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エルダー  作者: 雨月
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第十三話:ハナマルバンチョーゼロワン

第十三話

 中間テスト最終日、戦場へと出かけようとしていた僕に声をかけてくる人物がいた。

「桜さんのお宅ですか?」

「はい、そうですけど」

「お届け物です。判子お願いします」

「わかりました。真奈美さーん印鑑ってどこにしまいましたっけ?」

 僕の声を聞いて二階の掃除をしていた真奈美さんが結構速いスピードで降りてきた。階段なんて半分ぐらいすっ飛ばして驚いている宅配の兄ちゃんと僕との間ぐらいに見事に着地。

「はい、どうぞ」

 印鑑を押して微笑むが相手は完全に引いている。

「ま、毎度…荷物は今から持ってきます。何でも特別な物だから先に判子をもらえと言われてましてね」

 宅配の兄ちゃんはそういって玄関を後にしてものすごく大きな荷物を何とか持ってきた。直径二メートル程度で横は一メートルぐらいだろうか。大きく、割れ物注意とシールが貼られている。

「これ、どうぞ……持てないようなら中に持っていきましょうか」

 すごく重そうな箱で兄ちゃんだけでは心もとなかった。

「手伝いましょうか」

「ああ、それ、重たいから手伝わなくていいよお兄ちゃん。私一人で持てるから」

 真奈美さんはそう言うと荷物を難なく持ち上げて奥の方へと消えて行った。

「あ…じゃ、じゃあこれで失礼します」

 間を開けて宅配の兄ちゃんが帰って行った。

「お疲れ様です…」

 真奈美さんってばすごいんだなぁと改めて認識し、そろそろ行かないと遅刻しそうだったので僕は荷物の中身を知らずに学校へと行くことになった。

 結果が可もなく不可もなかった中間テストが終わったその日の放課後、かなりまずい状況に陥ってしまった。

「おい、兄ちゃんっ。さっきはよくも蹴っ飛ばしてくれたなぁ」

「いや、あれは…なんというか、足が滑ったんです」

 両手を前にして暴れ馬をなだめるように説得してみる。相手は三人、こちらは一人……桜ちゃんも義之もいない絶体絶命の大ピンチだ。まぁ、こうなった背景には女の子が絡まれていた、僕が隙をついて思いきり股間を蹴りあげたといったものがあったりする。

「いたかったんだぜぇ」

「お気もち……お察しします」

「サッシもアルミもあるかぁっ」

「わけがわかりません……」

「うっせぇんだよっ、だぼハゼやろうがっ」

 最近の若者の使う言葉はわからん。わからんわいと自暴自棄になって迫る拳に目をつぶる。



力が欲しい


力が欲しいのか…ならば、くれてやるっ



 等と言った事も起こるはずはなかった。ただ、代わりと言ってはなんだけど、鋭い声がその場に響いた。

『待ちなっ』

「ああっ?」

 不良三人、そして僕は声のした方へと視線を向ける。声には聞き覚えがあった。真奈美さんのそれに似ているものだけど、機械っぽい感じがした。

「……なんだお前…」

 不良の言葉も納得できた。真奈美さんだと思った相手は明らかに身長が高く、なんというか、鉄とかそういった単語が似合いそうな相手だった。

 身長は約二メートルと言ったところだろうか…隻目で左目がグリーンに光り輝いている。腕組みして仁王立ちがよく似合っていて黒の学ランの襟はビンビンに立てられていては帽子を超えており、鉄下駄はアスファルトを踏みつけている。

 どう見ても、人間ではなかった。何せ動くたびにプシューとかキュイーンといったロボっぽい音が聞こえてきている。

『……人呼んでハナマルバンチョーゼロワンっ』

 天空を指差しそのまま三人組へと人差し指を向ける。

『三対一とは卑怯なりっ。その腐った性根のへたれ共……この私が根性叩きなおし……ざーんねんっ、うちのお兄ちゃんをいじめていたのねっ。ならば容赦無用、塵になるといい云々』

 その後はもう、一方的だった。僕には技術の進歩ってスゴインダナー……としか言えなかった。



―――――――



『メインモニター起動……センサーオールグリーン…オートディフェンサーの正常稼働を確認……これよりテストドライブを行います』

 桜真奈美はヘッドセンサーを装着し、軽くグリップを握りしめた。

「いやー、これはすごい。技術の進歩ってすごいんだなー……さ、出撃ぃっ」

 声に呼応するかのように段ボールを突き破って約二メートルの学ランを着た機械が動きだした。名前をハナマルバンチョーと言い、先日出会った自称悪の科学者を助けたのがきっかけである。新作のテストパイロットとしてこうして動かしているのだ。

「えーと、今日は一日これで生活して欲しいって言われてるからなぁ……あ、そういえばお兄ちゃん今日は中間テストだから早く帰ってくるのか。ま、説明すれば大抵の事は許してくれそうだから別にこれに対して何も言わないよね」

 再びグリップを握りしめて真奈美はハナマルバンチョーを動かす。バンチョーはよく動き、よく働いてくれた…といっても真奈美自身もある程度は動いている為にそろそろ面倒に感じてくる。

「うーん、一種のパワードスーツって感じかな。老人が使う分にはいいけど、悪用されたらまずいだろうねぇ」

 悪の科学者が作った物に対してこんなコメントをしても意味がないと思いますよと突っ込んでくれる心根の優しい兄はおらず、暇を持て余した真奈美は外に出ることにした、バンチョーのままで。

「お買いものしてみよーっと」

 真奈美は近くのスーパー、そして商店街を利用している。やはり消費者、生き残りを賭けた両者の戦いと言えど安い方へと向かうのだ。すぐにつぶされてしまいそうな感じの商店街だが、商店街をまとめる会長がやり手のためどうやらスーパー側の客には言えない秘密を握っているようでなかなか侵略出来ないとは裏話である。

 ともかく商店街に二メートルを超える機械は異様な光景以外の何物でもなかった。

「おばちゃーん、豚バラ頂戴っ」

『あら、この声もしかして真奈美ちゃん?』

 モニターの向こうから少しだけ驚いた声に真奈美は返事をする。

「そうです」

 思ったより驚かないなーと思いつついつものように肉を買う。その後、八百屋、魚屋、豆腐を買ってみたけれど特に誰も驚かなかった。クリーニング屋のおばちゃんなんて『最近の若い子は発育がいいねぇ』等と言う始末だ。

「むぅ、いまいち盛り上がりに欠けるなぁ……」

 せっかくバンチョーなどと言う名前が付いているのだから鉄拳制裁してやりたいなと少々思いつつ大人しく帰路につこうとした。

『わけがわかりません…』

『うっせぇんだよっ、だぼハゼやろうっ』

 どこかで聞いた事があるような声、そして待っていましたと言わんばかりのセリフが耳に届く。買い物袋を引っ提げてバンチョーは走り、一人の少年を囲む三人に声をかける。

「待ちなっ」

 くーっ、一回言ってみたかったんだと心の中では大はしゃぎ。数年前までは警察に厄介になりそうになっていた人物が悪を正そうとするなんて誰も思っていないだろうなと心の隅で思っていたりもする。

「……人呼んでハナマルバンチョーゼロワンっ」

 モニターの向こうにいる三人組を指差す。ごちゃごちゃ相手がうるさそうなので周囲の音量を下げておいた。

「三対一とは卑怯なりっ。その腐った性根のへたれ共……この私が根性叩きなおし……」

 さて、襲われているのはどこの誰だろうかと軽く確認する。暗がりだろうと関係なしのモニターにちょっと驚きつつ被害者の顔を拝む。

 そこには自分の兄が目をパチクリさせていた。

「……ざーんねんっ、うちのお兄ちゃんをいじめていたのねっ。ならば容赦無用、塵になるといい云々」

 背中のバーニアが展開、アスファルトを抉って恐ろしいほどの加速を見せた番長は瞬時に一人を壁にぶつけ、脇にいた一人の鳩尾深くを右の拳で吹き飛ばした。内心やりすぎたかと舌打ちしつつ、残った相手に告げる。

「安心していいわ、手加減してあげたから」

 いや、してないですよと誰かに突っ込まれた気もするが、今は気にしない。残った一人もやはり一打の元に『教育』し、三人の根性を叩きなおしたところで兄の元へと駆け寄った。

「お兄ちゃんっ、大丈夫?」

 男たちに何かされたのか呆然自失となっていた。

「ちょっと、お兄ちゃん?」

『だ、大丈夫です……』

「よかったっ」

 つい抱きしめてしまう。こんなことなら生身のままで行けばよかったと思いつつ、抱擁を続けるのだった。



―――――――



「いだだだだっ」

 真奈美さん?と思しき人物が操作しているハナマルバンチョーゼロワンに助けられて抱きしめられたのはよかったけど力の加減を間違っているようだった。

「これが朝の荷物だったんですか」

『そうそう、テストパイロット頼まれちゃってさ。いつも通り生活してみたんだけどやっぱり直感で動けるから普段よりいい動きしてたわぁ』

 それはそうだろうなぁとしか言えない。そもそも人間にバーニアなんてついてないだろうし、アスファルトを蹴っただけで破損なんて出来ないと思う。

「楽しそうですね」

『うん、楽しい。お兄ちゃんもやってみたいなら貸してあげるよ』

「見ていて驚きましたからいいですよ。それに真奈美さんみたいにうまく動かせないでしょうから」

『そう?あ、じゃあ一つやってみていいかな?』

「はぁ、いいですけど」

 内容を聞かないで許可しちゃうのは非常に怖い気がしたけれどうんと言った限りは手伝うしかない。

『…お姫様だっこ』

 僕の脳内では真奈美さん(いや、目の前の相手はロボだが)の言葉を冷静に分析、それに対しての答えをはじき出す。

「真奈美さん、生身ならともかく今すっごく重そうですから無理ですよ」

『いやー、私がするほう。こんな感じで』

 実に軽々と持ち上げられてしまった。僕が言うのもなんだけど、様になっている。

『買い物袋も持ったし、このまま家まで走って帰るね』

「わかりました」

『一度だけでいいからやってみたかったんだー』

 そういえば昨日体育会系の女性がひょろっとした感じの男子をお姫様だっこして走り抜けるドラマがあってたっけ。

「昨日のドラマの再現ですか?」

『うーん、そうかな。でも、再現なら最後はお兄ちゃん川に放り投げられちゃうよ』

 浮気がばれて放り投げられたんだっけ。兄妹に浮気も何もないからその点は大丈夫だと思う。

『お兄ちゃんだからしてみたかったんだよ』

「そう、なんですか?」

『うん、他の人にはしないから安心してね』

 いまいちわからない言葉を耳にしつつ、僕と真奈美さんは家へと帰った。ちなみにハナマルバンチョーはその夜の晩に真奈美さんの操作に耐えられなくなったのか両腕が取れてしまって白衣を着たおじいさんに引き取られていった。


この話のためだけにスケッチブックに骨子を描いてハナマルバンチョーゼロワンのバストアップを書きました。うんなかなか男前でいい感じの顔になったじゃないかと自画自賛して今に至ります。今回の前書きにどーんと絵が載せられたら面白そうですけど四十年後ぐらいにはそうなってますかねぇ。ま、それはいいとして次回の話を今考えつつやっている途中なのですが終わりそうです。しかし、終わりそうだったところからまるで不死鳥のごとく復活するかもしれません…いやしませんけどね。次の作品を書いてはけして、書いてはけしての繰り返しでやったことない魔法少女物からいつもの学園物に移行しちょっと変わった主従物、そして今が黒タイツを頭にかぶって魔物を倒す変な話に行きました。どれも書いてはけしているのでデータが残ってないのが残念ですね。

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