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80回目 カレンダー

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカ

 リストラの一環で私も配置換えとなりましたが、新しくついた部署でもやはり空いたデスクが目立ちます。


 朝礼が終わり自分の席に着きますと、何故か空いているはずの隣のデスクに若い女性が座っていたのでした。先程行われた部署の紹介の時には、見かけなかった顔です。


『よろしくお願いします』と声を掛けてみましたが、その女性に反応はなく、代わりに反応したのは斜め向かいの課長でした。


 驚くべきことのように思うのですが、どうやらこの女性、私以外には見えていないようです。



 飾り気はなく、真面目そうな感じですが、制服を着用していないということは、この会社の従業員ではないのでしょうか。


 手には卓上カレンダーを持ち、目は空中とカレンダーとを行ったり来たりするだけです。


 昼食時も、また退社の時間になっても、その席を立とうとはせず、翌朝になっても何らかの変化は見受けられませんでした。


 怖さとか不安とか、特にそういった感覚はありません。寂しそうで、むしろ気の毒な思いの方を強く感じてしまいます。



 そんな状態で数日が過ぎたころ、彼女が突然『甘いもの』と言ったように聞こえました。


 たまたま引き出しに忍ばせていた板チョコを取り出すと、私はふた欠片をティシュの上に乗せ、彼女の手元に差し出してみました。


 彼女はすぐにチョコに気が付きましたが、それによって表情が変わることはなかったようです。すぐに視線を戻し、カレンダーを見つめ続けたのでした。


 ただ、その日の退社時刻には、チョコは無くなっていたので、私が席を立ったいずれかの時に彼女が食べてくれたのでしょうか。



 翌日、また突然でしたが、彼女は『かくもの』と言ったようでした。


『かくもの』の意味に戸惑いましたが、カレンダーを見つめていることを考えると、ここはペンを渡すべきではないかと思うに至りました。


 思った通りです。ボールペンを手元に置かれ、彼女はしばらくそれを見つめていましたが、すぐに視線を戻し、カレンダーを見つめ続けたのでした。


 ただ、退社時刻になっても、ペンが動かされた形跡は無く、彼女が持つカレンダーにも何も書かれてはいませんでした。


 欲しかったものが違ったのでしょうか。


 しかし翌朝、私のデスクの隣に彼女の姿はなく、ただ机に卓上カレンダーが置かれていただけでした。


 カレンダーには、私が差し出したボールペンを使ったのでしょう、昨日の日付の所に小さな文字で"お世話になりました"と書かれていたのです。



おわり

※隣に幽霊がいても気にならないんですね。


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