表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

影と傷痕

「来たか」

「ああ。わり、ちょっと遅くなった」


狭い小道の向こう、小さく開けた空間にぽつりとある石碑、その近くの木に寄りかかるように立つ黒の青年。

小道から出て近づくと、顔を上げてこちらを見た。


彼のことは、正直よく分からない。


でも話していて楽しいし、一緒にいるうちに分かるだろうということで、ここへは毎夜欠かすことなく来ている。

夕暮れ時から、夜が明けるまで。

彼の向かいに腰を下ろし、黒く長いスカーフを後ろに払って言った。


「今日は、ちょっと人と話してて遅れた。

 過去を、捨ててしまおうとしていた女の子」


ほう、という青年の返事。


「嫌なこと思い出しちゃうからって、彼女にとっての過去の象徴だったらしい懐中時計を捨てようとしてた。

 大事な、過去につながるものなのに…」


黒の青年には、スカーフの彼の表情が微かに歪んだように思えた。

彼が見せた意外な表情に、思わず少し戸惑う。

彼の過去には、一体何があったのだろうか?


「…なにか、自分に重なるところでもあったのか?」

「まぁ、な」

すっかり更けた夜の空を見上げ、彼は語る。



「…昔な、両親と妹を亡くした。

 家族(アイツら)がいたころの記憶はもう大分薄まっちまって、その記憶につながるものも無いからさ、

 また記憶を呼び起こすことも出来ないんだ。

 家族(アイツら)が、何が起きて死んだのかも、もう覚えちゃいない。きっと忘れようとしてたんだろうな、俺は。

 今となっては、そのことには後悔しかないけどな…」



「そうか…」

だから少女に、過去から目を背けるなと伝えた。己と同じ思いをさせないために。

そういうことなのだろうと青年は考える。


幾分しんみりした空気の中、思い出したように彼は青年に問う。


「なぁ、聞いてなかったけど名前は何ていうんだ?呼び名みたいなもので構わないけど。

 何て呼んだらいいかわからないから」


「…“シャドウ()”とでも呼べ。お前は?」


「シャドウ、ね。

 俺は…そうだな、“スカー(傷痕)”とでも呼んでくれよ」


スカー…過去の傷の、生々しく残る痕。消えることのない痛みの記憶。


二人、木々の間から見上げた空は、幾分か白み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ