知らないこと
日曜日、やっぱり梨花はオレのところにやってきた。
…
一番はじめに来たときは、ただ遊びに来たんだって思ってた。
梨花は、あのとき笑顔だったし…
はじめだけは…
帰るときは、すごくかなしい顔をしていたんだ…。
でも、オレはどうしてあげることもできない。
ただ…ただ梨花が来たら抱きしめて、頭をポンポンするだけ…
それ以外…なにができるっていうんだよ…
オレは…
いや、梨花は…オレじゃなくてもいいんだ。
たださみしいだけ…
それだけなんだと思う。
鍋のアクみたいに、かなしみだけを救ってあげることは、できないのだろうか?
…
蓮なら…
いや…
蓮が、あんなんだからこっちに求めてくるんじゃないか。
…
そして今日もオレは梨花を抱きしめた。
梨花は、じっとこちらを見て
「ありがとう」
と、帰っていく。
梨花…
…
最近オレは、梨花のことばかり考えてしまう。
梨花は、いつも頑張って笑顔をつくっているのかもしれない。
頑張り屋の梨花に、あのタラシ蓮は不釣りあいだ。
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朝から梨花以外の女とイチャつく蓮。
「あ、おはよー」
と、オレに明るく挨拶する梨花。
たぶん蓮がだれかとイチャイチャしてるの…みたんだよね?
なのにそんなに、何事もなかったかのように明るい声で…
…
「梨花…もう無理すんな」
梨花は、
「うん…」
と頷きながら堪えていた涙を一気に溢れ出した。
そして散々泣いて、
「わたし…魅力なかったのかな」
って、力なく笑った。
「梨花は、魅力の塊だよ。それを蓮は、見抜けなかったんだ。浮気するのは、梨花がどうこうっていうより、向こうの問題だろ。」
「うん、そうだね…ありがとうね。わたし…ちゃんと蓮にいってくる。きちんと話してくるよ」
梨花は、なにかが吹っ切れたみたいに爽やかな顔で立ち上がった。
今日…梨花は、あの場所にやってくるだろう。
そのときオレは…
…
でも梨花は、来なかった。
どうしたんだろう?
蓮と話し合って、きちんと仲直りしたのかな?
だったら、こんどこそ蓮が心を入れ替えて…くれるのか?
大丈夫なのか?
また同じことの繰り返しに…
心配だ…
梨花…
このまま、梨花の家に行ってしまおうかって考えたりもした。
でもな…
やっぱり行くのをやめて、大人しく家に帰ろうとしたんだけど…
家の前に梨花がいた。
「梨花?」
「蒼、わたし…別れた。ちゃんと終わりにしようって言った」
…
「うん、辛かったね。よく頑張ったな」
オレは梨花を抱きしめて、頭ポンポンをした。
「え…なんか今…」
「うん?どうした?」
「なんかね…わたし辛いときがあるといつも遊園地の着ぐるみに会いに行ってたの。なんか…すごく落ち着いて、それが……」
「オレみたい?ってこと?」
「うん…」
「だって、あの中身オレだし」
「えっ⁉︎」
「でも、今日来ると思ったのに来なかったね?」
「それは…なんだかどうしても蒼に会いたくて…」
「オレもずっと梨花に会いたかった。」
「なら、辛いときは…またこうやって抱きしめて…くれるわけないか。そんなの都合いいよね…」
「ううん。いつでも来いよ。待ってるから」
「ありがとう」
梨花は、彼氏と別れて身も心もぼろぼろだ。
オレは、そんな梨花に寄り添って回復を待つ。
いや…早く回復できるように一緒に海に行ったり、食事したり遊園地でストレス発散させてあげたりした。
「あ、着ぐるみ」
「抱きついて来る?」
「ううん、だって今あの中の人…蒼じゃないもん。」
「オレなら抱きつきに行った?」
「うん、絶対行く‼︎」
「なら、オレは今ここにいるよ?どうする?抱きつきに来る?」
両手を思いっきり広げた。
「蒼‼︎」
ギュ〜♡
オレは、梨花を受けとめた。
「梨花、好きだ」
「わたしも蒼が好き」
ギュ〜♡
こうして、オレたちは付き合うことになりました。
蓮は、オレが梨花を定期的に抱きしめていたことを知らないと思う。
そしてもう一つ知らないことがある。
梨花が、オレと一緒の着ぐるみのバイトをはじめて、蓮が連れて来る女を梨花がハグしていることを。
蓮は、相変わらず色んな女性をとっかえひっかえだった。
駅のホームで蓮を見かけた。
そして…ビンタされていた。
思わず梨花と顔を見合わせ、笑った。
そして
「「蓮ー‼︎」」
と、呼んで
あっかんべーを二人からプレゼントしてやった。
おしまい♡




