第四話 転校生
※本作は一次創作です。
※AIは執筆補助として使用しています。
朝の教室に、見慣れない気配が立っていた。
扉の前。
担任の横。
その顔を見た瞬間——
碧の思考が、一瞬だけ止まる。
(……なんで)
確か昨日の候補生。
昨日、本部で見たばかりの人間…に似ている気がする
迅の指先が、机の上でわずかに止まる。
紗月の目が、細くなる。
誰も、口には出さない。
担任が言った。
「今日から転校生だ。入れ」
少年は一歩前に出る。
「ツムギです。本日からよろしくお願いします」
教室がざわつく。
担任が教室を見渡し、そして迅の隣を指した。
「裏鬼…迅の隣、空いてるな。そこを使え」
ツムギは迷わなかった。
まっすぐ。
迅の隣へ。
迅の目が、静かにツムギを捉える。
ツムギは微笑む。
「よろしく。裏鬼迅」
迅は短く答えた。
「……あぁ」
それだけ。
碧はそのやり取りを見ながら、胸の奥に小さな違和感を覚える。
(なんで候補生(仮)が、ここにいるの?)
紗月も同じだった。
偶然ではない。
絶対に。
⸻
休み時間。
椅子が引かれる音がした。
碧が顔を上げると、ツムギが机の横に立っていた。
「昨日は、ありがとうございます。月守さん」
碧はその顔を見る。
見覚えはある。
でも。
「……あー、うん。ソダネー」
曖昧な返事。
迅の瞼がわずかに動く。
紗月の指が止まる。
ツムギは首を傾げた。
「あれ?」
一歩、距離を詰める。
「もしかして月守さん、僕のこと忘れてますか?」
碧は少しだけ困った顔をした。
誤魔化さない。
「……ごめん」
正直に言う。
ツムギは笑顔のまま続ける。
「昨日、本部で」
「霊障のとき」
「助けてもらったんです」
碧の記憶が、ゆっくりと繋がる。
瓦礫。
霊巡。
誰かを庇った感触。
「あ」
思い出す。
全部ではない。
でも、思い出した。
碧は小さく言った。
「……無事でよかった」
それだけ。
感謝を求めない。
覚えていなくても、罪悪感を抱かない。
ツムギは、その反応を見つめる。
(なるほど)
この距離感。
この温度差。
理解する。
迅は何も言わない。
紗月はツムギを観察している。
⸻
昼休み。
迅は立ち上がる。
碧と紗月は、おしゃべりしながら報告書を作成している。
ツムギが言った。
「迅」
迅が振り返る。
「学校、案内してもらっていい?」
担任が遠くから言う。
「裏鬼、知り合いなら案内してやれ」
迅は数秒だけ黙る。
そして歩き出した。
「……来い」
ツムギは笑う。
計画通り。
⸻
「…迅も簡単に乗せられちゃってるね」
碧は、そう呟く。先生にお願いされていたとは、いえ報告書があると言えば逃げ切れたはずなのに。
(何を考えているのかしら?)
「?どう言うこと?」
「えーっとツツキくん?だっけ?」
「ツムギね」
「そうそうあの子たぶん私との繋がりを求めていると思うよ?」
これは、昔から近寄ってくる大人と同じ目をしていたからそう判断したに過ぎない。
「あの子現場には、いたけど私守った記憶ないもん。なのに…」
「碧にのみ感謝を伝える違和感」
昨日の合同訓練の感謝なら私に言うのは、違和感。
でも私が記憶していないことに気づくと後付けされたみたいに助けたことを入れてきた。
「そうなると私も鎌かけられてたんだけどね〜」
「そうなると碧人のこと言えないじゃん」
「ま。これすら憶測に過ぎないからねー」
「あ。逃げた」
「でも気づかないうちに助けていたとかないの?」
さぁ〜迅腕の見せ所といったところかな?
「んふふ。報告書にも一様書いておこっか」
⸻
廊下を歩く。
沈黙。
ツムギが口を開く。
「月守さんってさ」
迅の足は止まらない。
「昔から強いの?」
「……生まれたときからだ」
嘘だけど嘘じゃない短い答え。
それ以上は言わない。
階段を上がる。
その途中で。
人影。
白神青司。
壁にもたれ、こちらを見ている。
ツムギはすぐに姿勢を正した。
「白神先輩」
青司の目がツムギを見る。
一瞬。
それだけで、測られた。
「……昨日の候補生か」
ツムギは頷く。
「はい」
青司は迅を見る。
「真琴が関わってるな」
迅は答えない。
否定しない。
ツムギはその会話を記憶する。
⸻
本部。
白い廊下。
機密区域の前で、紗月がツムギを止める。
「ここから先は入れないわよ」
学校からずっと着いてきていてさすがの私もうざいと感じてしまった。
ツムギは言う。
「現場研修です」
紗月の目が冷える。
「現場研修ならさっさと自分の持ち場に戻りなさい」
そのとき。
奥から足音。
真琴。
「問題ない」
全員が見る。
真琴はツムギを見る。
「今日から彼は、ZEROが預かる候補生だ」
沈黙。
紗月の警戒は消えない。
迅の胸の奥の違和感も消えない。
青司は何も言わない。
碧は、ただ聞いている。
ツムギは頭を下げた。
「よろしくお願いします」
そして。
機密区域へ足を踏み入れる。
候補生施設の人間が、
ZEROの領域に入った。
迅はその背中を見つめる。
理由は分からない。
ただ。
何かが、動き始めた気がした。




