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魔王さんちの三男坊はいい加減すぎる  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』


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不穏な空気ぃ~




 前世を思い出したとはいえ、今世での帰宅場所は決まっているわけで。

 あれ以来追っ手が現れることはなく、俺たちは無事にラーナケイン大森林を抜けて街道を歩き、魔都ブライローズへと生還することができた。

 ここが魔族領域――ブライローズ連邦の中心となっている、魔人の都だ。


 うずくまる傷病兵らがちらほら見えるが、都は基本的にはいつもと変わらず賑わっている。傷病兵に差し伸べられる手も少なくない。ただし、魔人種には、だ。獣人や亜人は、路地で力なくうなだれている。

 ブライローズは住民のおよそ六割を魔人種が占め、残る三割以上を獣人と亜人が、そして一割以下、わずかばかりの妖精族が暮らしている。そこには確かなヒエラルキーが存在している。


 だがこれは魔都の中だけでの話だ。

 連邦の他の州では、妖精族と並んで圧倒的に魔人の数が少なくなる。大半が獣人だ。やつらは一度の出産で何体も生まれるからな。絶対数が多いんだ。

 当然、獣人の支配する街では、魔人に手を差し伸べられる手が減る。

 連邦国家ってのはそういうもんだ。


 魔族とひとくくりに言っても、実のところ魔人の数は全体から見りゃ一割以下だ。妖精ほど少なくはないが、それでも種族の立場的に決して恵まれた存在ではない。魔王が魔人から選ばれているのは、暴力、すなわち魔力総量の差に他ならない。

 個の力こそがすべて。一番強いやつに他が従う。それが唯一、魔族の掟だ。


「どこも変わらねえな」

「どうかしましたか?」


 脳裏をよぎったのは前世の世界だ。独裁者なんて珍しくもねえ。


「なんでもねえよ」


 ま、俺にゃ肝心の強さはなかったんだが。だから後継者争いから弾かれた。つい先日までは身の程知らずにも、それでも魔王を目指しちゃいたけどな。

 甘ったれたくっだらねえ理由でな。思い返しゃ顔が染まるくれえ恥ずかしいね。


「今回も生還できましたね」

「んだな」

「……いくら親子でも、魔王様の前ではその口調はあらためてくださいよ。頭がおかしくなったと思われますよ。なってますけど」


 いつも一言多いんだよなあ。


「へ~いへい」

「へいは一回! あ……」


 失言で赤くなってら。


「Hey! わっかりましたっ」

「もう! こんな子じゃなかったのに!」

「気分はおっさんだからぁ」

「ウザい」


 心を的確にえぐってくる三文字を選ぶもんだなあ。


「おまえさんこそ、そんなに口悪かったっけ?」

「……」

「そうかぁ。無視かぁ。そうですかぁ。はい」


 魔都中心街レイニー地区。

 魔都の行政を司る地区だ。区画整理されているブライローズの中にあって、ひときわ白く美しく輝く一画。その中央に偉っそうに聳え立ってんのが我が家。

 すなわち、現魔王ゴトリー・オルロンドが鎮座する、通称〝魔王城〟だ。

 見上げてため息をついた。

 帰りたくね~。前世で言えば出社するときの気分に近いわ。


「ラドルファス殿下!」


 俺の姿を認めた門衛の魔人らが、慌てて出迎えてくる。

 俺なんぞにへりくだったところで何のメリットもないと思うが。


「よくぞご無事で!」

「おお。あんがとさん」

「……へ? ええ……?」


 いつもと態度が違いすぎたせいか、怪訝な表情をされてしまった。

 だが門衛の魔人は慌てて表情を引き締め、神妙な面持ちで口を開く。


「魔王様がお呼びです。帰還次第お伝えせよと」

「オヤジが? ――ンイッ痛!?」


 直後、ツィリルに尻をつままれて俺は言い直す。


「ち、父上が?」


 ちくしょう、ツィリルめ。新しい扉が開いたらどうしてくれるんだ。最高だろ。


「はい。此度の戦についてのことらしく」


 そっか。兄貴の手勢の撤退に一役買ったから、珍しく報奨でもくれるんだろうか。別にもう会いたいとは思わんが、せっかくだ。もらえるもんはもらっとくかね。


「わかった。すぐに向かう」

「ハッ!」


 それだけを伝えると門衛は自身の立ち位置へと駆け戻り、大鉄扉へと向けて大声をあげた。


「――開門! 開門! ラドルファス殿下! ご帰還!」


 大鉄扉がその身を軋ませながら、ゆっくりと開かれていく。

 ちなみにこいつは簡単な絡繰り仕掛けだ。取っ手を回せば頑丈に編まれた縄が引かれ、歯車が回る。いかに魔人でもこのレベルの大鉄扉を素手で開くには、十数名を要する。

 魔法仕掛けにすることも可能だが、その場合は魔法術式に詳しい賊がひとりでもいれば、簡単に開けられちまうかららしい。

 ハイテクほど落とし穴があるのは、前世と同じだな。


 入城し、並ぶ給仕の亜人らに出迎えられながら、俺はエントランスを進む。つい先日までは見飽きてなんとも思わなかった給仕服も、前世を思い出したいまはかわいらしく見える。ネコ科の獣人メイドちゃんとかやばいだろ。腰叩いてゴロゴロ言わせてえ。


「何を鼻の下伸ばしてるんですか」

「伸びてない」

「伸びてましたよ」

「伸びたこともない」


 広い赤絨毯の廊下も、居並ぶ石像も、なかなか大したもんだ。

 この石像はゴレムやガーゴイルと呼ばれる、魔法で作り出された命の模造品だ。侵入者がいた場合にのみ、こいつらは一斉に動き出す。意思は存在せず、食い物も必要なく、魔力さえ供給すりゃ壊れるまで働き続ける。


 はっはっは、前世の俺みてえ!

 泣けるわ……。


 木造の大扉の前に立っていた年老いた執事魔人が、俺とツィリルの姿を見て扉を開いた。


「お帰りなさいませ、ラドルファス坊ちゃん」

「坊ちゃんはよせ」

「失礼いたしました」


 謁見の間。

 そこには玉座に腰を下ろす、ひときわ体躯の大きな魔人と、そしてその右側には兄ロガビュが従うように立っている。我が家族ながら、おそるべき威圧だ。

 第二王子レヴィリアの姿はないな。ロガビュほどではなくとも力はあるのだが、あの人はただのいい加減な自由人だから。

 ……んん? 先日までの俺ではだめだったが、いまならむしろいい酒が飲めそう!

 玉座の前まで歩み寄り、俺は形式的に片膝をつく。


「ただいま戻りました。父上、兄上」


 ちなみにツィリルは入り口近くに控える執事とともに立っている。魔王に近づくことを許されてはいないからだ。

 魔王からの返事はない。

 ただ、いつも俺を見るときの興味の失せた目に、ほんの少し、苛立ちの色を滲ませていただけだった。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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― 新着の感想 ―
連続更新ありがとうございます&お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 三話目でラドの言動にブレがあったから頭の打ちどころが悪かったのかと半ば冗談の様に思っていたら事実だった件。 いや、前世云々は想定外でしたが…(…
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