

 そう紫黒が苦々しく言う。

「えっ」

 白磁は用意周到な作戦を組み立てていた。自分が仕組んだ呪いで、自分が英雄になった。

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