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エルダー  作者: 雨月
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第六話:友の妹

第六話

「なぁ弘毅」

 昼休みに太った友人である間山義之が僕の元へとやってきた。といっても同じクラスだし殆ど席は離れていない。

「何?プリントの整理で忙しいんだけど」

「今日お前の家に遊びに行っていいか?」

 せっかく整理していたプリントが机の上で散乱してしまった。あーあ、楽しい楽しい弁当タイムが延びちゃったよ。

「えーと……まぁ、いいけど」

「そっか、じゃあ制服のまま行くわ。お前の妹を一目見ようと思ってな」

 出来れば家にいる真奈美さんを他の人に見せたくない。家に慣れてきたのか僕に対して何とも思わなくなったのかはわからない…彼女の服装が下着っぽいものになってきているのだ。五月ももう目前で暑くなってきているから風呂上がりは薄い一枚もので下はパンツだったり、話しているときだって真奈美さんの谷間が気になって仕方がない。

「……はぁ」

「何だ?俺が来るのがそんなに嫌なのかよ」

「ううん、このため息は不甲斐ない僕に対してのためいき」

 今日なんて目が覚めたら真奈美さんの胸を思いっきり掴んでいたのだ……夢の中では一生懸命焼き物を作ろうとしていたんだけどね。そりゃ、夢と希望が詰まっているだろうけど焼き物は焼けないと思う。

 薄着の真奈美さんを見られたくないと言うのもあるけど何より彼女が義之の事を見て何と言うのかが気になる。デブとか言って義之を怒らせたらどうなるだろうか。

「あ、それとな。今日俺弁当忘れちゃったからお前の弁当ちょっと分けてくれねぇ?」

「駄目」

「え~固いこと言うなよ」

「駄目ったら駄目だよ。お金なら貸してあげる」

「さすが弘毅だ。持つべきものは友人だぜ」

 ごますりながら更に近づいてくる義之に硬貨を渡す。

「にっへっへ、どうも毎度~。じゃ、購買行って来るわ」

「すんませーん、うちの駄目兄貴いますか?」

 義之が振り返るのと僕が扉の方を見るのはどちらが早かっただろうか。多分、同タイミングだっただろう。

 向こうもどうやら目的の人間を見つけたらしい。臆することもなく僕たち二人の前にやってくると持っていた弁当箱を遠慮なく義之のたるんだ腹にぶつけた。義之がよろけるのを久しぶりに見た気もする。

「忘れもん。餌忘れたら豚は腹減るでしょ」

「おいおい、桜…もうちょっと優しく渡してくれよ」

 義之の妹で間山桜と言う。そのため、義之は僕の事を絶対に名字で呼ばないと宣言していた。

「そのぐらいでちょうどいいっしょ」

 この通りぶっきらぼうである。チャラ男の友人が手を出してみたけど言葉にするのも悲惨な事になって桜ちゃんを見ると身体が痙攣するそうである。何でも散々股間を蹴られたらしい。

 ふとそんな桜ちゃんがこちらを見ている気がした。

「?」

「じゃああたしはこれで失礼します」

 そういって出て行く。桜ちゃんがいる間、クラスはシーンと静まり返っていたりする。

「おい、あれが噂の間山妹か」

「ああ…間山の頬の傷を付けたのは妹だそうだ…兄妹喧嘩で間山の奴、一週間入院したそうだぜ」

 ざわめくクラスをものともせず、面白くないと言った様子で義之は椅子を引っ張ってきて僕の目の前に座る。

「今日はお前の家に行くのはやめにするわ」

「なんでさ」

「悪いが今日俺の家に来てくれよ。桜に対する嫌がらせだ」

「?」

 これまた意味がよくわからない。僕の事を嫌いなのだろうか。

必要なくなった硬貨を義之は何故か自分の財布の中に入れる。

「それ、使わないんなら返してくれよ」

「紹介賃だ」

「何の紹介賃だよ」

「俺の家だよ。それと諸経費でもらっとくぜ」

 にやっと笑うのは構わないけど絶望的に似合わないから辞めたほうがいい…とは言えなかった。

 学校が終わり、一度背伸びをする。最近買い物は全部真奈美さんに任せているから楽だ。このまま部活動に入ろうかなぁと思うけどそれはあまりに真奈美さんに頼っている気がして嫌だった。

「さ、行こうか」

「わかった」

 そういえば義之の家に行ったことないなぁと思う。まぁ、学校が終わったらスーパーに行って特売の商品なんかをハンティングしている僕からすれば友達の家に遊びに行くなんて休日ぐらいしか余裕がないからね。他の人は部活だろうしそもそも高校生は家で遊ぶのではなくカラオケとか行くんじゃないだろうか……ここらは田舎だから何かしらの足がないと面倒だけどさ。

「家遠いの?」

「いや、ぎりぎり歩いていける距離だ」

 一般人の平均スピードがどれほどか知らないが義之はそれ以上の早さだと思う。デブだデブだと思っている人も多いけど身長も結構高いから足も意外と長かったりする。

「到着だ」

 所要時間十五分程度で間山家に辿り着いた。一見すると普通の民家である。

「実は中が豪華だったりする?」

「しないぜ」

「中世の騎士の鎧とか戦国甲冑がわんさかとか踏んだら穴に落ちるとかないよね?」

「あるわけないだろ」

「地下室とか…」

「ねぇよっ。冗談もほどほどにしろよ」

 ま、義之があるいて大丈夫な家と言う事はきっと丈夫なんだろうな。

「何突っ立ってるんだよ?」

「ああ、ごめん。お邪魔します」

「今家に誰もいないから気にするな」

 義之の顔がにやけている。何かしら悪だくみしているのだろう。

「二階に行ってすぐ目の前の部屋が俺の部屋だから先に行っててくれ」

「うん、わかった」

 言われた通り階段を上ってすぐの部屋の引き戸を引いて中に入る。部屋の中は清潔感あふれる部屋でゴミ一つ落ちておらず、ゴミ箱の中も綺麗であった。

「てっきり日当たり悪くて美少女フィギュアがあってライトノベルが本棚にいっぱいあるのかと思ったら意外と普通でびっくりした」

 もしも義之が聞いていたら間違いなくブッ飛ばされているだろう。ただ一つ気になることは東側に四枚の引き戸があって部屋が区切られている事だった。お札やら何やら貼ってありそこだけ浮いている。もう気になってしょうがない。

「そりゃよぉ、隣が桜の部屋なんだわ」

「うわ…びっくりしたなぁもうっ」

「俺が暗殺者だったらお前今頃死んでたぜ」

「はいはい…でもなんでお札なんて貼ってあるのさ?」

「気休めだ」

「何か出るの?」

「いいや、何も出ねぇよ」

 じゃあなんで貼ってあるんだと疑問だけ残る。

「お盆の時期に一度だけおばあちゃんを目撃したぐらいだ。しかも親戚の子がな」

「出るじゃんっ。おばあちゃん出てるじゃん」

 今もこの部屋のどこかでおばあちゃんが腰かけて茶をすすっている姿を想像すると背中が寒くなってきた。

「今はお盆じゃないだろ。それに幽霊なんて出ないから安心しろよ」

 義之が持ってきてくれたコーヒーを飲みつつ学校で言った事を思い出す。

「そう言えば学校で『桜に対する嫌がらせ』って言っていたけどあれってどういう意味?」

 その時階下で音がした。

「桜が帰ってきたようだな……ま、後で教えてやるから今は普通に話してようぜ」

「いいけど…もしかしてベッドの下にエロ本あったりする?」

 ちなみに僕の夢の本は真奈美さんがやってきて大体焼却処分しておいた。

「しねぇよ。そんなわかりやすいところに置いてたりしない。というか持ってねぇ」

「うそくさいなぁ」

 一階の廊下にいた桜ちゃんはどうやら階段を上がってきているらしい。義之がにやけ始めた。

「ま、弘毅ならたくさん持ってるんだけどよ」

「もう無いなぁ」

 誰かが廊下で盛大に転ぶ音がした。扉を開けようとした僕の肩に義之の手が置かれて首を振る。

「え、でも…」

「放っとけよ。今頃頭からジュースでも引っ被ってシャツが透けてるだろうからさ。お前が廊下に出たらあいつ階段から落ちるかもしれん」

 実に楽しそうだった。そしてその言葉はどうやら桜ちゃんに聞かれたようですぐに部屋へと入って行った。しかしすぐにどたばた音がして扉の開く音が聞こえて階段を駆け下りていったようだ。

「どうしたんだろ」

「シャワーを浴びに行ったんだよ」

「ああ、濡れたからか」

 僕だったら拭いて終わりだけど女の子だとシャワーにかかるんだなぁ。

 数分後、再び階段を上る音が聞こえてきて乱暴に扉が閉められた。そして静かになる。

「なぁ弘毅」

「何?」

「お前ってどんな女子がタイプなんだよ」

 がたっという音がお札の向こうから聞こえてきた。

「タイプ?うーん…今はまだそう言ったのないかなぁ」

「じゃあ乱暴な女はやっぱり駄目だろ?」

「乱暴な女?」

 右から左に真奈美さんが通って行くけど普通にオーケーだったりする。いや、別に真奈美さんが乱暴ってわけじゃないけどさ。普通に優しいし乱暴だったら毎朝僕は血を見ることになるだろうね。

「乱暴でもさ、どこかしら優しいところがあるんじゃないの」

「俺の妹でもか?」

「優しいところあるでしょ。だってこの前野良猫に話しかけてたからね」

 隣の部屋からまたもや何かが倒れる音が聞こえてきた。でも大声で話しているわけじゃないから聞かれていると言うわけでもないだろう。

「野良猫?」

「うん、桜ちゃんが…」

「ああ、ちょっと待ってくれ。前から聞こうと思ったんだけどお前なんで桜の事をちゃん付けで呼んでるんだ?」

「そりゃあ二回目に会った時ちゃん付けで呼んでほしいって言われたからだよ」

 わざわざ校舎裏に呼び出されて気迫こもった表情で言われたのだ。てっきり集団で殴られるのかと思ったよ。

「あ、あの桜が自分でちゃん付けで呼んでほしいってか……ぶはははっ……はっ」

 笑っていた義之の額にスペードのエースが刺さった。どうやら引き戸のかすかな隙間から飛んで来たものらしい。

「筒抜けじゃないか…ま、桜ちゃんは優しいと僕は思うけどね。あくまで義之だけに厳しいだけだと思うよ」

 てっきり桜ちゃんが入ってくるかと思ったけどそんな事はなく僕は無駄話を終えて家に帰ることになった。

「じゃあな」

「うん、また明日」

 帰り際、二階の窓から桜ちゃんが見ている事に気が付いた。向こうはあわてて隠れていたようだったけど普通にポニーテールが見えていた。


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