第十二話:兄と妹の話
第十二話
帰ってきた僕に真奈美さんは少し興奮した様子だった。やばい薬でも使ったのだろうか…と思ったら違うようで今日母ちゃんが顔を見せにやってきたと話してくれた。
「そ、それでね、お兄ちゃんって…その、お母さんとは血が繋がってないって言っていたんだけれど……」
これ、言っちゃ駄目みたいな事を言われたんだけどと真奈美さんは思いだしたかのように呟いた。
「ああ、その事ですか。はい、そうですよ」
「え?知ってたの?」
「知ってるどころか……父ちゃんとも血が繋がっていないんです」
「………」
あまり人には話さない話である。まぁ、家族に話す分にはいいだろうけどさ。
「僕を生んでくれた母ちゃんはバツイチで結婚はしてなかった男性の人と付き合っていたそうです。その人と別れて父ちゃんと結婚したんですよ。既に身ごもっていた状態で僕を生んで死んでしまって……その後父ちゃんはまだ赤ん坊の僕を連れて母ちゃんと結婚して今に至るんです。でも、説明面倒じゃないですか?だからそういう話は母ちゃんにしないようにと父ちゃんが教えてくれたんですよ」
父ちゃんが僕にその話をして数日後、母ちゃんは何処かに行ってしまった。
真奈美さんは居心地の悪そうな顔をして僕を見てくる。
「えっとさ、そういうのって親から言われるとショックじゃないの?」
「言われた時はそれなりに……って言ってもまだ小さい頃でしたからね。理解できてなかったんでしょう。理解した時は父ちゃんに殴りかかりましたよ。あの人、『さぁこい、俺の息子は俺が思い切り受け止めてやるぅ』とか言いながら僕を思い切り殴り飛ばしてくれましたからね」
今となってはいい思い出である。まさか父ちゃんがあんなに強いとは思わなかったなぁ……当時は腕立てや腹筋をがんばってやっていた。
「そ、そうなんだ」
「はい。まぁ、今のご時世虐待とかあるじゃないですか。するほうがおかしいんですけど幸せですから……父ちゃんの息子でよかったって心底思ってます」
しみじみとそう思う。真奈美さんは複雑な表情を浮かべていた。
「なんだかさ、ずるいね」
「ずるい?」
「うん」
「父ちゃんが『受け止めてやる』とかいったのに実際は僕を殴り飛ばした事ですか?父ちゃんはもとからあんな感じの人ですからしょうがないですよ」
「いやいや、お兄ちゃんがさ。ずるいの」
僕がずるい?何がだろう。これまで生きてきてずるいなんて言葉言われた事がないし、別にずるい事もしてないしなぁ……あれかな。この前の晩御飯のおかずのミートボールのことだろうか。僕が運んだ奴だけ一個多かったからそれを見て咎めようか悩んだ末に心の奥底にしまっておこうと思ったけれどもここにきて爆発したのかもしれない。
「あの、もしかしてミート……」
「ん?」
違ったら恥ずかしいから素直に聞いておこう。
「どこら辺がずるいんですか」
拗ねたような表情でこっちを見ずに呟かれた。
「そうやってさ、いつも落ち着いていて…普通だったらそんな…血が繋がってないって事言えないよ」
「……そうでもないですよ。だって真奈美さんが初めて僕の家にやってきたとき普通に驚きました。その場で妹が出来たわけですからね……もう忘れちゃいました?」
「覚えてるよ。驚いてた」
「でしょう?最初は戸惑ってました。でも、真奈美さんがいい人だったんで一緒に生活できてうれしいって最近は思い始めてます。血が繋がってないって話をしていましたけど僕にとって家族って言うのはそういうのが家族なんです」
嘘偽りのない言葉だ。『綺麗事をぬかすんじゃないよっ』って言われるかもしれない。こいつは何を言っているんだって目で見られるかもしれない……でも、たまには心の底から意見したって罰は当たらないはずだ。
「もしもさ」
「はい?」
「もしも、私がお兄ちゃんの力が必要になった時……力を貸してくれるかな?」
「そりゃあ……真奈美さんのお兄ちゃんですから。もっとも、真奈美さん程の人が力を必要とする場面が想像できないですけどね」
出てくるとしたらパワーインフレを起こしている某戦闘民族ぐらいか。
「あ、母ちゃんがこの家にやってきたって言うのは父ちゃんには秘密にしておいてください。それ聞いたら一週間ぐらいいなくなっちゃいそうなんで」
「うん、それは黙っているつもりだよ」
この時はお互いにこれで話は終わったと思っていた。真奈美さんの前に僕の母ちゃんが再び姿を現したのは意外と早く、一週間後の事だった。




