初体験を阻止する理由
「じゃ、なんであなた達が私を見張っていたか説明してもらいましょうか」
と言うと、紫黒が淡々と言った。
「そりゃ、瑠璃の軽率な初体験を阻止するため」
そう言ってニヤリと笑う紫黒。
な、なんて言った? 今。この人、軽率な初体験って・・・・。
心の中でそう叫んでいた。しかし、シールドしてしまった今は、もう二人にはこっちの心の叫びが聞こえていないのだ。
早まった。紫黒の耳元で叫んでやりたい気分だった。
その代りに思い切りにらみつける。
烏羽がその様子を見て、あわてて紫黒をたしなめた。
「紫黒、それはあまりにも直接的な表現で・・・・・」
「なによ、あんたたち。なんでそんなことっ。余計なお世話よ。私の事、ずっと見てたの? つけてたの? 聞いてたのっ」
そうだ、この二人はホテルにいた。
あのノックや電話はこの二人の仕業だったのだ。じゃ、あのホテルので出来事、全部知ってるわけ? ベッドの中のことも?
瑠璃がそこまで考えていた時、紫黒は真顔で言った。
「よせよ、あんな男。つきあうな、サイテーだぞ。あいつの頭ン中はな・・・・・・」
「紫黒っ」
烏羽が遮るように叫ぶ。
紫黒は不満げに口をつぐんで烏羽を見た。
「言い過ぎだ」
「そんなこと言ったって、事実だし」
二人で言い合っていた。瑠璃は震えるくらい怒っていた。
バンとテーブルを叩いて怒鳴る。
「一体何なのよっ。人の頭ン中、勝手に覗いてっ、しかも初体験、阻止って。人が誰と寝ようが勝手でしょっ」
そこまで言って口をつぐむ。
いつの間にか、座っていた他の客が驚いて振り返ったからだ。
「まあまあ、落ち着いて。ボクから説明するから」
烏羽がコホンと喉を整える。
「実はボク達、瑠璃さんを守るために来ているんです」
「守る? 守るって何から?」
「まず、あなたの貞操とそして敵」
烏羽は穏やかな表情でさらりと言うが、瑠璃には最初の貞操って言葉がピンと来なかった。
「テイソウってなに?」
瑠璃の質問に面食らう烏羽。
キュルルルって音がするくらい頭の中が目まぐるしく回転していて、この時代の言葉に変えているのがわかった。
「ごめんね。言葉がちょっと古かった。えーと、バージンか」
「バー・・・・」
結局、この烏羽も紫黒と同じことを言っているのだ。
「ね、なんでよっ。なんで私、別にいやいやながらとか、襲われたわけでもないの。私の意志で、オッケー出してホテルへ行ったの。そりゃ多少しらけてて、嫌だって思ったけど。それってあなた達のノックのせいでしょ」
「あはっ、あのノックのせいで、瑠璃だってあいつの本性、見えたんだぞ。あいつ、何が何でも瑠璃ちゃんと寝ることしか考えていなかったし」
紫黒がぺらぺらとしゃべるのを、また烏羽が肘をつついて制する。
「瑠璃ちゃん落ち着いて。お願いだからさ。話が全然前へ進まない」
烏羽が私をなだめるように言って、今度は紫黒を睨みつけた。
「お前はもうしゃべるな」
紫黒は、烏羽にたしなめられても反省する色もなく、ペロリと舌を出した。
「瑠璃ちゃんには今、あの男と寝られたら困るんです。今夜のことがきっかけで、瑠璃ちゃんはあの男にのめりこんでいくことになるから。まあ一応、阻止で来てよかった」
瑠璃がまた、目を剥いて何か言おうとしているのを、烏羽が止めるようにして言った。




