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魔王さんちの三男坊はいい加減すぎる  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』


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常識を持って生きてきた




 鼻歌交じりにローズ街道をいく。すれ違う旅人がクスクス笑っているが、精神年齢がイっちまったせいか気にもならねえや。むしろ聴かせたいね、俺の美声を。

 前世風に言やあ、旅の恥はかきすてだからな。らららーってなもんよ。

 俺たちが魔都を脱出してから、三日が経過していた。


「その調子っ外れの歌、どこの音楽です?」

「前世だよ」

「へぇ~。今度よく聴かせてください」

「やだよ。恥ずかしい」

「いまさら!?」


 こいつとは旅恥かきすてって間柄でも済まねえしな。いつまで一緒にいられるやら。年頃になっていい人ができたら結婚式とかで泣いちゃいそう。

 自慢の娘なんですーって。

 ツィリルが意外そうにつぶやいた。


「いまのラドにも恥っていう概念は一応あったんですね。驚きです」

「なにおう!? 俺だって傷つくんだぞぅ!?」

「うふふ」


 何笑とんねん。王子じゃなくなった途端にこれだ。かっわい。

 魔都を含むブライローズ連邦を南北に貫く、大きな街道にいた。南方は竜の閨から魔都の遙か北方、巨人族の棲まう山岳地帯ギラまで繋がっている。

 ちなみにローズ街道から支流のように繋がる街道を西に向かえば獣人王の獣王都が存在し、東に向かえば妖精の森林村がある。森林村は魔族随一の観光避暑地だ。何もねえけど。


「ここまで来れば一安心でしょうか」


 目深に被っていたローブのフードをようやく上げて、ツィリルがそんな見当違いのことをつぶやいた。

 まあ、下手な変装を解くのは賛成だ。()()()()()()()()()

 俺もフードを上げる。


「かもな」

「歯切れが悪いですね。尾行されてます?」

「まだわからん」

「……冗談だったんですけど……」


 ずっと、魔都を出てしばらくしてから今日まで、ずっとだ。

 俺たちの後をついてきているやつらがいる。振り返っても芥子粒程度の大きさだから姿は判然としねえし、距離はかなり開いちゃいるが。

 そいつが俺の被害妄想かどうかは、今日中には判断できるはずだ。


 山岳地帯ギラは方角違いだからさておき、ローズ街道は、獣人族の獣王都や妖精族の森林村、その他、ブライローズ連邦に点在する街や村に続く、小さめの街道へといくつも分岐している。

 俺たちはもう魔族領域にはいられないから、とりあえず人間領域と魔族領域の外側にあたる辺境を目指して進んではいる。すでに獣王都へと続く街道は通り過ぎたし、森林村へと続く街道も近い。


「いい天気ですね」

「んだなあ」


 もうすぐ森林村へと続く分岐地点だ。ローズ街道を南下する者はいない。ほぼ全員が左手に曲がるはずなんだ。

 だが、その分岐を通り越しても、やつらは俺たちのあとをついてきていた。


「まじいな。――ツィリル」

「なんです?」

「やっぱ尾行られてるわ。魔都を出てからずっとだ」


 これより先はラーナケイン大森林と、人間族に奪われた大渓谷〝竜の閨〟しかねえ。

 要するに、そんなとこに用がある魔族がいるとするならば、軍関係者くらいのもんだ。だが、だとすれば徒歩というのもあり得なくなる。

 伝令にせよ輸送にせよ、普通は馬や魔獣に乗っているもので。


「もー! ラドが魔剣なんて盗んでくるからですよ!」

「バッカおまえ。魔剣だけじゃなくて金目のもんもちゃんと盗ってきたっつーの。魔王城の廊下に並べられてた鎧についてる宝石とか、ちゃんとくり抜いてきたっつーの」

「なんて手癖の悪さ……」


 路銀は必要だからな。

 鎧の宝石はもちろんのこと、魔王(オヤジ)の部屋にある懐に入るサイズの金目のもんは大体持ってきた。とはいえオヤジは質素倹約がモットーだ。ほとんどが足の付かねえ量産品だったから、弁当を買うついでに城下町でさっさと売り捌いてやった。足下見られて二束三文だったけど。


「……なんてあくどい顔……少し前までこんな子じゃなかったのに……」


 ちなみに、さすがに魔剣は売れない。こいつは国宝級のもんだから即時に足が付く。売り飛ばすとしたら人間領域か、まだ見ぬ辺境についてからだな。売れる場所があればだが。

 くっくっく、これからは楽に生きるぞー!


「いい加減に腹ァくくれ。俺たちは魔王を裏切った世紀の大犯罪者だぞ」

「追い打ちはやめてください」

「それに魔剣の持ち逃げは関係ねえ。もしこれが原因なら早々に止められてたはずだ」

「バレていたら、でしょう?」


 背後をそっと伺うが、どういう意図なのか、あいかわらず付かず離れずだ。

 もう他に旅人の姿はない。追っ手ならそろそろ追いついて来るはずだが。


「微妙だな~。あれじゃ目的がわからん」

「面倒ですね。どこかで振り切れればいいのですが……。一度足を止めますか?」

「おまえさんが狂戦士のようにあえて戦いてえならそうするが、なんかやぶ蛇な気もするしなあ」

「……あなたよりは常識を持って生きてきたつもりですが」


 んでも、先手を打った方が有利なのは間違いねえ。場合によっちゃ、こっちから近づくのもありか。

 そんなことを考え意識を前方へと戻そうとしたとき、俺は街道端の草原で奇妙な塊を見た。


 それは小さな影に覆い被さる小型の竜ヴィーヴルだった。その腹下では、短い両手を突っ張って、噛みつきからどうにか逃れようとしている子供の姿があったんだ。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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