第三話:日常への移行
第三話
僕の名前は桜弘毅。どこにでもいる高校二年生だ。先日、僕に妹が出来た…といっても年上の妹である。名前は真奈美さんと言う。歳は二十歳(実際どうなのかは不明)だそうで茶色い長髪で身長も僕より高く、スタイルもかなりいい。
世間じゃそんな真奈美さんを妹と呼べるかどうかわからない。でも父ちゃんが、そして本人も妹だと言い張るのだから妹なのだろう。
『入浴剤を入れていた銭湯は長く秘湯として有名であった…』
「へぇー、この温泉って入浴剤入れてたんだ」
生まれる前からこの家に住んでいましたと言うオーラを出している女性こそ僕の年上の妹である真奈美さんである。
いきなり妹が出来たら絶対に反対とかラッキーとかドラマのような展開を期待してはいけない。この家の主である父ちゃんが決めた事だし、元から長いものには巻かれろ的な性格をしている僕は腕っ節でも絶対負けるだろう真奈美さんを追い出そうなんて考えてはいない。ましてや手を出そうなんて見当違いもはなはだしい。タッチした暁には腕の関節を一か所増やされそうで怖い。
「真奈美さんはこの温泉に行ったことあるんですか?」
「ん~…いや、ないかな。お兄ちゃんは?」
未だこのお兄ちゃんと言う響きには慣れていない。これから慣れることもないだろう。
「僕もないです。あ、そろそろ学校なんで行ってきます」
歯を磨いて鞄を取りに行こうとすると真奈美さんが立っていた。
「はい、鞄」
「ありがとうございます」
鞄を渡されて玄関へと向かう。
「今日僕が家に帰ってきたら一緒にデパートへ行きましょう」
靴ベラが先日見事に真っ二つになったので無理やりねじ込む。横にではなく縦に裂けたのだ。
「なんで?」
「真奈美さんの布団とかパジャマとか買うんですよ。ほら、今だって僕の使ってますし」
うわぁ、お兄ちゃんこのシャツぶかぶかだよぅ…なんてありえるわけがない。逆に男物だからか胸辺りが狭いのか結構いい感じになっていたりする。まぁ、今はエプロンが邪魔で見えないけどさ。ぶかぶかもいいけどぱっつんぱっつんもまたいい物だ……と、偉い人の言葉が脳内で響いた気がした。
「ああ、そうか。私って寝像悪いから迷惑かけちゃったりするよね」
「身体を伸ばして寝たほうがいいですよ」
このまま僕の布団で一緒に寝るなんて理性が途中で吹き飛びそうである。飛んだらどうなってしまうのか少しだけ気になるけど色々と戻れなくなりそうだ。きっと病院のベットは無機質で冷たいのだろうな…。
「いってらっしゃーい」
「いってきます…」
うわさ好きな近所のおばさんが僕と真奈美さんの事を見ている。どうせ変な想像しているに違いない。
帰りに興味深々のおばさんに会いたくないと思って僕が学校へと向かうのだった。
登校中は誰にも会わなかった…しかし、誰かの気配を感じた。早い時間帯というわけでもないし逆に遅すぎると言うわけでもない。校門で友人に会ったぐらいだ。
「よぉ」
「おはよう」
僕の第一の友人である間山義之。見た目完全なるおデブさんだ。しかし、見た目通り足が遅そうなデブと侮っていると怪我をする。義之はクラス一足が早く、心の熱い持ち主である。喧嘩も強く、人望も厚い。ただまぁ、やはり見た目を気にしているようでからかい程度に『デブ』とか『キモい』とか言うと男女問わず酷い目にあわされるのだ。
「なんだか気分がすぐれないようだな?」
「そんなことないけど」
脳裏を真奈美さんがあっという間に駆け抜けていく。
「悩み事がある感じがするぜ。俺でよかったらいつでも相談に乗ってやるよ」
「ありがとう、でもこれは家族の問題だから」
「お、もしかして弘毅のところのお母さんが見つかったのか?」
「いや違うよ」
「そうか、ま、遠慮するなよ」
「母ちゃんは父ちゃんが勝手に探すだろうからね。今更母ちゃん見つかってもちょっと嬉しいぐらいだよ」
妹が出来たんだから謎の転校生が来るかもしれない。
「初めまして、北海道辺りから転校してきました♪」
まぁ、所詮妄想である。そんな果てなき想いが具現化する事もなくその日一日実に平和な学校生活を送る事となった。
「お帰りお兄ちゃん」
「ただいま真奈美さん」
ただいま、なんて言葉を口にしたのはそれこそ十年ぐらい前の事だろうか。僕より先に父ちゃんが家に帰ってくることなんてなかったし、いつも口にしていた言葉はお帰りである。
「準備、出来てるよ」
家を出る前にデパートに行くと言っていたので準備してくれていたようだ。でも服自体持っていなかったようで来ているものはスーツである。多分、傍から見たら兄と妹ではなくて姉と弟であろう。
黙ってデパートまで歩くなんて僕には出来ない。よって真奈美さんと話をしながら歩くことになるわけだ。親しいわけではない為、話題も限られてくる。
「真奈美さんはここら辺に住んでたんですか?」
「ううん、会社の寮に住んでいたからね。隣町だよ」
「そうなんですか」
「そうだよ」
「…」
「…」
はい会話終了。まだデパートまで遠いから何か考えないといけない。
真剣に悩んでいる僕の顔を見て真奈美さんは笑っている。
「お兄ちゃん何か話題思いついた?」
「…いや、思いつかないです」
「無理に話題なんて振らなくてもいいよ」
「静かな空気に耐えられない人間なもので…真奈美さんの方で何か話題があるのならそれに乗りますよ」
「うーん、じゃあ…」
時間にして数十秒、歩数にして二十歩程度と言ったところだろうか。真奈美さんは僕に話題を提供してくれた。
「私の事なんで家族にしてくれたの?」
「どう?結構きつい質問でしょ?」
その質問に僕は首をかしげるしかなかった。
「えっと…どこがきつい質問なんですか?脈絡のない質問をしたところですか?」
「え?普通いきなり妹が出来たとかだったら親に反発して出て行ったりするんじゃないの?」
「いやそんなドラマみたいな展開あり得ないですよ。そりゃあ西洋鎧や戦国甲冑に身を包んだ騎士や武将がやってきたら出て行きますけどね。真奈美さんは普通ですから」
異常者が来たら警察に逃げ込むこと間違いなしである。
「でも年上の妹って普通?」
「普通じゃないですね」
「どこの人間かもわからない人を家族にするかな?」
「それは父ちゃんが知ってますから。父ちゃんが連れてきた人間でこれまで悪い人はいませんでしたよ」
素面での話である。父ちゃんが連れてくる人間は酒が入ると人が変わるのだ。裸になって異国の言葉を発しながら夜の公園を走り回ったり、普段はひたむきに隠し続けている偽物の髪の毛をとって一発ギャグを飛ばしたりする。真奈美さんが酒を飲んでどうなるのかはまだわからない。
「ふーん…父親の事信頼してるんだ?」
「真奈美さんの事ももうある程度信頼してますよ。昨日は超凶暴な人なのかなぁって思いましたけど朝はいたって普通に起こしてくれましたし、こうやって会話も成立してますからね」
頬を掻きながら真奈美さんはため息をついた。
「お兄ちゃんは恥ずかしい事をさらっと言える人間なのねぇ。いつか悪い人に騙されると思う」
「悪い人といい人の区別は付けられますから大丈夫ですよ」
僕の観察眼は比較的頼りになる。テストで山を張ったページの前のページが問題に出たり、二時間サスペンスで目星を付けた容疑者がスケープゴートだったりと……比較的、頼りになるはずの観察眼である。
「そういえばお兄ちゃん」
「何ですか?」
「今日は何を買うの?」
「真奈美さんの生活用品って言いませんでしたっけ?パジャマとか蒲団、コップにお茶碗とか色々です」
「そうなんだ」
「ええ」
納得していただいたようだ。気が付けばデパートもすぐそこ、帰りは確実に荷物持ちになる事だろうな。
作者です。タイトルを適当にエルダーにしたことについて今頃後悔しています。エルダーといわれて真っ先に思いつく言葉はエルダースピアだったりします。特に深い意味はありません。一応14話前後まで話は出来ているので手直しなどしていけば何とかなりますかね。出来れば毎日更新していきたいものです。




