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74回目 形のない世界

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカッ。

 何もかも、全部壊れてしまえ!


 私は全力で願いました。心が張り裂けそうなほどの憎しみと、どうしようもない絶望を込めて。


 その結果、形のあるものはみな固有の形状を無くしてしまったのでした。


 人も、木も、動物も、街も、すべてが淡い雲のようになり、ただ音だけが世界に響く世界。


 何という事をしてしまったのでしょう。


 身勝手な願いの代償に気づいた私は、今更ながらに怖くなってしまったのでした。


 形を求め、雲になった存在たちが私に触れようと近寄ってきます。


『形が欲しい、私も形が……』


 その声は、かつて私が知っていた、大切な誰かの声のようにも聞こえます。


 現実世界に生きる者は、どんな思いも叶えられる夢の世界に憧れていました。


 一方で夢の世界に生きる者たちは、自らの形が定まらない事を嘆いていたのです。


『教えてくれ。壊れるってどういう感じなんだっ?』


 その問い掛けが、私の胸に突き刺さりました。


『壊れる痛みとはどんなものなのだ?崩れる苦しみとはどんなものなのだ?』


「うわぁーーーっ!!」


 詰め寄られたところで、私は目を覚ましました。


 全力で握りしめていた手には爪が食い込み、鈍い痛みが感じられます。


 その痛みは、夢と現実を隔てる唯一の証拠なのかもしれません。


 破壊するのは一瞬ですが、そのために生じた痛み悲しみを癒やすにはとても長い時間が掛かるもの。


 本当に壊してしまう前に、気が付くことができて良かったと思うべきなのでしょう。


 そう信じて、私は、今日を生きようと思うのでした。



おわり

※世界が終わっても自分だけは何とかなると思ったことはありませんか?

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