王妃・瑠璃の初めての癒し1
「真朱ちゃん、私のせいでこんなことになってごめんね。許して」
瑠璃は真朱だった赤い渦を抱きしめていた。シアンにそのサビが届かないように厳重に覆いながら。
瑠璃と同じ魂が、サビに侵されている。瑠璃が作ったサビだから、それを完全に癒すことができるのは自分しかいないと確信していた。サビへの恐れ、不安もなかった。
王との月の儀式によって、以前の自信のなさ、人生への投げやりな心は、もうなくなっていた。
《愛おしい真朱ちゃん》
心からそう思って抱きしめていると、一度は影もなく、瑠璃を覆っていた夥だしいサビは少しづつ消えていった。いつの間にか、瑠璃の左手には真朱から受け継いだ水晶玉が現れていた。それが濃い青、瑠璃色に光っていた。その光が、どんどんサビを消していく。もう痛みはない。
すぐに瑠璃はサビから抜け出した。元の姿に戻る。あとは真朱を癒すのみ。
もう赤い渦は存在しなかった。本来の真朱の体があった。毎朝、気軽に話しかけてくれていた時のあどけないかわいい顔があった。恐ろしい鬼の顔ではなかった。
そこまで癒していって、やっと瑠璃は気づいた。それ以上、真朱を浄化してしまうとその命まで浄化するとわかったからだ。
しかし、真朱が語りかけていた。
《瑠璃さん、お願い。わたしをこのまま浄化させて。化け物のままにしないで。もうオリーブもいない。それに・・・・・・シアン様にこんな姿を見られたくなかった》
瑠璃の中に、そんな真朱の心が入りこんできた。
王妃になる運命を背負って生まれてきたこと、シアンを深く愛していたことが伝わってくる。
そして、自分の中にサビが眠っていたことを知った時のショック、強いブロックをかけて封印し、王にも話せなかったこと、王の前で発病し、巻き込んでしまったこと。それらはすべて自分の罪、深い後悔という心がすべて流れこんできた。
《違う、真朱ちゃんは悪くない。私が・・・・私が全部悪いの。ごめんね。本来死ぬときに死ななかったから、サビなんか作っちゃったから》
申し訳ない心でいっぱいになる。本当なら真朱ちゃんが、王の愛を受け入れて王妃として幸せになるはずだったのに。
《それは違う》と、強い真朱の心が飛び込んでくる。
《私たちはサビのことを知る必要があったの。さっき、闇の渦が発生した時、わかった。その中にはシアン王を執拗に恨み、狙っている闇の守り役の気配があった。その者の存在を決して忘れてはいけない。あの守り役はシアン王を倒す機会を狙っているの。闇の守り役、白磁は、シアン王を殺すつもりでいる。そして蒼い国を乗っ取ろうとしているの。白磁と戦うには、瑠璃さんの強さが必要だったってこと》
真朱の心が強く語る。
《瑠璃さんは強い。邪念や他の邪な心を受け取っても影響を受けない。それでわざと王のいないこの世界に生まれ、サビを作り、私がそれを発病させた。もう蒼い国の人々は守られ過ぎていて、いつの間にか弱くなっていた。そして、二十一世紀に私がきて、瑠璃さんと入れ替わる、私が二十一世紀で一人で死んでいく王妃だったのよ。瑠璃さんはこれから二十三世紀で王を助け、白磁と戦わなければならない。そうなるように、私たちはシナリオを書いた》
瑠璃も何となく、それらを思い出していた。おぼろげな記憶、その全容を知っていた。
《でも、真朱ちゃんはそれでいいの?》
胸が押しつぶされるような思いだ。
《私は・・・・・・、この十五年間、王に愛されてきた。もうそれで充分。これからは瑠璃さんの番。私たちは同じ魂なの。遠慮する必要はないでしょ》
《でも・・・・真朱ちゃん・・・・》
《瑠璃さん、お幸せに。シアン王はとてもやさしいお方》
消え入るような真朱を抱きしめた。サビはもうすべて消えていた。
「真朱ちゃん、ありがとう。自分を犠牲にして、私のために・・・・本当にありがとう」
王が駆け寄ってきた。もうシールドは必要なかった。
王がぐったりとした真朱を抱き上げた。瑠璃はこみ上げてくる涙で、その二人の姿がかすんで見える。
王は真朱を見て、にっこりとした笑顔を向けた。真朱も王とわかり、最期に笑顔を見せた。
「シアン様、やっと抱いていただけたのですね。大好きなシアン様。これからは瑠璃さんをよろしくお願いします。わたくしの分まで愛してくださいませ」
「あい、わかった。真朱よ。今までありがとう。愛している」
シアンが真朱をギュッと抱きしめた。
真朱が、もう充分だと感じているのがわかった。真朱は王の腕の中でその体が半透明になっていく。瑠璃が涙を拭いた時、もうすっかりと真朱の姿は消えていた。




