第一話 選ばされる側
※本作は一次創作です。
※AIは執筆補助として使用しています。
教室の窓から差し込む光は、少しだけ白かった。
月守碧は、机に頬杖をついたまま黒板を見ている。教師の声は聞こえているし、内容も理解している。ただ、意識の端が、どうしても別のものを拾ってしまう。
教室の後方。
ロッカーの影に、薄く揺れる気配があった。
霊だ。
自我はあるが、人に害をなさない。悪霊ではない。
だから、今は何もしない。
碧は視線を戻し、ノートにペンを走らせた。紙の上を滑る感触に、わずかに気持ちを集中させる。
「月守、ここ分かる?」
隣の席から、小さな声がかかる。
「うん、わかるよ?」
「さすが。ねえ、今日放課後さ、みんなで寄り道しない?」
新しくできた店の話を、少し楽しそうに続けるクラスメイト。
碧は一瞬だけ、言葉を探した。
行けない理由はある。
でも、それを説明するつもりはない。
「ごめん。今日は用事があるの」
「そっか。また今度ね」
授業中の会話はそれで終わった。
慣れている。
断ることにも、少しずつ距離ができていく感覚にも。
放課後。
校舎裏の人目につかない場所で、四人は自然と集まった。
「今日の英語、当てられたの誰だっけ」
「紗月だろ」
「うるさい。迅も答えられてなかったでしょ」
「碧は?」
「普通」
裏鬼 静司、裏鬼 紗月、白神 青司。
他愛ない会話を交わす様子は、どこから見ても普通の高校生だ。
進む先が、国の重要機関であることを除けば。
霊と共存するこの世界で、悪霊を処理するための中枢施設。
ーー悪霊殲滅部隊。
それだけでもおかしなことなのに殲滅部隊ZEROの部署に入る。
殲滅部隊ZEROここは、本部にしか存在しない、特別な部署。
ただの学生では無いことは、わかるでしょう。
「こんにちはー」
扉を開けると、他部隊の隊員と、黒羽 真琴が顔を上げた。
「お疲れ」
「今日は訓練だけだ」
短い言葉を交わし、訓練場へ向かう。
その途中で、空気が変わった。
背筋が伸び、視線が鋭くなる。
制服のままでも分かるほど、高校生の顔は消えていた。
訓練場の中央で、碧は足を止め、ある事を考えた。
――百鬼楓滅の書。
名を思い浮かべるだけで、身体の感覚が変わる。
今、この書に書いてあるのは、今は、1ページのみ。
第一頁霊糸―土蜘蛛
まだ、発動できるほどの力じゃない。
それでも、この頁の存在は、碧の身体に深く刻まれている。第一頁
あの日のことを、思い出す。
初めて、霊がこの書に名を連ねた日。
相手は、地に縛られ、討たれ、異端として扱われた存在だった。
糸を張り、絡め取り、逃がさぬ力を持つ――土蜘蛛。
碧は、力を奪いたくなかった。
だから、ただ条件を告げた。
「……私が生きている間だけ。それでもいいなら」
返事は、言葉ではなかった。
それでも確かに、同意だった。
書が、熱を持った瞬間。
見えない糸が、世界に張り巡らされた気がした。
それが、すべての始まりだった。
碧は、静かに息を吐く。
今も変わらない。
自分は、選んでいるわけじゃない。
選ばされている。
月の気配が、そっと寄り添った。
最上級霊・ルナは、何も言わない。ただ、碧の記憶と沈黙を受け止めている。
月守 碧は、今日もまた、選ばされる側だった。




