表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/101

シアン王と瑠璃の魂の契約 2 

 烏羽と王妃となる瑠璃は、山の上のホテルにいた。他には誰もいないホテルに。そこは王宮にある月の寝殿によく似ていた。今宵は満月、儀式にはふさわしい。

 烏羽は、姿を現せた紫黒を見ると、その中のシアンに気づき、片膝をついて深々と頭を下げた。

 瑠璃はきょとんとしていた。烏羽の様子に驚き、次は戻ってきた紫黒を見ていた。紫黒の体だが、なんとなく違うと感じとっている。別人のようだと思っている。

 それはそうだ。中身が違う。顔つきも変わっていることだろう。


 瑠璃はかわいらしい。躊躇しながらもおずおずと頭を下げてきた。真朱と同じ魂を持っている瑠璃。しかし、真朱とは全く違う性格のようだ。真朱は若いわりにはしっかりとしていて一途な心を押し出してきていた。瑠璃は、どこかまだ自分に自信が持てないぎこちなさがある。自分のような平凡な者が大それたことができるとは思っていない。しかし、そんなことがのほほんとした大らかな心を生んでいることを感じていた。

 シアンはその瑠璃の前に出て、片膝をつき、その手を取った。


「瑠璃。我が王妃となる魂を持つ瑠璃よ。わたしは蒼の国のシアンである。いろいろ事情があって、紫黒の体で迎えにきた。我が国の王妃となり、一緒に国の再生を手伝ってはもらえぬか」

 簡単なプロポーズの言葉だった。


 そしてシアンは持っているクリスタルから青い光を放った。それを差し出す。

 紫黒の髪の色も再び、同じ青に変わっているはずだった。そこに本来のシアンの姿が浮かび上がっていた。

 瑠璃は、紫黒の表面に現れた本当のシアンの姿を見ていた。その心が伝わってくる。


 なんと、驚くことに、この女人は心を開けっ放していた。少しも閉じようとしていない。閉じる技も知っているはずなのにだ。そんな無防備な、隠さない心に好感を持った。

  瑠璃も、何かを感じていた。このシアンにひどく懐かしく、愛おしいものを感じているのがわかった。瑠璃は差し出したシアンの手をとる。

「あのう、私でよければ、喜んでお受けいたします」

と言った。

 それは決して公式の場で言う定められた台詞ではないが、その心が伝わってくる。そんな控えめな瑠璃。


 しかし、その時、紫黒の思考が少し動いた。瑠璃がそのわずかな紫黒のことを感じ取っていた。


「紫黒くん?」

 瑠璃の中のシアンのイメージが払拭され、今は目の前の紫黒を見ている。

「ほう、わかったのか。少しだけわたしの中に紫黒の意識が残っている。だが、今宵はおとなしくしているから気にしなくてもよい」

「今宵?」

 そう言って、目を剥く瑠璃。

「そう、ここで一晩を過ごし、明日の朝、早くここを出る」

「ええっ、今すぐに行くんじゃないの?」

 瑠璃が驚いていた。


「わたしにはまだ、二十三世紀あちらへそなたを連れて行くだけの能力ちからは復活していないのだよ。それにそなたも完全に覚醒してはおらぬ」

 瑠璃がまだきょとんとしていた。何か話が違うと訴えていた。

「瑠璃が本物の王妃とならなくてはな。わたしも瑠璃からの力が必要だ。魂の契約をしなければならない」

「魂の契約? 書類にサインとか? ハンコとかそういうの?」


 その傍らに立つ烏羽を見た。

「烏羽よ、まだ説明をしておらぬのか。そちらしくないぞ」

「はっ、申し訳ございません」

と恭しく頭を下げた。

 シアンは瑠璃にわかるように説明する。

「魂の契約、すなわちここで月の儀式を行う。今宵は満月だから」

 

「瑠璃、実際には月の光の下で水晶玉の光を合わせる」

 瑠璃は少し安心していた。もっと仰々しいものを想像していたらしかった。

 そんな瑠璃の心が愛おしく思え、瑠璃を抱きしめた。

「キャッ」と言う声を出す。

「紫黒とのことはよい。そなたたちの心はわかっている。瑠璃がそのうちにわたしの方を向いてくれることを信じている」

「王っ」

 烏羽がそれを許すのかと言うように制した。



 瑠璃が腕の中で驚いていた。

「それでいいんですか。それでも王は私を?」

「よい。たとえ、瑠璃の中に紫黒への感情が残っていてもそれを許そう。わたしたちは兄弟だし、瑠璃がこの魂の契約をした後は、もうそれ以上の感情を持つことはなくなるであろう」


 そう、シアンにはわかっていた。

 腕の中の瑠璃は、心の中には紫黒のことが好きだという感情も残っていた。しかし、瑠璃はシアンの魂を敏感に感じ取っている。懐かしさと愛情を向け始めていた。

 瑠璃は今宵、王妃として目覚め、シアンを愛することになるだろう。


 もう、明るい満月がまばゆいばかりの光を放っていた。

 禊をする風呂へ入り、身を清める。紫黒の体からはものすごい砂が出てきた。思わず笑う。

 

 烏羽が、この短時間に集めたという大量の浄化のためのセレナイトの石と清めの塩。

 このホテルの最上階の部屋はカーテンを引かず、大きな窓いっぱいに月の光を入れる。月の寝殿にいるような錯覚を起こす。満月の光は、人の表情まで見えるほどに明るかった。


 瑠璃が現れた。白く薄い、体が透けて見えそうな夜着をまといながらその姿を見せた。

 瑠璃は、光の中のシアンを見ていた。瑠璃の頭の中に見えている姿は、完全な本来のシアンの姿だった。


 プロポーズのときと同じように、瑠璃の前に膝まづいた。瑠璃の手を取る。

 その手にキスをし、言う。


「我が天なる力のみなもとよ。今宵、王妃となる魂と我が魂がともに契約を結ばれんことを感謝いたします」


 瑠璃を見た。

「さあ、そなたの名を」

「瑠璃」と言うと、その後に続いて「シアン」と言った。

 

 シアンは瑠璃の胸の傷痕に手を当てる。瑠璃がはっとした。夜着からもうっすらと見えていた。そこに大きな手術痕があった。ずっと瑠璃のコンプレックスだった傷痕。これがあるから、生きている実感、例え嫌なことでも生きているからと割り切れたと瑠璃の心がそう言っていた。


「不思議だね。今の瑠璃ならこの傷は自分で消すことができるのに」

「え?」

 瑠璃は意外そうだった。

「もうこれは不要。わたしが消してもよいが、瑠璃がやってみるか」

「私にできますか・・・・」

「できる。紫黒の体を治した瑠璃だよ。自分の体なら簡単にできる」


 シアンは、瑠璃の手をその胸にもっていく。最初はシアンもその上からエネルギーを吹き込んでいくが、後は瑠璃に任せた。

 瑠璃の深い傷痕は、少しづつピンク色になり、どんどん再生していく。そして周りの肌と見分けがつかなくなった。

 瑠璃自身も夜着の下の胸を見て驚いていた。

「私にこんなことができるなんて」


「人というものは、なにか思い込むとそれ以上は無理だとか、できないというロックをかけてしまう。できるはずがないと思ってしまうともうそれ以上、努力をしなくなるから。その先が見えなくなってしまうのだ。瑠璃たちがシールドをかけていた時、他の人たちには見えなかったときのように、そんなことがあるわけがないと自分を別の次元に送り込んでしまうのだ」

 瑠璃は黙って聞いている。瑠璃が、烏羽と紫黒に出会った時から不思議なことが次々と起こったことを思い出していた。

 向こうの世界のことは、追って少しづつ説明していくことにする。今宵はそれほど時間がないから。おしゃべりが過ぎたようだ。


 シアンはそう思いながらも、階下にいる烏羽から危険が迫っているというテレパシーを受け取っていた。

 急がなければならない。

「瑠璃、王妃の水晶玉をこれへ」

 シアンも自分の色に輝いている水晶玉を手に平に出した。瑠璃も膝まづきながら、その手に瑠璃色の水晶玉を出した。

 月の光に合わせて、二つの水晶玉の輝きが一緒になる。


《我らは王と王妃。この輝きに従い、蒼き国を守ることを約束する。我らは月に選ばれし者》


 後は月の反応を待つのみだった。

 シアンと瑠璃の色がボルテックスのように一緒に絡まり、月の方角へ伸びていった。


 すると満月から、真っ白い光がシアンと瑠璃を覆う。それは優しい穏やかな光だった。

 今まで無防備だった自分がやっと守られるべきものに優しく守られているようなそんな安堵感に浸っていた。瑠璃のオーラが激しくシアンの方へ押し寄せて、シアンの魂を包む。瑠璃にもシアンのオーラが同じことをしているのだろう。

 月に認められたようだ。

 瑠璃はもう魂もその心も、すべてさらけ出していた。二人のオーラは百パーセント絡み合い、お互いに受け止めている。王と王妃のオーラの交わりを感じ取っていた。二人はエネルギーに満ちていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ