49回目 傘の下で
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカッ。
美術館の外に、見知らぬ同士の三人が傘を差して佇んでいました。
「世知辛い世の中になりましたね」
三人で灰皿を取り囲み、互いに顔を見合わせて笑みを浮かべながら。
傘を持つ反対の手には煙草。両手がふさがっているため携帯を出せず、自然と会話が始まったのです。
そのうちの一人が、咥えたタバコに火を点けようとしましたが、使い捨てライターの具合が悪く、なかなか火を点けられずにいました。
見かねた別の一人がジッポーライターを取り出すと、点火してタバコの先に差し出します。
ティンッ、ジッ。
「ありがとう」
スチャッ。
「懐かしい音ですね」
それを見ていたもう一人が話すと、火をもらった本人も大きく頷いて同意します。
「そういえばそうですね。以前は至る所で聞いていたのに」
「使い捨てやプラスチックを良しとしない時代ですから、こういうライターの方がかえって推奨されるんじゃないでしょうか」
「なるほど。私も検討してみよう」
「私も」
「それにしても、本物の絵は迫力が違いましたね」
「えぇ。図鑑で見るのとはまったく」
雨によってもたらされた、わずか五分間のコミュニケーション。
おわり
※世知辛い世の中になりましたね。




