第四話:荷物持ちは彼の仕事
第四話
平日の夕暮れ時。まだまだ買い物中の奥様方がフロアの六割以上を占めている。僕らを見て『若いっていいわねぇ』とか『ヒモかしら』等と呟いている。奥様方のほかにちらほらサラリーマンを見かけるけど若い兄ちゃん姉ちゃんが食品売り場を闊歩しているわけもない。
「今日何食べます?」
「あ、夕飯は私が作るからお兄ちゃんは気にしなくていいよ。食べたいものは?こう見えても料理は出来るから安心してね」
「じゃあ肉じゃがお願いします」
そう言うと真奈美さんは足をとめた。
「どうかしました?」
ものすごく嫌そうな顔をしている。
「うーん…もしかして料理の腕を見ようとか思ってない?」
「思ってないですけど…苦手なら別の料理でいいですよ」
「ううん、ごめんね。肉じゃが作るよ」
肉じゃがに嫌な記憶でもあるんだろうか。たとえば幼少の頃肉じゃがに襲われてトラウマになったとか、嫌な日があるとその日の晩は必ず肉じゃがだったとか…後は……思いつかないな。
「変な顔してましたよ」
「お兄ちゃん、そういう時は変な表情してたっていってよ。顔って言われると傷つくよ」
「あ、すみません」
材料を買って日用品売り場の方へと移動する。ここからが本番だ。まずは一番持ち運びが面倒そうな(しかしこれをやっておかないと一緒に寝る羽目になる)布団売り場へと向かう。
色、価格、材質等様々な蒲団が豊富におかれている。比較的淡い感じの色調が多く、新婚さんと思しき二人が先客としていた。
「布団、どれがいいですか?」
「うーん…正直よくわからない」
「ちなみに僕も布団に詳しいわけじゃないんでアドバイスできません」
結局、真奈美さんの布団は『よく売れてます』と書かれたPOPの物を選ぶことにした。平日の為、子供がうろちょろしていないのでカートでの移動が楽である。いつもだったら事故を起こしていたかもしれない。
「パジャマはどれがいいですか?」
「お兄ちゃん選んでよ。選んでもらった方が記念にいいからさ」
もしかして僕のファッションセンスを見極めるつもりなんだろうか。正直自信はないので無難なところを選んでおこうかな。
「これが…多分真奈美さんに似合うと思います」
僕が選んだのは猫のパジャマだった。真奈美さんはポケットから小さなデジカメを取り出すと僕とパジャマを一緒に写した。
「……やたらリアルな猫の絵だね?しかも威嚇しているように見えるけど」
どうやら不満があったようである。猫は嫌いなのだろうか。
「駄目ですか。じゃあこっちのうさぎさんがいいと思います」
「うん、まぁこのくらいならいいかな」
パジャマも決定し、近くにある下着コーナーへと足を踏み入れる。正直これまで縁のなかった世界で、変に緊張してしまう。マネキンの来ている下着がやたら布地の少ないもののよう気がしてならなかった。いや、もしかしてああいうのを女性は履いているんだろうか。
「これはさすがに選ぶの手伝えません」
「ま、そうだよね……なんてね」
意地悪そうに真奈美さんは笑っている。その手には先ほどのカメラが握られている。
「ど、どうしたんですか?」
「お兄ちゃんはどの下着を着た私がみたいのかなぁ?」
「え…い、いや、別に希望はないです」
「ということは素っ裸がいいの?」
「そんなわけないですっ…い、いやあるかも……いや、そんなんじゃないですから早く決めてくださいよっ」
「はいはい、そんなに怒らないでよ」
やっぱり向こうの方が年上である。いいように遊ばれているけど不思議と悪い気はしなかった。でも僕はいじられて悦ぶMじゃないからね。
適当に下着を選んでもらって次の売り場に移動する。時折真奈美さんは僕の写真を撮っていた。
「次は茶碗ですね。どれがいいですか?ちなみに陶芸とか全然わかりませんからアドバイス出来ません」
「これがいいかな」
真奈美さんは置かれていた茶碗を無造作に掴んで割らない様にカートの中に入れる。花柄の茶碗だった。
「今日はこのぐらいにして帰ろうか?残りはまた今度の休みにでも行こうよ」
「はい…あ、歯ブラシを最後に買っておかないといけませんよ」
「そうだったね」
会計の時は真奈美さんが出そうとしていたのを止めて僕が出した。正確には生活費から出した。
「いいの?」
「ええ、家族ですから」
帰りは当然僕が荷物を持つわけだが、頑張って持っても茶碗などが割れてしまっては意味がない。重たい物を僕が持って残りは真奈美さんに持ってもらわなくてはいけなかった。
「家族……ねぇ」
「どうかしたんですか?」
もう少しで家に着く少し手前で真奈美さんが呟いた。
「…肉じゃがについて教えてあげる」
「肉じゃが?ああ、今日の晩御飯ですね」
「私の一番嫌いな料理。二度と食べたくないし、作りたくもない料理だよ」
「それなら別の料理でいいですよ。カレー粉とか家にありますから今日はカレーにしますか?」
「ううん、ちゃんと肉じゃが作ってあげるから安心してね」
家に帰りついて真奈美さんは肉じゃがを作ってくれた。普通においしかったのでちょっとだけほっとした。
食器を洗ってお風呂の準備も終わる。服を脱いでいるといきなり真奈美さんが脱衣所に入ってきた。
「ど、どうしたんですか?」
「お昼入浴剤買ってきたからよかったら入れてね」
手渡された入浴剤は今朝のニュースで出ていた温泉が使用していた物と同じだった。
浴槽に入浴剤を投下すると映像通りの乳はく色が一気に広がった。湯船に入り一息つくと脱衣所に人の気配がするではないか。
「……?」
タオルでも持ってきて置いているのだろうかと思っていると扉が開いて真奈美さんが入ってきた。
「まままままま…真奈美さんっ。なんで入ってきたんですかっ」
「だって私達家族でしょ?」
「いや、確かにそうですけど…」
「大丈夫、タオルしてるから」
それでも恥ずかしいから後ろを向くしかない。真奈美さんも湯船に入ってきて背中同士を合わせることになる。背中を合わせたわけなんだけど、タオルの布っぽい感じなんて全然せずすべすべとした肌の感じがするんですよ、奥さん。
さすがに布一枚の隔たりあれば変な事を想像するのにも歯止めって言うものが効きますけどないと変わってきますね、ええ。
「お兄ちゃん」
「な、何ですか?」
変な妄想してないよね、そう茶化されるかと思ったけど違った。
「恥ずかしい事をさらっと言える人間じゃないけどさ……私を受け入れてくれてありがとう。これからよろしくね」
「え、あー……こちらこそ」
面と向かって言えるほど僕は勇気のある人間じゃない。鼻血出してぶっ倒れちゃいそうだ。
最近いろいろな話を書いています。そちらもいつか投稿出来ればなぁそう思っていますが、書く方も好きですけど読むほうも好きだったりします。そういうわけで何かお勧めのものがあったらメッセージなりなんなりでお願いしますね。次回は出来れば十日以内に投稿出来るかなと思っていますのでよろしくお願いします。




