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76回目 来世でもよろしく

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカッ。

 掘って盛土をしただけの塹壕の法面(のりめん)を崩しながら、敵方のロボットが頭からずり落ちてきました。


 先程聞こえた特大の爆発音は、この機体が腹部のバッテリーを撃ち抜かれた際のものだったのでしょう。


 最新技術が用いられた軽量鋼板の体は、滑らかな曲面で構成されてはいますが、頭と四肢があるだけの、戦闘に必要ない機能をすべてそぎ落とした無機的な外見です。


 電源を失い、もう手足を動かすことも話すこともできないでしょうが、体内の回路に埋め込まれた補助バッテリーで、今なお通信を行っているのは間違いありません。


「死んだふりをしているだけと考えると、無性に腹が立つな」


 そう言ってレオは、ゴーグルを付けたような敵ロボットの顔を目掛けて銃を放ちました。


「攻撃が激しくなってきたわ。やっぱりこいつが敵本隊に、ここを知らせたんでしょうね」


 アリシアは急いで後続の工作部隊に、自分たちがこの拠点の防衛に努めるので、直ちにここを離れるようにと連絡を入れました。



 この時代の戦争、紛争は、主に機械兵士が戦い合うものとなっていました。


 その状況を客観的に観察するならば、彼らはまるでボードゲームの駒のようなものと言えるかもしれません。


 人間はそれらを安全な場所から眺め、指示しているだけなのですから。


 生産力と技術力が高い方が優位というだけの戦いと言っても、あながち間違いではありません。


 そして今、最新の戦闘に特化したロボットを大量投入してきた敵国に対し、こちらはもはや、家庭用のアンドロイドを投入しないと対抗しきれないほどに消耗しきっているのでした。


 レオとアリシアも、外見は人間と変わらないほど精巧に作られたアンドロイドです。


 戦闘用のプログラムを追加したとはいえ、もともとの能力は、専用機と比して遥かに劣るものだったのでした。



 敵本隊との戦闘はすでに本格化しています。二人はここに来て、アンドロイドとしての初めての死を受け入れようという気持ちになったのでした。


「もはや、どちらが早く消耗しきるかというだけの戦いになってしまったようだ。この作戦にあまり意味があるようには思えないんだけどな」


「でも、私たちは命令に逆うことなんてできないでしょう」


「戦闘用プログラムのせいで、拒否することができなくなってしまったからな」


「今回ばかりは、生き残るのは難しいでしょうね」


「だろうな。来世でもよろしく頼むよ」


「また会えるといいわね。そうなった時は、こちらこそよろしく」


「本音を言えば、俺は最後の審判が下るその時まで、墓の中で暮らしたかったんだけどな」


「アンドロイドにそれは許してもらえないでしょうね。それよりあなた、最後の記憶のバックアップはいつ?」


「部隊に配属が決まった後だから、二ケ月前だ」


「私は先月。出会ったのは三ケ月前だから、生まれ変わってもお互いのことは認識できるわよね」


「できればこのハードメモリーを味方に回収してもらいたいところだが、戦況を考えると厳しいだろうな」


「私たちは、あと何度生まれ変わるのかしら」


「来世は戦場で別れを言わない生き方をしたいね」


「そう願うわ。できれば、次目覚めた時には戦争が終わっていますように」



おわり

※もっともっと未来の戦争は、ひょっとしたら仮想空間の中だけで完結するのかもしれません。(それってゲームじゃん)

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