神さまが幼馴染を恋人に変えてくれた話(A面)健全版
はじめまして、またはお久しぶりです。アトリエだいこんやです。
突然ですが、「可愛い恋人が欲しい!」って願ったら、神様が“とんでもない形で”叶えてきたらどうしますか?
本作は、幼馴染ふたりが(いろんな意味で)距離感を見失いながら走り出す、夏のラブコメです。
※テンポ重視で進みます。肩の力を抜いて、ツッコミながらお付き合いください!
それでは、どうぞ。
ああっテキ神さまっ
初夏の午後、蝉の声が響く小さな町で。祥太と春輝はいつものように公園のベンチでだらだらと時間を潰していた。
二人は今中学1年生。幼稚園からの幼馴染で、互いを誰よりも理解する相棒だった。喧嘩もするが仲直りも早い。まるで兄弟のような関係だ。
「ねえ祥ちゃん、最近なんか面白いことあった?」
春輝が缶ジュースを飲みながら聞く。
「面白いことって、ゲーム以外でか?」
祥太がスマホをいじりながら答える。
その時、突然調子っ外れな男の歌声が聞こえてきた。
「やっぱっぱーやっぱっぱー、いーしゃんてんっと来らぁ!」
空気が異様にざわつき、目の前にふわっと光の粒が集まり、ゆるいパーマの髪に丸いレンズのサングラス、派手なアロハシャツにチノパン、よくわからないブランドのスニーカーを履いた、妙に軽い雰囲気の男が現れた。太っちょな体型に丸い顔。
パパイヤ鈴木と言えば、一定の年齢層にはすぐにイメージが伝わるはずだ。
「よお少年たち! 俺、神様! 名前はテキトーにつけて、テキ神でいいや。今日の出会いを記念して、お前らの願い、一つだけ叶えてやるぜ!」
祥太と春輝は目を丸くして顔を見合わせた。思わず「はぁ?」と声を揃える。
「いやマジだって! ほら、さっさと願い言ってみな! ダメもとだろ?」
テキ神はサングラスをずらしてニヤリと笑う。
「あのー。願い事は二人で一つですか?」
おずおずと春輝が尋ねる。
「ん-、まあ本来はな。でも今日は初回特別サービスだ。一人一つ、叶えてやるぜ」
祥太は半信半疑ながら、ふと思いついた。
「じゃあ……俺、可愛い恋人が欲しい!」
「ボクは……」
春輝は神様に何やらひそひそと内緒話。
「カーッ! いいねえ、アオハルだねえ! 神さまそーゆーの大好き!」
テキ神が指をパチンと鳴らすと、春輝の身体が光に包まれた。
「うわっ、なにこれ!?」
春輝の声が次第に高くなり、シルエットが変化していく。光が収まると、そこには長い黒髪に大きな瞳、Tシャツとハーフパンツは春輝のままだったけど、まるでアニメから飛び出したような美少女が立っていた。
「え、春輝!? お前、女に!?」
祥太が絶叫する。
「ほい、鏡」
テキ神が手鏡を差し出した。
「うそ!? ボク、こんな可愛くなっちゃった!?」
春輝(美少女)は自分の身体を検分し、ご満悦のご様子。
「ご満足いただけて何よりだ! 神さまも嬉しいぜ!」
キャンセルの条件
「ちょっと待てやテキ神! 何だよこれ!」
祥太は慌てて抗議したが、テキ神は肩をすくめる。
「見りゃ解んだろ。『可愛い恋人』じゃん? ほら、親友がこんな可愛い子になったんだから、バッチリだろ?」
「バッチリじゃねぇ! 元に戻せや! こんなのいらねえ!」
祥太は叫ぶが、テキ神はニヤニヤと笑うだけ。
「こんなのいらないって……。祥太ひどい! お風呂でボクの大事なところ何度も見たくせに」
「わー!」
「ひどい彼氏だねえ(←彼氏じゃない)アレかい? 天罰当てちゃう感じ?」
「(グスッ)お願いします。二度とカツカレーとカップラーメンとポテチを食べられないようにしてやってください!」
「ぎゃ~! 待って待って待って!」
春輝(美少女)は目をキラキラさせながら祥太に詰め寄る。
「ねえ、祥太! ボク、めっちゃ可愛くなったよね? これならボク、祥太の恋人になれるよね? ね?」
「いや、ちょっと落ち着け! お前男だろ!?」
祥太は後ずさる。
「今は女の子だよ? ほら!」
祥太の手を取って自分の胸に押し付ける春輝。「むにゅっ」という柔らかな弾力を掌に感じて、祥太は鼻血を吹いて倒れてしまった。
「ウヒョーーーーッ、彼女ちゃん(←彼女ではない)だいたーんwwwドーテー少年にはちょーっと刺激が強すぎたかな?」
テキ神は大笑い。
「まぁ、キャンセルはしてやってもいいよ。ただし、いろいろ面倒な手続きがあるから今すぐには無理だ。3ヶ月! 3ヶ月経って、それでも気が変わってなけりゃあ元に戻してやる。じゃ、がんばってな!」
「3ヶ月……って、なにそれ!?」
祥太は頭を抱えた。
「はしゃぐーこいはー、いけのこいーっと」
テキ神はまた歌いながら煙のように消えた。
それからというもの、春輝の行動は日を追うごとにエスカレートした。朝は祥太の家に押しかけて登校のお迎え(あ、これはいつも通りだった)
手作り弁当を渡し、放課後は一緒に帰ろうと待ち伏せ(あ、これもいつも通りだ)
休日には「デートしよう!」と誘い(デートじゃないけど一緒に遊ぶのはこれもいつも通りだな)ピンクのフリフリワンピースで現れる。
春輝の無垢な笑顔と女の子らしい仕草に、祥太は次第に戸惑いながらも心が揺れ始める。春輝は制服をセーラー服に変えて、スカートもだんだん短くなっていく。
「春輝。お前、女になっちゃったのに何がそんなに楽しいんだよ……」
ある日、二人きりの教室で祥太がつぶやいた。
「だってボク、祥太のことが大好きだから! 男の時もそうだったけど、今ならもっと近くにいられるじゃん!」
春輝は頬を赤らめ、祥太の顔を覗き込んだ。その純粋さ、一途さに、祥太の心は更に揺れる。
「でも……俺とお前は親友同士だろ? こんなの、絶対おかしいよ……」
「おかしくないよ。ボク、祥太の恋人でいいよね?」
春輝はそう言って、そっと祥太の胸に頭を寄せる。祥太は拒もうとするが、春輝の柔らかい髪の感触と甘い香りに、理性がグラつく。
「……やばい。こいつ、めっちゃ可愛い……いい匂い……」
なんとなく運命が見えた気がして、祥太はそっと春輝の背中に手を回したのだった。
「(俺、もうダメかも知んない……)」
その頃、2人のママは
咲夜(祥太ママ)と美鈴(春輝ママ)
祥太と春輝が兄弟のような仲なら2人のママも幼馴染、姉妹のような仲だ。メールか、電話か、直接会うか、ともかく接触の無い日は無いと言っていい。
今日も今日とて咲夜から美咲にショートメッセージが入る。
咲夜19:11
ハルちゃん女の子になったってマ?
美鈴19:11
マ!
咲夜19:12
画像よろ
美鈴19:13
ホラ、見ろよ見ろよ[添付画像:春輝のワンピース姿]
咲夜19:13
グハァッ(吐血)
美鈴19:13
www
咲夜19:14
本人の反応は?
咲夜19:14
ショック受けたりしてない?
美鈴19:15
喜んでるからヨシ!
美鈴19:15
祥ちゃんのお嫁さんになる言うてるwww
咲夜19:15
これもうわかんねえなwww
美鈴19:16
祥ちゃんはなんて?
咲夜19:16
すごく可愛いって
咲夜19:16
どうしたらいいかわかんないってアオハルしてる
美鈴19:16
これはもう紫煙するしかありませんな?
咲夜19:17
2人の幸せがおれ達のジャスティス
美鈴19:17
詳細は明日
咲夜19:18
おkいつもの店で
そんなこんなで翌日の昼、2人は喫茶『ぴぐもん』で打ち合わせ(という名の悪だくみ)を開始、様々な企画を練ったのである。
まず目的を明確にする。最終目標は結婚としても、まずは第一段階『恋人同士』を達成せねばならない。その第一段階への第一歩はやはりファーストキスだ。その手段は?
幸い地域の花火大会まであと二週間。
「やっぱ浴衣デートよね?」
「原点にして頂点ね!」
「できれば第三歩くらいまで進んで欲しいんだけど」
美鈴は盗聴を警戒し、何故か手元にあるスパイメモ(水に溶けるやつ)に作戦を記入した。
「きゃー♡ きゃー♡ そこまで? そこまでやっちゃう?」
「黙れ声がデケえ」
はしゃぐ咲夜に慌てる美鈴。
「では成功を祈る」
メモ用紙をお冷やに溶かし、2人は店を後にした。
揺れる想い
祥太は悩んでいる。
母からの命令は「ハルちゃんを花火大会に誘うこと」
それ自体は問題ではない。花火大会は毎年一緒に出掛けている。
ただ今回は「浴衣の着付けをマスターすること」が加わった。しかも男女で異なる着付け両方をだ。
なんでだよ……と渋る祥太に対して母は強硬だった。
「男子たるもの、着付けの一つも出来ないといざという時困るのよ!」
二枚のDVDを押し付ける。
「それから、当日はハルちゃんのこと『可愛い』って、誉めて誉めて誉めまくるのよ! しくじったら一年間お小遣いなしだからね!」
お母さんの本気に震え上がる祥太だった。
一方、春輝は舞い上がっている。新しい浴衣を買ってもらえたのだ。白地にピンクっぽい花の模様が染め抜かれている。この花は撫子と言うのよとママが教えてくれた。これで必ず祥ちゃんとの仲が進展するから、と。
「もう一つ、恋のおまじないを教えてあげる。ママがパパと結ばれた時の必勝法」
「なに? なに? 教えて!」
瞳を輝かせる春輝。
「とっても簡単よ。浴衣デートの時はパンツを穿かない。ただそれだけ!」
「ええっ!?」
さすがに春輝も驚いた。Tシャツの裾を握りしめて赤面する。
「でも……それって……えっちなことだよね?」
ママは「そうよ」と事も無げに答える。
「ハルちゃんは、祥ちゃんが好きなのよね?」
「……うん」
「どのくらい好き?」
「……だいすき」
「ハルちゃんの初めてをあげても良いくらい?」
「……うん。祥ちゃんになら、全部あげてもいい」
「じゃあ、やるしかないのよ。チャンスは自分の手でつかみ取りなさい」
そして花火大会の当日が来た。
打ち上げ開始まではまだ時間がある。浴衣姿の祥太と春輝は、屋台が立ち並び提灯の明かりが揺れる参道を歩いていた。
子らの笑い声や屋台の呼び込みが響く。祥太は紺絣のシンプルな浴衣。背の高い祥太の凛々しさを際立てせている。
「祥ちゃん、カッコいい///」
「あ、ありがと///」
春輝の誉め言葉に、赤くなりながらも素直に応じる祥太。
「春輝も似合ってる。可愛いと思う」
ピンクの花柄の浴衣に身を包み、髪をアップにした姿があまりにも自然で、祥太は時折、目の前にいるのが長年の親友だという事実を忘れそうになる。
しかも女らしさ……と言うか、淑やかさがいつもの3倍増しだ。笑顔、細い肩、浴衣の裾から覗く白い足首――そのどれもが、かつての「親友」とは別人のように眩しく映る。
その原因がパンツを穿いていないことにあるのは祥太にはあずかり知らぬことだ。
「さ、行こう」
春輝が無邪気に笑い、祥太の腕に軽くしがみつく。その感触に、祥太の心臓がドクンと跳ねた。
屋台を見て歩く。
制服や私服の時の、弾けるような元気な笑顔。
祥太の記憶にある春輝とは全く異なる今の春輝。
ヨーヨー釣りの前にしゃがみ込む姿。射的の屋台で身を乗り出して狙いをつける姿。りんご飴を食べる姿……。なんだか、最初から女の子だった気さえしてくる。
「はい」
祥太の視線に気づいた春輝が食べかけのりんご飴を差し出した。袂を押さえる姿の、なんとたおやかなことか。
これって……と祥太は狼狽えた。こういうシェアは初めてじゃない。前々から普通にしていたことだ。でも今は……。
断ったらきっと春輝を傷つけるだろうな。祥太は極力何でもない風を装ってりんご飴にかじり付いた。
「どお? 美味しい?」
「まあまあ」
春輝が祥太の耳元に顔を寄せ、ささやいた。
「間接キスだね」
ぼんっ!と音を立てて祥太の脳みそが沸騰した。
こいつ、俺が考えないようにしていたことを……。自分が手玉に取られていることを、否が応でも自覚せざるを得ない祥太だった。
まあいいや。ちょっと腹を立てたが、嬉しそうに腕を組み身を寄せてくる春輝の笑顔を見ると何も言えなくなる。
「なに照れてんの?」
春輝がくすくす笑い、祥太の顔を覗き込む。
「ねえ祥ちゃん。ボクほんとに幸せだよ。こうやって一緒にいられるの」
花火の打ち上げが始まった。この地方では最大規模の光の祭典だ。
春輝の瞳は花火の光を反射してキラキラと輝いている。そこには純粋な想いが宿っていて、祥太は思わず息を呑んだ。
「……お前、なんでそんな真剣な顔すんだよ」
声が少し震える。
「だってボク、決めたんだもん」
春輝は一歩近づき、祥太の手を強く握る。
「ボクの全部を祥太にあげる。祥太の恋人になりたい。ずっと、ずっと一緒にいたいよ」
その瞬間、祥太の頭の中で何かが弾けた。
心の奥でくすぶっていた理性が、まるで花火のように散っていく。
『ダメだ、これは春輝だ。親友だろ?』という声が脳裏をよぎるが、目の前の春輝の真剣な表情、温かい手の感触、そしてその唇から漏れる小さな吐息が、祥太の抵抗を溶かしていく。
「春輝……。お前、ほんとにそれでいいのか?」
祥太の声は掠れていた。自分でも気づかないうちに、春輝の手を握り返していた。
「うん。ボク、祥太のこと……大好きだから」
春輝は精一杯の勇気を振り絞って言う。
「(言っちゃった。もう後戻りできないよ)」
心の中で自分を励ましながら、そっと祥太の胸に額を付ける。浴衣越しに伝わる彼の鼓動が、春輝の緊張をさらに煽る。
「(祥太もこんなにドキドキしてる。ボクだけじゃないんだ)」
その事実が、羞恥心を少しだけ和らげた。春輝の頬が赤らみ、浴衣の襟元から覗く鎖骨がわずかに震える。
その姿に、祥太の心は完全に折れた。『可愛い』——その一言が頭を支配し、親友としての線引きがどこかへ押し流されていく。春輝の女の子としての魅力と、自分への一途な想い、その両方が祥太を飲み込んでいく。
二人はごく自然に神社裏の静かな木陰に移動していた。花火の音も、周囲の喧騒もどこかへ遠のき、聞こえるのは互いの息遣いと、木々の葉擦れの音だけ。二人は大木の根元に立った。
「春輝……いいんだよね?」
祥太の声が掠れる。
「いいよ」
春輝が返答する。その声は、まるで壊れ物のように繊細で、しかし確かな決意に満ちていた。
祥太がそっと春輝の肩を掴む。
春輝の心臓が大きく跳ねた。祥太が自分をちゃんと見てくれているという親友としての信頼が恋心と混ざり合い、春輝を勇気づける。だが、同時に女の身体を意識するたび羞恥心が波のように押し寄せる。この身体……自分自身がまだ慣れてないのに。祥太に見られたら、どう思われるかな……。
祥太の心は大時化の海のようだった。
これは間違ってるんじゃないか? でも、春輝がこんな気持ちでいてくれるなら……と葛藤が頭を駆け巡るが、春輝の体温がその全てを上書きしていく。
祥太は一瞬目を閉じた。過去の思い出が脳裏に甦る。小学1年生の頃、転んで泣いた春輝を背負って帰った日。テスト前に一緒に勉強した夜。宿泊研修で同じ部屋になれなくて残念がった日。
いつも隣にいた春輝。
なのに今、こうして浴衣姿で自分を見つめる春輝は別人のように可愛らしい。浴衣の襟元から覗く白い肌が、花火に照らし出されて輝くように光る。
春輝が、こんな形で自分を求めてくれている。
「春輝……」
祥太はつぶやき、そっと春輝に頬を寄せた。その肌の柔らかさに、胸が締め付けられるような感覚が走る。
「俺も……お前のこと、嫌いじゃないよ」
その言葉を合図に春輝は祥太を見上げた。彼女の——いや、彼の親友の——唇が近づく。二人は初めてのキスを交わした。
最初はたどたどしく、互いの息が重なるだけの軽いものだったが、次第に熱を帯びていく。祥太の腕が春輝の背中に回り、浴衣の生地越しに感じる華奢な身体に、理性の最後の一線が融け落ちた。
「祥ちゃん……大好き」
春輝の囁きが耳元で響く。祥太はもう何も考えられなかった。ただ、目の前にいるこの存在——春輝であり、春輝でない新しい誰か——を強く抱きしめたかった。春輝の純粋な想いと、祥太の抑え切れなくなった衝動が、夏の夜の喧騒の中で溶け合った。
一つだった影が二つに別れる。春輝の顔は蕩け切ってまっすぐ立っていられないほどだった。これ以上の外歩きは危険かもしれない、そういう現実的な判断にあわよくばの下心を添えて祥太は春輝を誘った。
「俺の家に行こ? その……。今夜は誰もいないから///」
「うん///」
祥太に手を引かれ、歩き出す春輝。祥太の家までは徒歩10分もかからない。そう言えばパパとママ、今夜は帰らないって言ってた。祥ちゃんとゆっくりしておいで、何ならお泊りでもいいよって。まるでこうなることが判ってたみたい。
その頃、2人のママは②
美鈴も咲夜も、衣服だけでなくウイッグとメイク、サングラスで別人のように変装している。独身時代、ともに参加したコスプレイベントで鍛えた技だ。
2人とも今夜は家が留守になるように仕組み、ビデオカメラその他の準備を整えて待ち合わせ、我が子を尾行する。今宵は愛する息子たちの記念すべき一夜なのだ、記録しない手はない。
「おお、腕を組んで歩いてますなあ。春輝いいぞ、ガンガン行け(興奮)」
「祥太の奴、ちゃんとエスコートできてるやん。母は見直したゾ(感涙)」
「祥ちゃんは立派な男子だよ。でなきゃ春輝を預けたりしないよ」
「tnks。祥太ァ、しくじるんじゃないぞ……」
出店を楽しみながら歩き回る祥太と春輝を、周囲からの胡散臭げな視線をものともせずに尾行を続けるママたち。通報されないのが不思議なくらいだ。
「あ、間接キスよ♡間接キス♡♡」
「ハルちゃんったらだいたーん(*´ω`*)」
「こら祥太、寝てんじゃねえ。立て! 立つんだ祥!」
「よし、立ち上がった。祥ちゃんがんばれ!」
「花火ハジマタ。チャンスだぞ」
「手を握りましたなー」
「見つめ合ってますなー」
「抱き合った! 抱き合ったよ!」
「ああ、ハルちゃんうっとりして。幸せそう」
「祥太、ここでビビるんじゃねーぞ。男を見せろよォ!」
「お、移動している。これは? ひょっとして……」
「木陰に入ったああああああああ!」
「Shit! 向こうに回り込みよった!」
「よし、接近するよ」
「結構混んでるな」
「定番のイチャコラスポットだからね。仕方ないね」
「あっ、すみません。すぐあっち行きますんで」
「おっと失礼、ごゆっくり」
「ふう、ようやく反対側に回り込んだぜ」
「わっ、わっ、もうあんなことしてる!」
「ひえーっ。祥ちゃん大胆過ぎィ!」
「イッた! ハルちゃんイッたよ!」
「初体験で絶頂させるとは、末恐ろしい」
「立ち上がりましたな。移動するつもりかな」
「ああ、着付け覚えさせといて良かった」
「お、これは……」
「祥ちゃん、自宅へ連れ込む気だ……」
自宅で彼女と二人きりになったらまず何をするのかなんて、DT少年には分かろうはずもない。春輝が女の子になる前ならゲームしたり動画見たり漫画読んだりしてたんだけどな。本音を言うと、春輝とえっちなことしたい。さっきの続きをしたい。でも春輝はどう思っているんだろう。春輝がきっかけ作ってくれたらオレも動けるんだけどな。
春輝は期待している。さっきはお外であんなこと(都合により詳細は削除)されて、今は祥太の部屋で二人きりベッドに並んで腰かけている。きっとこれからあの続きをされちゃうんだと思うとお腹の奥が躍るように疼く。こんな時はなんて言えばいいんだろう。もちろんあの続きをしたい。でも自分から誘うのはやっぱり恥ずかしい。出来れば祥ちゃんから誘って欲しいんだけど。強引に押し倒されたい。嫌がるボクを無理やりハダカにして、最後までして欲しい。でもそんなこと言えるわけがない。
きっかけを掴めぬまま、ただ時間が過ぎていく。
ベッドの縁に並べられた二人の手。春輝の小指がピクンと痙攣して祥太の小指に触れた。
「あっ……」
祥太が反応し、その声が春輝を思い切らせた。春輝の左肩にそっと頭を乗せると、祥太が春輝の肩を抱いた。
「は、春輝……」
祥太の呼吸が荒くなっている。
「祥ちゃん。いいよ……」
「春輝!」
キスと同時に押し倒された。祥太の体が覆い被さって来る。全身が融けて混じり合うような官能に、二人は身も心も一つになった。
テキ神さま再び
カーテンの隙間から差し込む光とスズメの声で祥太は目を覚ました。昨日のことが夢だったのではないかと思ったが、春輝はちゃんと腕枕で寝息を立てている。もちろん二人とも全裸だ。毛布の下だから読者には見えない。残念!
暫しの間、祥太は春輝の寝顔を見つめていた。これがオレの恋人なんだなあと感慨に耽りながら。
そんなことを考えていたら、スマホが宙を漂って祥太の目の前に来た。ギョッとするが画面にテキ神さまが映っている。
「よお、少年」
画面の中でしゅたっと手を挙げるテキ神さま。相変わらず軽薄そうな神さまだ。
「手続きが完了したからお知らせに来たぜ!」
「手続きって?」
「願い事のキャンセルだよ、忘れたのか?」
「えっ? いや、その……」
「どうしたい、ハルちゃんを男に戻してやれるんだぜ?」
「……いいえ、このままでお願いします。春輝はオレの大事な彼女なんで」
祥太の表情には何の迷いもなかった。テキ神さまは満足げに頷く。
「そう来なくっちゃ! 俺様も仕事した甲斐があるってもんだぜ。じゃあお幸せにな!」
画面からテキ神さまが消え、コントロールを失ったスマホが祥太の顔面に落ちてきた。その騒ぎで春輝も目を覚ました。
「おはよう、祥ちゃん」
「お……おはよう」
昨夜のことを思い出すと真っ直ぐ春輝の目を見られない祥太。そんな祥太に、春輝はそっと身を寄せてくる。祥太は堪え切れず春輝を抱きしめた。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「あ、あの……大丈夫か?」
曖昧な言葉ながら春輝を気遣う祥太に、春輝は微笑みを返した。
「うん。ちょっとジンジンするけど、とっても幸せ……」
その言葉に、昨夜の春輝……自分の下で声を挙げながら身を捩る姿が思い出され、祥太は赤面する。
枕元のスマホが振動した。画面にはメール着信の通知、ママからの連絡だ。
「昼には帰るってさ」
つまり……昼まではまだ二人きり。
「あの……いい?」
祥太は春輝に覆いかぶさり、ほっぺに口を付けた。
「もう……祥ちゃんのえっち///」
二人はもう一度、身も心も一つに溶けあった。
テキ神さま。ありがとうございます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
願いの叶え方が雑すぎる神様と、振り回される主人公、そして一直線すぎる幼馴染――。
「いや、そうはならんやろ!」と思ってもらえたなら、作者としては大勝利です。
感想・誤字報告など、ひとことでもいただけると励みになります。
特に「ここで笑った」「この台詞好き」みたいなポイントがあると、次の作品作りの栄養になります。
それではまた、次の物語で!




