海は味方なのか
二人でトボトボと歩いていた。いつしか雨も止んでいた。瑠璃の涙も乾いていたが、ぐっしょり濡れた瑠璃たちは目立った。
「私達、ずぶ濡れだね」
「うん、でも仕方がない。さあ海だ」
目の前に海が広がっていた。
紫黒は暗い海を見て言う。
「ん~、ここに来ることって、あんまりいい考えじゃなかったかも・・・・。この海、浄化もしてくれるけど、夜は邪悪なモノにも味方をしてる」
その紫黒の言葉に目を剥く瑠璃。紫黒もここへ来ることを賛成してくれたはずだった。
「ねえ、そういうこと、もっと早く言いなさいよ。なんで着いてから言うのよ」
そう言っているうちに、瑠璃にも伝わってきた。海からくる邪悪なモノの気配が。それが夜の海から這うようにして瑠璃たちに向かってきていた。
オリーブの黒と、真朱の赤の渦、そしてその他もろもろの邪気たちが混ざって、津波のように襲い掛かってきたのだ。瑠璃達を待ち伏せをしていたらしかった。
特にオリーブは怒り狂っていた。真朱が瑠璃に、王妃の証しのクリスタルを渡したからだ。真朱ももう王妃の影もない化け物と化していた。容赦なく襲ってくると感じた。
紫黒が瑠璃を含めてシールドをしようとしたが、その時、瑠璃と紫黒には距離があった。ちょっと離れて歩いていたのだ。
その瞬間を狙うかのように、黒と赤の渦から何かが飛んできた。瑠璃がターゲットだった。
かろうじて身をかえした。でもすぐに別のモノが飛んできた。
紫黒が瑠璃の背を押す。
「逃げろ、オレが食い止めるから」
紫黒も飛んできたものから身をかわすが、わずかに逃げ遅れ、足に何か刺さった。
「うわあ」
紫黒が悲鳴を上げていた。
紫黒は右足を抱えてうずくまっていた。
一度逃げた瑠璃は、紫黒のところへ走った。足に木の杭のようなものが刺さっていた。邪悪な渦からは、まだ何かが飛んでくる。
瑠璃は紫黒の前に立ちはだかり、周りを覆うシールドを張った。強力なやつを。邪気をすべてはじいていく。
「紫黒くん。大丈夫?」
「瑠璃、近寄るな」
瑠璃は構わずに近寄った。
シールドを張りながら、紫黒の怪我の様子を見た。
「なにかが刺さっている」
「これは・・・・サビだ。触るな。流行り病いにかかる」
瑠璃が絶句する。
これがサビ? ただの木の杭に見える。
「これを感じただけで、みんな病いに侵された。王はこれを持つ真朱さまに触れただけで、体にサビが付いたんだ。そして倒れた」
紫黒の必死になっている心がわかった。
サビはとんでもない病いなのだと訴えかけていた。
紫黒の体に、そのサビが刺さっている、ということは、紫黒もサビにやられるということだ。
傷口が黒くなっていく。
「瑠璃、逃げろ」
見る見る間に黒い部分が広がっていく。
瑠璃はどうしていいかわからないでいた。
「早く逃げるんだ。お前だけなら何とかシールドを張りながら逃げられる。そして烏羽さんが戻るまでどこかに隠れていろ。そうしないと、このサビは広がって、オレの心を奪う。そうしたら・・・・オレも真朱さまのように・・・・・・」
「私を襲うってことなのね」
「ああ、そうなる。ここからは闇の悪意がすんげえ、感じられる」
それはかなりの痛みを伴っているようだった。
紫黒が歯を食いしばって耐えているが、苦痛にうめき声をあげる。黒い部分がどんどん広がっていた。
瑠璃には、紫黒をそこへ残して逃げることはできなかった。
癒そうと思った。すると、真朱のくれた王妃の象徴、クリスタルが左手にあった。これは必要と思うと出てくるみたいだった。
その左手から氣を吸い込み、自分の体を通して、右手に送り込むイメージをした。右手を紫黒の足に当てる。木の杭の上に直接置いた。
「バカやろう。そんなものに触るなっ」
紫黒がすぐさま怒鳴りつけてきた。
瑠璃の手を払いのけようと、起き上がってくる。
「うるさい、黙ってっ」
瑠璃も叫んでいた。
ピリッとくる痺れのような痛みが右手に走った。
サビだ。
触れただけでこんなに痛いのに、これが刺さっている紫黒はどれだけの苦痛を感じているのか。
すべて瑠璃のせい、瑠璃のために自らを犠牲にしてくれた紫黒。そして、王妃の座を譲ってくれた真朱、その真朱に仕えたオリーブに意識を向けた。
ごめんなさい。すべて瑠璃のせい。許してください、本当に。
そのすまないという気持ちと、紫黒や真朱に対する感謝の心が現れた。瑠璃のことを思ってくれてありがとうと。クリスタルはそれらを敏感に感じ取り、吸い込んでいた。それを何十倍にも膨らませて、瑠璃の体の中を通り、右手へ移していく。
クォンタムタッチという癒しの手法があります。
意識した呼吸をしながら、そのエネルギーを足から手に通すイメージをして、ヒーリングをします。
これとハワイの癒し、「ホ・オポノポノ」を一緒に使うと強力なエネルギーとなるようです。




