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56回目 麻雀狂エイリアン

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカッ。

「S商事から出向して参りました滝沢です。三ヶ月間、よろしくお願いします」


 着任の挨拶に続いて、朝礼、そして本日の連絡事項を確認。


 それらが終わったところで、ここでの業務について手ほどきを受けたのでした。


 この会社から提供された新技術について、提携会社は契約を遵守しているか、目的の範囲内にて適切に扱っているかなどを審査するのが、私の主な役目のようです。


 私でなくとも差し障りない業務内容ですが、実はこの出向には、別に極秘の目的があったのでした。




「滝沢さん、どうぞこちらへ」


 秘書に連れて行かれたのは、第一会議室でした。


 部屋の中央に据えられているのは自動麻雀卓。それを囲むようにして、男性と女性が各一名。そして地球上のどんな生物とも異なる姿形をした存在が立っていました。


 某惑星から来たという異形のエイリアンこそが、この会社のCEO(最高経営責任者)です。


 容姿についてはあらかじめ伺ってはいたので、心理的衝撃は最小限でしたが、実際その姿を目にすると、自分が大変な任務を授かったのだということを改めて認識させられます。


 まずは、私たちは互いに社会人の礼儀として名刺交換を行いました。


 男性はM技研興業、女性はD精密工器から出向して来られた方たちでした。二社とも株式一部には上場していない中小企業だそうです。


 ただ、彼らの出向の目的は私と同じはずです。



「それでは早速だが、お互い顔合わせということで、半荘(ハンチャン)始めようか」


 切り出したのはエイリアンCEOでした。


「せっかくの初顔合わせだから、この勝負に限り、一位には賞品を出したいと思う。賞品は、出向前のアンケートで書いてもらったリストの中から、こちらで決めさせてもらう」


「本当ですか!?」


 出向社員三人から同時に声が上がりました。


「本気度が増したようだね。では始めよう」


 各々の位置決めが終わった後、卓の中央でサイコロが振られました。


東家(トンチャ)は滝沢君だね」


「すみません。和了(アガ)ったみたいです」


「まさか、天和(テンホー)!?」


「はい」


「初めて見ました」


「自分も初めてやりました」


「滝沢君には、麻雀の神様がついているのかもしれないね」


 一局目から、一生に一度出るか出ないかの役で和了(アガ)り、有頂天になったのも束の間、以降は次から次へと振り込んで、最終的には四位で終ったのでした。



「じゃあ、一位のD精密さんには、放射性同位体熱電気転換の効率を格段に上げるためのヒントを差し上げよう」


「すごい。エネルギー革命が、今ここから始まるかも」


「まったくですね。ところで……」と、私は気になっていいたことを改めて聞いてみました。


「なぜ、麻雀なのですか?」


 エイリアンCEO氏は、あらためて私たちに向き直ると言いました。


「私自身が、麻雀が大好きだからだよ」


「はぁ」


「麻雀の配牌(ハイパイ)は完全に運任せだ。しかし相手の捨て牌から筋を推理して、自分は何を集めるべきか、何を捨てるべきか、考えながら戦略を練る様は、何というか起業家の考え方に通ずるとは思わないかね?」


「まぁ、そうですね」


『それって、起業家、投資家がギャンブラーだって言っているようなものですよ』とは、口が裂けても言えません。


「では、賞品というのはどうでしょう。一種の賭博とも考えられそうですが」


「賞品があると、皆さんが本気で挑んで来られるので、やはり緊張感があって楽しいものだ。賭博とは言えなくもないが、私が勝っても何ももらえないので、賭けというよりむしろコンペじゃないかな」


「たしかに」


「それに賞品と言っても、物ではなく、技術でもなく、ただのヒントだしね」


「そう言われれば、そうですね」


「でも、このような地球には存在しないオーバーテクノロジーを、一部の人間にだけ与えるというのは、不公平な感じが拭えないのですが」


「弊社だけを見るなら、そう感じてしまうだろう。だが、宇宙連合の付随組織『地球を見守る会』では、長年に渡って密かに人類社会と関わってきたんだ。その間、様々な地域の、多くの人間に技術供与してきたんだよ」


『地球を見守る会』というネーミングにつっこみたいところでしたが、そこは抑えて。


「時には偶然手にした危険な技術を、安全で多くの人が恩恵を受けられる技術にすり替えたりもしてきたよ」


「そうでしたか」


「君も是非麻雀に勝って、新技術を手にしてくれたまえ」


「わかりました」


「では、次回からが本番となる。出向の三ヶ月間の成績で賞品を決めよう。毎日朝十時、午後一時、午後四時にこの部屋に集まること」


「一応、仕事……なんですよね?」


「もちろんだとも」


 エイリアンCEOは、何処が首かわからない頭を縦に振って、肯定してみせたのでした。



おわり

※この物語は、実在する企業とは一切関係ありません。


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