救命
オフリーの腕はツィリルによって木っ端微塵にされたから治療することはできないが、ドルグシンの方はまだ間に合う。
俺は未だ剣を握ったままの豪腕を拾い上げ、気絶しているドルグシンの側にかがみ込み、肩の傷口へとあてがった。
なけなしの魔力で治療魔法をかける。
「助けるんですか?」
「ああ。ドルグシンには、ローナがちゃんと王族にさらわれたってことをオヤジや兄貴に伝えてもらわにゃ困るからなあ」
そうしなきゃ、ローナは逃げ出したことにされちまう。そうなりゃ人王であるアスモラヴァ帝は、人質になっているローナの母親を処刑するだろう。だが曲がりなりにもローナが魔王一族に嫁いだって事実さえありゃ、処刑は免れる。
もっとも、娘の死を知ってつらい人生を送ることにはなんだろうが。そこはまあ、どうにかして俺たちで追々解消してやりゃあいい。
彼女に、ローナは生きている、と知らせに行ってやるんだ。
すぐに、とはいかんだろうが、どうせ目的もねえ旅だしな。長い目で見りゃ人間の街を歩いてみんのもおもしろいだろうよ。
んーで、ついでにだ。
人王であるアスモラヴァ帝から見りゃ、ローナをさらった魔王の三男である俺は、どこかでローナとともに爆死したことになる。例の魔術陣の発動によってな。
これで俺とツィリルの死の偽装が完成する。
腹の魔術陣の存在を知らねえ魔族側の追っ手は誤魔化せねえだろうが、少なくとも人間側から狙われる恐れはなくなるはずだ。
「くくく、WIN-WINとはこのことよ」
ツィリルが眠そうな目でパチパチと拍手をした。
「まあ、あくどい。あのまっすぐでかわいらしかったラドルファス殿下が、前世を思い出した途端に、こんなにも立派に性根がねじ曲がるなんて。小賢しい変化ですね」
「ばっか、よせやいっ」
「……一言も褒めてませんよ?」
「〝あのまっすぐでかわいらしかった〟までは褒めてたろ」
「もう、ああ言えばこう言う……」
まあでも、確かにガキだった俺にゃ思いも付かなかったろうな。
そう考えると成長したもんだ。
「さて、と」
オフリーの野郎は……。
どうすっかな。無骨なドルグシンとは違って、それこそこいつは性根からねじ曲がってて嫌いだったしなあ。このまま放置して失血死させてもいいような気もする。伝令役なんてひとりで十分だし。
まあでも。
俺はツィリルを見上げた。
「ツィリル、助けてやってくれ」
「嫌ですが? 生きるも死ぬも、自然の流れに任せましょうよ。川を流れる儚い木の葉のように」
大抵沈んで朽ちるやつだ。
「命令」
オフリーは格下と侮っていたツィリルに完膚なきまでに敗北した。
恨みを持たせた敵を復活させちまうのは危険だが、それ以上に軍の重役を殺すことで本格的に軍部に動き出される方が厄介だ。これでも地位のある魔将軍だしな。
別にこいつの同情したわけじゃあない。
俺はもちろんツィリルだって軍に追われりゃ、さすがにひとたまりもねえ。それだけだ。
そんな気持ちを知ってか知らずか。
「もう殿下はやめられたのでしょう。すでに主従関係ではありませんから、命令は聞けませんね」
ああもう。都合のいいときだけこれだ。
よっぽど、俺の慰み者扱いされたことに腹を立てていたようだ。俺、あんまり好かれてねえんだろうなあ。それはそれでショックだ。
「お・ね・が・い・し・ま・すぅ!」
「うふふ、最初からそう言えばいいのに。命の恩人の願いは断れませんね」
だったらすんなりやってくれる!? おまえこそ、そんな娘じゃなかっただろ!?
ツィリルが掌に浮かせた魔力を、一瞥すらせずにオフリーへとポイっと投げ捨てる。まるでゴミのようにだ。
なけなしの貧相な魔力しか持たない俺と違って多少のロスなど一切構わず。さらに患部に手で触れる必要すらない。
ぐちゃぐちゃだったオフリーの創傷は、まるで刻を経たかのように傷跡へと変化していく。最後に極小結界を投げ捨てて疵を覆えば終わりだ。包帯代わりにな。便利だろ、結界魔法。
それでも、肉塊や骨片と化し地面に散った腕は、二度と戻らねえけど。ざまあねえな。
そうこうしているうちに、ドルグシンの腕もくっついた。呆れたことに、まだ剣を握ってやがる。根っからの武人。恐るべき魔人だ。こういうところ、ちょっとカッケェんだよな、こいつ。
俺だったら腕が取れたりしたら、剣なんて放っぽり出して泣きわめくけどね。痛いよママ~ンって大騒ぎしていたところだぜ……あ、今世の母ちゃんは顔さえ思い出せねえんだった。
「ツィリル」
「はいはい」
ツィリルが極小結界でドルグシンの右肩を覆った。
「うし」
人間ならまだまだ予断の許さない危険な状態だが、魔人ならばこれで十分。くたばることはないはずだ。あとはやつらが目を覚ます前にずらかるだけ。
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