85回目 猜疑心
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカ
時折心地よい風が吹き込み、できたカーテン隙間から月明かりが差し込みます。そんな静かな夜に、私は部屋で膝を抱えて過ごしていました。
そうしながら、私の心は揺れるキャンドルの炎のように、不安と期待の間をさまよっています。
あなたは私の事を「素敵」と言ってくれました。ただそれだけの事なのに、私にはそれが不思議でならないのです。
今まで私にそんな事を言ってくれた人はいなかったから。
これまでの私の道は、どれほど孤独で、どれほど冷たいものだっただろう。だからこそ、あなたの言葉を素直に受け止めることができないのです。
それでも、私はあなたの手を離せそうにはありません。あなたの言葉が真実であって欲しいと願ってしまっているから。
申し訳ないという思いとともに、心の奥底で、まだ小さく燃えている期待の光。その光が消えないように、今私は目を閉じ祈り続けるしかありませんでした。
疑っていた方が落ち着いていられるのは……いずれ「やっぱりね」って思う時が来るかもしれないから。
そして、もしその日その時が来てしまったとしても、私は一人で立ち上がれるように備えているだけだということにも、気が付いているから。
それでも、私はあなたの隣にいることを選びたいです。なぜなら、あなたが私を「素敵」だと言ってくれたように、私もあなたを「素敵」だと心のそこから思っているからです。
私は、この不確かな光の中で、あなたの隣にいることを選びました。
そして、いつか私が、心からあなたの言葉を信じられるようになる日が来るまで、私は自身の物語を生き続けたいと願っています。
おわり
※褒められると疑いたくなるという式が、心に沁みついてしまっているのです。




