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エルダー  作者: 雨月
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第五話:寝不足

第五話

 僕の妹になった真奈美さんは見た目いけいけ姉ちゃんだ。そしてやるときはやる人間らしい。家事全般をこなす素晴らしい妹(お姉ちゃんと呼びたい)である。

 しかし、問題が一つある。真奈美さんがやってきて一週間ずっと僕が問題にしている事だ。陰で僕の事を罵っているとか暴力をふるっているとかそういったものじゃない。



 寝る部屋が一緒なのだ。他に使える部屋はない為仕方がない。



 これがどこに問題があるのか…そう思う人もいるかもしれない。スタイル抜群の真奈美さんと一緒に寝られるなんてうらやましいと思える人もいるだろう。

「さ、今日も一日お疲れ様」

「お疲れ様です」

「じゃあお兄ちゃんおやすみ~」

「おやすみなさい」

 もはや日常となりつつある光景。僕の布団の隣に真奈美さんが布団を置いてさっさと眠ってしまう。僕も背を布団に預けて目を閉じる……が、眠れない。

 手を伸ばせば触れる距離なのだ。わざわざ布団をくっつけているとかどういう事なんだろう。何より真奈美さんは寝像が悪く、二分の一の確率で僕の布団に入ってきて朝目を覚ませば谷間がそこにあったとか既に数回は経験している。

 目を覚ました真奈美さんにあわてて説明しようにも特に気にしていないようなんだけど正直言って身が持たない。真奈美さんが『家族』ではなく、居候として僕の家にやってきたのなら今頃僕は……。

 今日も結局真奈美さんの抱き枕と化してしまった。不満はない、不満なんて一切ないんだけどその事を真奈美さんがどう思っているのか少し気になる今日この頃。

 まぁそういう理由で学校についても朝のHRが始まるまで青空見上げてため息さ。

「……はぁ~」

「最近元気ないな?」

 デブの間山義之が顔を近づけてくる。その顔を押しのけてまたもやため息をついてしまう。

「ん?あーうん…色々とあるんだよ」

「妹が出来たそうじゃねぇか。羨ましいなぁ」

「いるでしょ」

「あんなのは妹っていわねぇよ。俺に対して『デブ』とか『音速の家畜』って言って来る奴だからな。しっかし、あいつをお前の妹にする計画もこれで潰えたわけか……あ、じゃあお前のところにやってきた妹さんを交換しないか?」

「するわけないでしょ」

 そりゃ残念だと義之はどうでもよさそうに言うのだった。彼の妹が嫌いで交換したくないと言っているわけではない。

「なぁ、弘毅のところのお父さんが再婚したんじゃないよな?」

「色々と事情があるんだよ。複雑じゃないけどさ」

 年上の妹と言う時点で複雑かもしれない。

「ふーん。俺もある日いきなり妹が出来ないだろうか」

 間山義之の妹さんはそれなりに可愛い。こんな妹が居たらいいなぁと思うけど口が悪いのだ。あくまでそれは兄に対して……つまりは義之限定だけどね。妹さん頭は悪いし、運動神経もおかしい(喧嘩はべらぼうに強い)、そして口が悪いのは全部優秀な義之のせいかもしれない。劣等感を抱いているんだろうな。あまり会った事のない人の事を悪く言うのも心が痛む。

 今更家族が新たに出来たからと言って相手が妹だろうと姉だろうと劣等感を抱いたり抱かれたりすることもないだろう。一人でしゃべり続ける義之の声がだんだん遠くに行ったようで気が付いたら眠っていた。

「お兄ちゃん、今日は一緒の布団で寝ようか?」

「え?」

 目を覚ますとやたらピンク色の光に満ち溢れている自室が視界に入ってくる。パジャマのボタンを全部外し、ズボンもパンツが殆ど見えそうな真奈美さんが僕の布団に入って手招きしていた。



「真奈美さんっ、今日は別部屋で寝てくださいっ。ほら、ちゃんと服着てくださいっ」



 自分の声で完全に目が覚めた。そして辺りを見渡した。クラスメートたちが驚いた表情で僕の事を見ている。しかし安心して欲しい……一番驚いているのは僕だから。

「あ~……桜君」

 年老いた国語教師が僕にほほ笑みかけてくれている。

「今は授業中だから大人しく席に座っていてくれるかな?春の陽気で眠くなってしまったのだろうけど」

「……す、すみませんっ」

 もしも僕の言葉を聞いていたのが社会科教師なら雑談を始め、数学教師なら残り時間全部説教で、英語教師なら僕に続きを要求してきた事だろう。

 生徒たちのひそひそ声が聞こえてくる中、『さすがの俺でもそれはひくわ』という表情の義之がちらりと見えたので僕は消しゴムを投げつけてやった。外れたけどさ。

「へぇー今日はそんな事があったんだ」

「ええ、まぁ…」

 その日の夕飯時に授業中にいきなり寝言を大声で叫んだと言う事を話した。当然、どんな事を言ったかまでは話していない。

「真奈美さんはそんなことありませんでしたか?」

「さすがにないなぁ。授業中に寝ぼけて自分の大声で起きるなんてテレビとか本の世界だけかと思っちゃったよ」

「やっぱりないですか」

 あったらあったでそうですかと言ってこの話題は終わらせるつもりだった。テレビのニュースも特にこれと言って面白い事を流しているわけではない為少しの間静かになる。

「でもさ、お兄ちゃんって真面目そうに見えるけど普段から居眠りしてるの?」

「一週間ぐらい前から最近眠れなくて」

「眠れない?一週間前から?」

「え、あ…」

 言った後にまずいと思った。一週間前…真奈美さんがやってきた辺りから眠れなくなったと思われてはいけない。変に傷つけてしまう恐れがある。

 そういうわけでコンマ一秒の間に言い訳を脳内で作成、その後速やかに口にする。

「春先になると不安で眠れなくなるんですよ」

「不安?」

「ええ、新しい学校や学級でうまくやっていけるかとか授業にちゃんとついていけないんじゃないかなぁって不安があったりするんです」

 瞬時に考えた言い訳にしては筋が通っていて問題ないとつい自画自賛してしまう。

「なるほどー真面目っぽい人は大変だね」

「そうなんですよ。何かぐっすり眠れる方法とかないもんですかねぇ」

「ぐっすり眠れる方法かぁ…」

 お箸をかじっている真奈美さんを見て何とかごまかせたかなと一息つく。結局その話題も僕がご飯を食べ終えたので終了。お風呂に入って適当に勉強して就寝時間になった。

「じゃあ今日もお疲れ」

「お疲れ様です」

 いつもだったら此処で真奈美さんの『おやすみ』という言葉が聞こえてくるはずだった。

「?」

 一向に聞こえてこなかったのでもう寝てしまったのかと思ったら布団の中で僕の左手を握ってきた。

「これなら安心して眠れるでしょ?」

「え?」

「ほら、不安で眠れないって言ってたじゃん。テレビでやってたけどこうやって手を握っていてあげるから安心して眠るといいよ」

「あ…ありがとうございます。でもこれじゃ真奈美さんの方が眠れなくなりませんか?」

「いいよ、お兄ちゃんがぐっすり眠れるなら私はそれで満足だから」

 真奈美さんの手は温かく、こんなもので安心して眠れるものかと不安だった僕もいつの間にか眠っていた。

 まぁ、目を覚ましたら思いっきり真奈美さんの胸に顔を埋めている状態だったんだけどね。こりゃもう慣れるしかないのかな。


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