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黒い渦の正体

「悪かった。他の邪悪な渦もいたんだ。それに足止めを食らって、さっきの黒い方が紫黒と瑠璃ちゃんを追っていった」

「他の邪悪なモノ?」

 何となく、聞きたくない不安。

変化へんげした・・・・真朱様だった。赤い渦の中に、かすかに感じた」

 やはりそうだった。

 目のこぼれそうなかわいい顔で笑う真朱を思い出した。あんなにあどけなくて、瑠璃を心配してくれた真朱が、なぜ、そんな姿になってしまったのか。


「それに、人々が捨てた邪念も半端じゃないほど集めていた。あれに囚われると悪影響を受けて、膨れ上がる。捕まるとなかなか逃げられん。用心したほうがいい」

 さっきの黒い渦もそうなのだろうか。

「私たちを追いかけてきたのは何? それも黒い念なの? 私には特別にものすごい恨みをぶつけていたけど」

 そう、痺れるようなものすごい恨みを感じていた。


 烏羽と紫黒は、お互い顔を見合わせた。

 それは、瑠璃に言うべきか、言わない方がいいかの暗黙の相談。

「ねえ、言ってよ。知ってたら教えて」

 瑠璃はじれったくなる。ここまで首を突っ込んでいるのだ。今更隠しても仕方がないだろうと思う。

 烏羽は、わかったとうなづく。


「あの黒い渦は、真朱さまの侍女、オリーブだよ。真朱さまが生まれてすぐに派遣され、ずっとそばにいて世話をしていた女」

と言う烏羽。

 紫黒はやっぱりという顔をする。


「あいつらしいよな。性格、ねちっこかったもんな。さっきの攻撃みたいにさ。王宮でもそういう態度だったし。真朱さまのことは自分が一番よく知っているとまくしたてて、ひどい目にあったこと、たくさんある」

 烏羽はくすくす笑う。

「紫黒はよくギャンギャン言われてたからな」

「烏羽さん、笑いごとじゃないっすよ。あいつ、大の苦手」


 瑠璃も、烏羽と一緒に紫黒の隣の芝生の上へ座りこんだ。

 心地よい感触。

 土からも芝生からも微弱だが、ものすごく優しい癒しのエネルギーが出ているのがわかった。それに意識を向けるともっとスムーズに伝わってきた。

 植物や自然の産物は何も言わずに、ただ、その場にいる人を癒す。見返りを求めない癒し。

 人は、ちょっとそれに意識を向けて、感謝すればいいのだ。でも現代人はそれさえもできないでいる。自分のことばかりに目を向けているから、周りが見えないのだ。

 惜しいと思う。行き詰ったら、ちょっと外へ出て、自然と戯れるだけで、心を癒してくれるというのに。


「オリーブは完全に人間だった心を失っている。この世の邪悪な念に支配されていた。そして瑠璃ちゃんに対する恨みだけしか覚えていないみたいだった」

 烏羽が空を見上げながら言った。

 人に恨まれるのって、それだけで胸が痛い。


「それって・・・・彼女が私を恨んでいるのは、私が、真朱ちゃんの魂に残したサビを作った張本人だからなんだよね」

 ぽつりと言った。

「そうだね。オリーブにしてみれば、真朱ちゃんが王妃になられるその日をどんなに心待ちにしていたか知れない。もう少しで十六歳の誕生日を迎え、結婚の儀になるというところで、あんなことになってしまった。さぞかし無念だったろうね。でも、その恨みと瑠璃ちゃんの命を狙うことは別だよ。あれは絶対に、闇の守り役、白磁がなにか言ったのに違いない。瑠璃ちゃんを殺せば、真朱さまのサビが消えるとかね」

「あ・・・・・・」


 じゃあ、真朱ちゃんも一緒になって瑠璃を殺そうとしていたか。そうかもしれなかった。そう考えることが自然だと思う。

 そう考えてしまったら、涙がこぼれそうになった。それを感じた烏羽が慌てて付け加える。

「でも、真朱さまはそんなオリーブを阻止しようとしていたような・・・・そんなふうに見えた。でも、心の中にもサビが入り込んでいて、時として自分の心を失ってしまっていた。そうすると我を忘れてこっちを攻撃してきた、そんな様に見えたんだ」


「真朱さまは、何が何でも、瑠璃を攻撃したくないだろうな」

と紫黒がつぶやくように言った。

「そうだな。でも、この都会は邪気が多すぎる。それらにそそのかされて、心を奪われるのは時間の問題だ」

と、烏羽。

 そしてまた付け加える。

「なんとかその前にもう一度、王のところへ行って、相談してみる。緑の女王の言葉も報告しなきゃ。たぶん、王は何かを決断しているはずだから」

 紫黒は「承知」とうなづいた。


「でも、烏羽さん。その時空を超える前に、瑠璃を何とかしてくれよ。さっきなんか思いっきりあの化け物に心を開いて見てたんだ。冗談じゃねぇ。気が気じゃなかった」

 瑠璃はまずいことを報告されたとばかりに、烏羽から目をそらす。

 紫黒が瑠璃を庇いながら、戦い、守ることに、いつもの倍以上神経を使うのだろう。

 敵はかなり強力になっている。次の襲撃には自分がどこまで耐えきれるかという不安と叫びが伝わってきた。

 烏羽に叱られるかと思ったが、彼は意外そうな表情で私を見ていた。


「瑠璃ちゃん。あんな邪悪なモノに心を開いたの? それで平気だったってこと?」

「いえ、全然平気じゃありません。すごく心も痛くて辛かったけど、そうしないと姿が見えなかったし、怖かったから。でも心を閉じたらもう何ともなかったけど」

 紫黒が、烏羽にほら、こいつはこんなことをしていたんだ、と言わんばかりの顔をする。しかし、烏羽は褒めてくれた。


「それはそれですごい。やっぱり、瑠璃ちゃんはこの時代に生まれた人だから、あまり影響を受けないんだね。念を感じにくいってことはそれも強みなんだよ」

「へっ、感じにくい? 鈍いってこと?」

 それって褒めてんの? けなされてるよね。絶対に。


「我々は感じやすい。だから、人から発せられているいいもの、悪いものなどすぐに察することができる。瑠璃ちゃんはその感覚に断熱材が入っているようで、すぐには感じない。影響を受けないんだ。悪いものも感じないから、そこからのダメージも少ない。熱いお湯を素手で感じるか、厚い手袋の上で触るかくらい違う」


 ふ~ん、烏羽の言わんとしていることはなんとなくわかったような気がした。いいものも感じにくいが、悪いものも感じないから、影響がすくないってこと。特にさっきのようなバトルには、瑠璃のような場合、鎧兜よろいかぶとを着ているようなものなのかもしれないと思った。


 紫黒がイライラしながら言った。

「そんなこと、どうでもいいからさ、瑠璃に自分を守る技を教えてやってくれよ」

 烏羽もそう紫黒に言われて、ああそうだったね、と苦笑した。


「じゃあ、いつものように自分にシールドする。そしてから、第三の目の眉間のところだけ、ポツンと穴を開けるような感じ、それをイメージしてみて。それで外が見える」

「ああ、なるほど。すっごくわかりやすい」

 さすが烏羽だ。そういうふうに言ってくれれば、瑠璃にだってわかるのだ。

 皮肉っぽく、紫黒をジロリと見た。紫黒はそれを感じ取り、プイっとそっぽを向いた。

 烏羽は、紫黒と瑠璃を見て、やれやれとばかりに息を吐いた。

「二人とも、喧嘩はしないように。喧嘩をしていると自分たちの渦が巻き起こって、周りが見えなくなるからね。いいね。仲良くしているんだよ」

 烏羽は、小学生の男の子と女の子を二人だけで残すかのような口調で言った。

 紫黒はしかめっ面をしている。

「わかってる。じゃあ、烏羽さん。早く行って帰ってきてくれよ。一応、瑠璃が自分の身だけでも守れれば、オレも動きやすい。オレは喧嘩はしないけど、瑠璃がドジだから」

 瑠璃が目を剥いた。

「わかった。二人とも、本当にそこまでだよ。喧嘩はしないで。すぐに戻る」

 そう言うと烏羽は、まるでそこには誰もいなかったかのように、音もなく消えていた。


植物、特に花は人を癒すために生まれて、きれいな花を咲かせていると何かで読んだことがあります。その花を摘む時は、そこからちょっと離れていて、痛みは感じないようにしているんだとか。

可愛い花、きれいと声をかけるだけで、本望だと思います。

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