きっかけ
眼前でも後方でも、情けも容赦もなく魔が絶命させられていく。
すでに決着はついている。それでも人は逃げる魔を、執拗なまでに追う。なけなしの理性を濁流のような感情が押し流し、鋼鉄で命を斬り裂いていく。
それが戦争、それがヒトというもの。魔族も人間も変わらない。
「く――!」
月を背景に弧を描きながら飛来してきた巨大な炎の塊を見て、とっさに剣を構えた。着弾点には、味方を背負って必死で逃げる魔人の姿があった。
まずい――!
僕は魔法が使えない。人間族の扱う魔術を防ぐことができるのは、魔人族の魔法だけなのに。出来損ないの魔人だから。
いっそこの身を犠牲に。
そんなことを考えた瞬間、僕の視界を遮るように前に躍り出たツィリルが、魔術の炎へと両手をかざした。
「魔術の対処はわたしが!」
「――!」
空間が震える音がして、彼女の掌を中心として景色がぐにゃりと歪む。
着弾した炎が大きく拉げて広がり、けれどもまるで空気の壁に遮られたかのように僕たちを呑み込まず、撓んで破裂し、そして消失した。
対魔術結界だ。自分で開発しておきながら、僕自身には扱いきれなかった魔法。
いや、正確にはできる。結界術をツィリルに教えたのは他でもなく、僕自身なのだから。ところが肝心の自分はと言えば、技術はともかく魔力の出力がまるで足りず、結界を張ったところで極小になるか、そうでなければすぐに割られてしまう始末だ。
つくづく無能さに嫌気がさす。
ああ、この身に流れる血の半分が、人間族のものじゃなかったなら。あるいは、せめて人間族の魔術師たちのように、世界から魔力を吸収して魔術に変換することができたなら。
そうしたら、魔王は僕を見てくれただろうか――……。
熱風が爆ぜた。白金の長い髪を踊らせた女の頭部を目がけて飛来してきた矢を、今度は僕が彼女の肩に手を置いて跳び越え、剣で斬り落とす。
白金の髪を揺らして俺に睨み、ツィリルが不満げに声を荒らげる。
「……ッ!? あなたがわたしの盾になってどうするんですかっ!?」
味方は通し、敵は殺す。
何人も、何人も。
さすがに腕が上がらなくなってきた。息も上がる。呼吸が苦しい。
「言いたいことはわかるけど、それはお互い様だろ」
「立場が違います!」
斬りかかってきたふたりの騎士を、それぞれ骸にする。
彼女は炎の魔力を込めた拳で鎧を溶かし貫き、僕は鎧の原型が残らないほどの威力で剣を乱暴に叩きつけて。
力だけはある。流れる血のもう半分は、魔人の――それも魔王のものだから。けれどそれだって、父や兄たちに比べれば劣る。
魔人と人間、そのどちらの種族の特性も持たず生まれてきた中途半端な出来損ない。
それがいまの僕だ……。
「いい加減限界ですッ!! これ以上はもちません!」
気づけばもう、生きて動いている味方の姿は視界からなくなっていた。
あるのは殺気立ち、こちらに駆け寄る人間族の軍勢のみ。
「よし。ツィリル、撤退――」
「――ラドッ!!」
僕の言葉を遮って、ツィリルが名を呼んだ――直後。
「あ……」
骨の音とともに頭部に衝撃を受けた視界は赤黒く染まり、そのまま消失した。
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