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伸弘

《メール、ありがとう。今日、会えるの、すごく楽しみ》


 いささか軽すぎる返事かなと思ったが、まあいい。勢いでそのまま送信してしまっていた。つきあっている彼氏の吉高信弘への返事だった。


 そう、瑠璃は今日の二十歳の誕生日を、この伸弘と一緒に過ごすつもりでいた。今日の講義を終えたら、伸弘と一緒に海の見えるホテルの最上階レストランへ行く。彼がそこにあるフランス料理店に予約を入れてくれた。

 二人だけでお祝いしようと、そしてその夜は帰したくないから、と言われていた。泊りということを匂わせていた。


 伸弘とは、半年前に知人の紹介でつきあいはじめた。

 彼はルックスもいいし、やさしい。女の子の流行の話題にも敏感で、一緒にいても飽きない、そんな人だ。デートの誘いも二日か三日おきに、映画やコンサート、美術館から水族館までバラエティーに富んだ企画をしてくれた。伸弘のおかげで瑠璃の中の知識もアップし、その世界が広がった気がしている。


 メールの返事もマメで、すぐに返事をしてくれる。他の友達の「彼氏から返事がこない、連絡もしてくれない」というつぶやきには程遠かった。

 女の子の扱いに慣れているのかもしれなかった。いささか出来過ぎた彼氏というイメージもある。でも、それでもいいと思っている。まだ瑠璃たちは友達以上、そして恋人未満だったから。


 瑠璃は物心ついた時から熱狂的に夢中になるということがなかった。もちろん楽しいことは楽しい。でも、他の人のように、アイドルに熱を上げる、憧れの先輩にラブレターを渡すという経験がなかった。そのうちに夢中になる人も現れるだろうと、もう二十年がたったのだ。今は周りに合わせて、誰かを好きになる、そんな振りをしていた。


 でも、この伸弘と一夜を過ごしたら、そんな瑠璃にも夢中になるという感情が生まれるかもしれないと思っていた。危険な賭けのような気もする。

 しかし、このままいたら、なんとなく時間を過ごしている無気力な感じのままでいるような気がしていた。


 伸弘からはずっと以前から、泊りでのデートの誘いがあった。週末一泊の予定で、遠い海を見に行こうとか、レンタカーを借りて山奥のペンションへ行こうとかだ。でも瑠璃は、何らかの理由をつけて断っていた。両親も厳格で女友達のところへ泊るのでさえ、難しいとも言い訳をしていた。

 彼と一泊するということは、彼と寝るという一線を越えることを意味していた。

 瑠璃には、処女を取っておくようなレジェンド的な考えはない。別の理由が伸弘との一夜を思いとどまらせている。


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