第二話:それなりのスタート
第二話
僕に妹が出来たその日の晩は飯を三人で食べに行った(ちなみに寿司だった)。
「おいしかったね、お兄ちゃん」
「え、あ…はい」
いまいち慣れない。
家に帰ってきたら真奈美さんが風呂に入った。真奈美さんがいないリビングで小規模の緊急家族会議が行われる。
「じゃあ仲良くやってくれよ」
「いや無理だよ…」
戸籍上は家族と言えど今日初めて会ったような相手だ。少し前に『会社に凄い人が入ってきた』って父ちゃん言っていたけどもしかして真奈美さんの事じゃないよね…。
「最初は戸惑うかもしれないが彼女を追い出すような真似だけはしないでくれよ。ああ見えて彼女は…」
「繊細?」
酷い、お兄ちゃん…私のプリンを食べるなんて…ぐすん。そんな想像をしていると父ちゃんは首を振った。
「怒ると強いからな。社長に尻を触られたらしくて取り押さえようとした男性社員を一人病院送りにしたんだ。強化ガラスじゃなかったら窓から落ちて大変なことになっていたかもしれない…」
「………」
ちょ、超凶暴な人なのか。リンゴを素手で握って砕く雄々しき姿が何故だか簡単に想像出来た。綺麗なバラにはとげがあると言うけれどそれなら僕は触りたいとは思わない。怒ると恐いんじゃなくて強いってどういう事なんだよ……。
戦慄していた僕の視界に真奈美さんが入ってくる。
「あーさっぱりした。お兄ちゃんも入れば?」
「あ、は、はい」
あまり逆らわないほうがよさそうだ。いや、絶対に逆らってはいけない。逆らったその日には首に鎖を巻かれて振り回されるかもしれない。
おびえる子ヒツジのごとき僕を見て真奈美さんは父ちゃんを睨みつけていた。
「部長、お兄ちゃんに何か吹き込んだんですか?」
「おいおい、もう娘だろう?」
「そうでした。お父さん、お兄ちゃんに何か吹き込んだでしょっ。やめてよね。これ以上変なこと吹きこんだら……こうだから」
こう……真奈美さんは手のひらで首をこきっと回すような仕草をした……とはどういった事だろうか。
「真奈美君の…いや、真奈美の武勇伝を聞かせてあげたんだよ」
「あ、あはは……真奈美さんって強いんですね」
「いや、そこそこかなぁ。お兄ちゃんってば弱そうだし学校でいじめられているんなら相手〆てあげるよ。何せ高校はやんちゃして退学させられたから」
「大丈夫です」
「そっか、まぁ困った事があったら妹として頑張ってあげるからね」
苦手な家事とかほつれた不器用だけど制服を直してくれるとかそういったがんばるじゃなくて、実力的な、腕力的なニュアンスの言葉だった。背景に『剛腕の真奈美』と文字が出たらかっこいいかもしれない。
「あ、ありがとうございます…」
先に言っておくが僕の学校に不良はいない。男子は殆どが弱っちそうで不良っぽい外見の生徒でも無遅刻無欠席とかだ。
風呂に入って出てくると真奈美さんがおらず父ちゃんがテレビを見ていた。家を飛び出した少女が居候するドラマがあっている。
「あれ真奈美さんは?」
「寝たぞ。今日は疲れたらしいからな」
「そっか…僕も疲れたからもう寝るよ」
「そうか、お休み」
歯磨きをし、トイレに行く。真奈美さんは多分母ちゃんの使っていた部屋(寝室は別で父ちゃんと一緒)で寝ているのだろう。父ちゃんってば母ちゃんの部屋を毎週日曜朝八時に掃除し始めるからなぁ…でもなんでそんな父ちゃんが捨てられたのだろうか。
男と女の関係について考えながら自室へと戻る。僕はベッド派ではなくお布団派の為、朝起きたら欠かさず三つ折りにしている。それなりに大きい布団の為に寝がえりをうっても大丈夫だ。
「あれ?」
寝る前に広げるんだが今日は既に広げられていた。父ちゃんが気を利かせて広げてくれたのだろうか……なんて思わない。
「あのー、真奈美さん?」
「ぐぅ…」
僕の布団には真奈美さんが入っていた。座布団を枕にして寝ている。その隣には僕の枕が置かれており、これは隣で寝て良しと言う合図なのだろうか?
「弘毅、真奈美の布団は今度買ってきてくれ。悪いけど今日は一緒に寝てやってほしい」
父ちゃんが歯磨きしながらそんなことを言ってくる。
「え、ええ~」
「まさか妹に欲情する男じゃないよな?」
「あのね…」
妹なんて言っているけれど今日初めて会ったような人なのだ。男二人のところにいきなり飛び込んでくるような性格だし、怒らせたら僕がどうなるのか父ちゃんは保証してくれないだろう。
「はぁ、わかったよ」
枕をとって嫌だけど父ちゃんの隣で寝よう。座り込んで枕を掴もうとすると……真奈美さんに捕らえられてしまった。
「ん~むにゃむにゃ」
「絶対に起きてるでしょっ」
そのまま布団の中に引きずられていって後ろから抱きしめられるような形となる。振りほどこうにも力が強すぎて出来ないし(驚くほどの握力)、相手の体に触れて引きはがそうなんてためらって出来ない。何より背中に押し付けられる二つの膨らみに脳が『別にこのままでいいかもしれん』と抵抗しなくなってきた。
真奈美さんにエッチな悪戯しようなんて甲斐性もなく、振りほどけるほど腕力もなかった。一睡も出来ないまま朝を迎えるんじゃないかと思っていた……が、ちゃんと眠る事が出来たので本当、よかった。
何だか凄く思春期的な夢を見た気がする。まぁ、寝起きはいつもより良かった方だ。これも抱きしめられて寝ていたからかと身体を起こすと真奈美さんの姿がない。
「夢……なわけないか」
隣には座布団の枕があっていい匂いがする。
「お兄ちゃん起きた?」
「真奈美さんおはようございます」
「おはようっ。朝ごはん出来てるから起きてきなよ」
つい『姉が欲しい』って言っておけばよかったと思ってしまった。
テンションあげてあとがきを書いていきたい作者です…ひゃっほーい……はぁ。今回の話を投稿する前の見直しで大量の誤字が発見されました。稀に見るひどさです。次回いつ会えるかわかりませんがまたお会いしましょう。




