ちゃらんぽらん男
魔王城のエントランスまで戻ってきた俺は、しかし城外には出ずに階段を上がっていく。
「どこへ向かってるんです?」
「オヤジの部屋」
「魔王様の寝室? なぜ……?」
なぜも何も、どうせ捕まりゃ処刑される身だ。
だったら退職金代わりに以前から目をつけてたもんをいただいていこうじゃないかってなもんだが、いちいち説明している時間が惜しい。
給仕の姿がないことを確認した俺たちは、魔王の寝室に忍び込む。
金目のものはない。そんなもんは期待していない。人間の王とは違い、ああ見えて民にとっては良王だ。無駄に飾ることはなく、結果のみで語る。
ただ、それゆえに力には固執する。例えば、魔王一族に代々伝わる、当主のみに帯剣を許された、この宝剣のような。
「へへ、あった。こいつだ」
魔剣アンフィスバエナ。双頭の竜の化身と呼ばれる二対一組の剣。魔法や魔術がほとんど通用しない竜種の力を宿しているだけあって、魔法も魔術も切れるらしい。
魔法適性のない俺がこの世界で生き抜くには、対魔法・対魔術の力を秘めた武器が必要だ。………………あと、最悪、売れば生涯遊んで暮らせる大金になるしな?
「前から欲しかったんだよなあ。いただいていく」
「ちょ、正気ですか!?」
何もわかってねえガキだった俺を、今日まで散々冷遇してくれた一族へのお礼ってやつでもある。放っといたら兄貴のもんになってただろうしな。
「やめときましょうよぉ!」
「声でけぇよ。見つかっちゃうだろ~」
「う……」
自分で自分の口を押さえてら。かわい。
安心させるように、俺はあえてニカッと笑って見せた。
「どうせ処刑は確定してんだ。ひとつふたつ罪を重ねるくらい、どうってこたねえだろ。誰かを傷つけるわけじゃあるめえし」
「ラドルファス殿下……本当に変わってしまわれて……」
俺はキリッと胸を張った。
「立派に?」
「そんなわけないでしょうッ!?」
はっはっは。すんごい怒ってる。かっわい。
「もう殿下じゃねえよ。何度も言ったが敬称も不要だ」
「で、ですがそれは……」
「戦場じゃいつものことだろ?」
「う~」
ただのラドとツィリルでいい。
俺は指先で頬をかいて、視線を少しそらせる。
「それに俺たちは血よりも濃い絆で結ばれているからな」
「……え」
不意を突かれたように、ツィリルが見上げてきた。
俺は優しい笑みで応える。
「共・犯・者☆」
「ヤダー!」
この剣がありゃ、ツィリルのことを守ってやれる。いつかこいつにいい人が現れるまでな。なんせもう娘みてえなもんだ。ちょ~っと前までは憧れのオネーサンだったけど。
魔剣アンフィスバエナを左右の腰に差す。あとは旅のローブで隠せば準備完了だ。
「さぁ~て、自由への旅立ちだ。いざ行かんってな。はっはっは」
「不自由な逃亡生活の間違いでは?」
ジト目が心地いいね。
俺は飄々と言ってのける。
「見方の違いだろ。なんでそんな悲観的になるかなあ。だ~いじょぶだ。魔族領域さえ出ちまえば、そう簡単にゃ見つかんねえって。心配すんな。旅はきっと楽しいぞ~。うめえもん食って、いろんな景色見て、適当なとこに家建てて暮らそうや」
彼女の背中をポンポンと叩きながらそんな気休めを言ってやると、何やら泣きそうな顔になっちまった。
「うう、旅がすぐに終わらないことを祈りますぅ」
「そんなに楽しみにしてくれていたなんて、感激だなあ」
「存在しない深読みをしないで。言葉の通りですから」
縁起でもない。そういうの前世ではフラグっていうんだぞ。
「わっははは! だ~いじょぶだいじょぶぅ!」
「どこからくるんですか、その自信」
その日のうちに、俺たちは魔都からトンズラした。
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