53回目 ライトノベル
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカッ。
この度は奮発して特急の指定席券を買いました。
混雑するシーズン、今回ばかりは立ちっぱなしにならなくてすむでしょう。
私が指定座席を見つけた時には、隣席には既にどなたかが座っていらっしゃいました。
お見かけした限りでは、私と同年代のようです。互いに会釈を交わすと、お隣さんはすぐにスマートフォンに目を落としてしまわれたのですが。
やはりスマートフォンは他人との関係を絶つのにこれ以上無いツールといえましょう。
私はといえば、カバンの中から、学生時代に読んだ古い古いライトノベルを取り出しました。
学生向けに行間も字間も広く、とてもテンポ良く読める、近未来SF活劇です。
この帰省の折に実家から発見し、懐かしさのあまり持ち出してきてしまったのでした。
終着駅まで二時間、これほど読書に適した時間は、他にありませんから。
私がその本を前の簡易テーブルに置き、さらに飲み物取り出そうとしていた時、隣の方から声が掛りました。聞けばその方もこの本を読んだ事があるのだそうです。
近未来SFの舞台は二十一世紀初頭。現在より過去の未来でした。
私たちはかつて思い描かれていた世界より、ずいぶん違う社会に暮らしているようです。スマートフォンの事は書かれていませんでした。
もともとこの本の内容に発した会話でしたが、話題は尽きることが無く、結局私たちは終着駅まで話し続けたのでした
おわり
※同じ時代を過ごして来た者同志、当時の流行りなんかについて、いちいち解説する必要がないため、会話のテンポが良くとても心地が良かったりするのです。




