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50回目 運命のダイス

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカッ

「こんなところにあったのかぁ」


「よかった~、見つかって」


 本棚を整理しようと並んだ雑誌をすべて取り出した時、棚の奥から転がり出てきたのは木製のサイコロでした。


「あ、ホントだ! よかった-。これじゃなきゃ、やっぱりダメだよ」



 パソコンの文字キーより少し大きいくらいのサイコロに『運命のダイス』と最初に名付けたのはどちらだったでしょうか。


 二人で物事を決める際には、いつも必ずサイコロを転がすことにしていたのでした。


 偶数、奇数の二択。時には三択だったり、それ以上だったり。


 行動の選択肢をサイコロの目に当てはめて転がし、その出た目に従います。


 サイコロでなんでも決めるなどナンセンスと思われるかもしれません。


 ところがその通りにすると、不思議といつも二人しっくりといくのでした。



 そんな事を始めるようになったのは今から五年前、二人が付き合い初めて二年目の記念日に、このサイコロを手にしてからのことです。


「今日は何の日か知ってる?」


「あぁ、去年同じ質問をされて答えられずにいたら、急に機嫌が悪くなったからな」


「ありがとう。今年は覚えていてくれたのね。じゃあご褒美。この日を記念してコレをあげる」


「何これ?」


「見ての通り」


「ただの木のサイコロじゃん」


「あたしの気持ちなの」


「木のサイコロが?」


「うん。なぞなぞみたいな感じ。解いてみて」


「なぞなぞ? 苦手なんだけどな。えーっと、木のサイコロはプラスチックと違って重心が偏ってるせいで、出る目にも偏りが出やすいから……」


「そういうへ理屈っぽいんじゃなくて」


「理屈っぽいのは俺の性格だけど、"へ"はいらないよ」


「わかったから。サイコロを別の言い方にすると?」


「正六面体」


「じゃなくて」


「ダイス」


「正解! で、材質は?」


「木」


「続けて言うと?」


「木ダイス」


「んー、惜しい。じゃあ、それを十回言うと?」


「木ダイス木ダイス木ダイスキ ダイスキ、ダイスキ…………ダイス、キダイスっ!」


「そこで止めない!」


「ダイスキ」


「私もっ!!」



 それからというもの、二人で何かを決めるシーンでは必ずこのダイスが登場するのでした。


 二人で暮らすようになってからは、なおのこと。


「カレーとチャーハンどっちがいい?」とか、「今日は家でDVD観る?それともどこか出かける?」といった些細な内容の時にはそれなりに。


 一方、人生にかかわる重大な決断の時は、どの道を選べばより上手くいくのか、二人でしっかりと祈りを込めて振りました。


 そしてその目にしたがった結果は、ほぼ間違いなく自分たちにとって納得のいくものだったのです。



『運命のダイス』は二人の暮らしに欠かせないものとなっていました。


 ところがその大切なダイスを、一年ほど前に無くしてしまったのです。


 部屋の隅々に至るまで、何度となく探したのですが、結局見つかることはありませんでした。


 やむおえず別のサイコロを用意したりもしましたが、以降はあまり上手くはいかなくなっていたのでした。



 それが今日に限って突然、


「こんなところにあったのかぁ」


「よかった~、見つかって」


「あぁ、このタイミングで見つけられたのは、やっぱり運命だったのかもしれないな」


「そうね」


「本物の『運命のダイス』……なのかもしれないな」


「どうかしら、面接に行く前にもう一度これで占ってみない?」


「もちろん、俺もそう思ってたところだ」


「じゃあ、いってみる?」


「あぁ」


「偶数なら?」


「定職に就く。今日の面接にかける」


「奇数なら?」


「メジャーデビューに向けて音楽の道をとことん突き進む」


「生まれて来るこの子ためにも、どっちの道を進むべきか」


「今回は三人分の祈りを込めて」


「込めて」


「せーの」「せーの」


 ころころころ…………



おわり

※たまに虚数も出ます。

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