優しさ
まったくもって、あの蓮ってやつのどの辺が優しいのか、さっぱりわからない。
レモンくらいさっぱりだ。
…
てか…レモンなら、それはもうすっペーな。
…
ま、さっぱりでもすっぱくても、どうでもいい。
オレには、あの彼氏が優しいっていうより毒吐きにしか見えない。
あの彼氏は、梨花の前では猫被りなのかもしれないな。
梨花のうるさい彼氏をほっといて、さっさと教室へと向かった。
途中、梨花を見かけた。
ウザすぎる彼氏と、とてもにこやかにお話をされておりました。
よくあんなやつと、にこやかに話せるな。
謎すぎんだろ。
ウザ絡みされる前に、さっさといかねば。
「おーい!あおくろしろー‼︎」
…
また見つかった。
「なにそれー?」
って梨花は、笑っていた。
でもね、オレは笑えないよ?
クソつまらんからさ。
それに、オレはあの蓮ってやつがキライすぎる。
「しつこい」
とりあえず振り向いて、一言だけいいそのまま教室へと向かった。
まだ時間あるし、少し寝とこっと。
机に頭を伏せていると、だれかに頭をサワサワとされた…っぽい?
だれだ?
この触り方…ゾワってするんだけど?
キモいなあ…だれだよって、顔をあげると…
「げっ」
奴がいた。
ニヤニヤしながら、梨花の彼氏が目の前にいたのだ…。
「おはよ〜モーニング〜♡」
気持ち悪い挨拶と合わせて、なおもオレの髪をサワサワしてきた。
…
「んだよ、キモいから触んなっ」
「えー…、朝はご機嫌斜めちゃんなんだねぇ?」
…
な…なんだってんだよ?
梨花は、どうした⁉︎
そんなに暇なら梨花とイチャイチャでもしとけよって、なりますよね?
「梨花は?」
「え?気になるぅ?さっきチュウしたら満足そうに教室かえって行ったけど?それが何かぁ?」
…
いちいちウザ…
「で、オレになんの用?用ないならオレ、トイレ行くから」
ウザい蓮とやらをおしのけ、トイレに向かうと…ついてくる蓮。
「なに?」
「オレさぁ、どっちもありなんだよ♡」
⁉︎
いきなりの蓮からの壁ドン…
はぁ⁉︎
「オレは、蓮なんかごめんだね。てか、女の子しかムリ。だからどけ」
そもそもオレって…女の子すらきちんと受け入れられる自信がない。
…
蓮を振り払うと、蓮はオレに
「梨花なんかいつでも別れていいんだけどなぁ」
って言いだした。
⁉︎
「おい、お前…いい加減にしろよ」
思わず蓮の胸ぐらを掴んでいた。
「え…蒼?」
梨花の声にとっさに反応して、パッと蓮を離して、そのまま梨花の方をみずに教室へと戻った。
どういうつもりだ蓮のやろう。
あんなやつと付き合ってて、梨花はほんとに大丈夫なのか?
…
ウザい蓮に絡まれたくないから、とにかくさっさと帰ることにした。
駅でボーッと反対車線のホームをみていると、蓮が梨花じゃない女とイチャイチャしていた。
あいつ…
「あー、蒼!やっとみつけたんだけど!てかさ、なんでそんなに帰るの早いのよ…」
⁉︎
えっ…梨花じゃん?
今は…今、反対車線みたら梨花…ヤバいだろ。
「あ、梨花!ジュース‼︎ジュース奢ってやるよ。疲れただろ?ほら、どれがいい?」
ふふっと梨花は、なにかを思い出すように笑った。
「どうした?自販機の前で不気味なやつだなぁ」
「だって、蒼が昔みたいに普通だし…優しいからさ」
…
「そりゃ、人ってあんまり変わらないだろ」
「そっかー。そうだよねー」
少し寂しそうな梨花は、自販機のいちごミルクを指差した。
ガコンと、いちごミルクが出てきた。
「これってさ、どうやってここに落ちるんだろうね?落ちるところ、もっと布団とか敷いといてあげたら痛くないのにね」
…
「優しいかよ」
「あはは」
梨花…
笑っているのに、心は泣いているみたいな…そんな表情すんなや。
オレは、あえて蓮たちが見えない方の椅子に誘導した。
「今日…蒼さ、蓮くんとなんかあった?ケンカしてるみたいに見えたんだけど…」
「あー、ううん。あいつが意味わかんないこと言ったから…それだけ」
「そっか、でもいつのまにそんなに仲良くなったの?」
…
「別に仲良くなんてないよ。ただ…」
「ただ?」
心配そうな顔の梨花をみて、オレは頭をポンとして、心配すんなって言ってやりたかった。
でも、彼氏でもないオレに頭をポンと触られるのは、キモいだろうしそれは違うなって考えて、グッと抑えた。
今じゃない。
「あ、ううん。それより電車きたよ」
電車の風圧なのか、それともただの風が吹いたのか、あまり心地よくない風に吹かれながら、前髪を揺らして電車に乗り込んだ。
ふと向かいの車両に目をやったが、もうあの二人は、先に電車に乗って帰ったようだ。
…あーよかった。
別に蓮を庇ったわけじゃない。
梨花のかなしむ顔が見たくなかっただけだ。
続く。