最終話 生きてるだけで丸儲け
と、ずらかるその前にだ。
俺が視線を回すと、いつの間にかローナはすぐ背後に立っていた。そのまま無言で俺を見上げている。
くりくりお目々がかわいらしいわ。俺の孫な気がしてきた。そうだ、俺の孫にしよう。
「おぢは、まおーさんちのひとなんか?」
「そうだよ。こう見えて魔王――オルロンド家の三男坊だ。あ~、訳あって魔王城にゃもう戻らんのだが、おまえ、どうせオルロンドに用があるなら俺たちと来るか?」
尋ねてしまってから、失敗したと思った。
ああもう、ほら、ツィリルが片手で目を覆ってうつむいた。呆れてやがるんだ。
拒絶されたらどうしようもなくなっちまう。選択肢なんてローナにも俺たちにも最初から存在しないのだから。そもそもここに置いて見捨てていくくらいなら、最初から助ける必要さえなかったんだ。かといってローナを連れて実家に帰るってなこともできねえ身分になったわけで。
バカだな、俺は。誘拐してでも、連れてかなきゃならねえのに。
どう言い直そうかと思い悩んでいると、意外にもローナは素直にうなずいた。
「いく。ローナはおぢをろーらくする」
「そっか。俺、おまえに籠絡されんのか。それも悪くないな」
「だろー? さてはおぢ、ろりこんだな」
「どこでそういうの覚えてくんの? 学校で流行ってんの?」
孫みてえなもんだし、かわいいし。
「ま、いいや。んじゃまあ、一緒に行くかね」
「うむー。よろしく、おぢ」
「おう、よろしく、ロリ」
小さな右手が差し出される。
反射的に握った。
魔人の中では決して大きいとは言えない、半魔人である俺の掌ですら、すっぽりと収まる小ささで……柔らかく、俺よりも体温が高かった。
泣きも笑いもしねえローナが、俺を見上げてつぶやく。
「ローナ・アデリール。おかーさんの、おなまえ。アスモラヴァはきらい」
「そうか。アデリールか。かっちょいい家名だな。俺はラドルファス・オルロンドだ。んで、こっちは――」
ツィリルが白金の長い髪を片手で掻いて、眠そうな半眼をローナへと向ける。
「ツィリル・レッキア。よろしくお願いします、ローナ」
ローナがツィリルを見上げて首を傾げた。
「おぢとツィリルねーさんは、どーゆーかんけい?」
俺とツィリルは同時に目を見合わせて、視線を泳がせ、首を傾げる。
上司と部下……は響きが嫌だな。友人か、あるいは家族か。
俺が応えあぐねていると、その様子を横目で見ていたツィリルが少し笑った。
「安心してください。わたしは弁えた愛人ですので、ローナの婚活の邪魔はしません」
「ちょっと!? 子供相手に何言ってんのっ!?」
「お、おお、あいじん……おとなのせかい……。……きいぃ、このどろぼーネコ?」
「はい、なんですか?」
ローナが空いている左手で、ツィリルの右手をつかむ。
三人で手を繋ぐと、なぜかこそばゆいような感覚になった。理由はわかっているが、恥ずかしいから口には出さない。
ツィリルがローナの頭越しに、俺に視線を向けた。
「これからどうするんです?」
当然、人間族の領地には行けないし、魔族領にもとどまれない。
海を渡るか、山へ入るか。
実のところ、もう決めている。
「辺境の奥深くに温泉が湧いてるらしい。人の手がまだほとんど入っていない自然のもんだ。もうすぐ冬んなるし、とりあえずそこを目指そうと思ってる。ロマンあっていいだろ、雪ん中の温泉。酒とつまみ買ってしっぽりいこうや」
「こんよくか……えっちだ……」
なんでだよ。こいつ、変なことばっかり知ってやがるな。
「はっはっは、心配すんな! 俺には自慢の結界魔法がある!」
外すもつけるも俺次第だが。あと、はみ出るかもしれんけどなっはっは。とか口に出して言うと、ツィリルに「あり得ないのでは?」とか冷静に言われそうだからやめとくわ。
ツィリルが冷笑を浮かべた。
「雪の温泉って、お猿さんみたいでラドにはお似合いですね。そのモザなんとかを使っておひとりでどうぞ。わたしは後ほどローナと入りますから」
あいかわらず辛辣ぅ……。
ひとりでモザイクかけてどうすんだよ。
夕日の中を手を繋いで歩く。
前世も今世も色々あったけれど、なんかいまが一番楽しい気がするな。
楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。
今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後も何か投稿していくつもりではありますので、またお付き合いいただけますと幸いです。




