35回目 剣よりも強き武器
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカッ。
亡き友よ。
君の傍らにあったこの刀が語ろう。
友よ。
激しい戦いによって命を失った友よ。
私は廃刀令によって存在意義を失った。
この先の時代は、銃でも刀でもなく、言葉によって正されるのだという。
言葉は人を傷つけぬ。
言葉で人が血を流したりはせぬ。
言葉は人の命を奪ったりはせぬからな。
友よ。
お前が自らの魂とまで語ってくれた私だが、今はただの鑑賞用となった。
私はもう人を傷つける道具ではなくなったのだ。
それが道具として良いことなのか、悪いことなのか、私自身には判断がつかないが。
ただ、あれから百年。私はこの場所で静かに時を刻んできた。
そして、私が見てきたのは、人々を励まし、癒してきたはずの言葉が、今はなぜか人を傷つける道具となってしまったのだ。
その切れ味は、かつての自分を思い出すほどの鋭さだ。
声なき言葉が、見えない刃となって、人の心をえぐる。
直接血を流すことはない。しかし、その傷は深く、時に命さえも奪う。
我々は廃刀令によって、人の命を奪うことはなくなった。
言葉は、何によってなら人の命を奪うことがなくなるであろうか。
言葉の使い手である人間が、その力を正しく使うことを学ばない限り、この負の連鎖は止まらない。
友よ。
残念ながら、私には願うことしかできそうにない。
お前が命をかけて築こうとした、真に平穏な世が実現するのを。
そして、言葉が再び人を癒し、励ます光となる日が来るのを。
その日その時が来るまで、私はこの場所で静かに待ち続けるのだ。
おわり
※今の時代、刀や戦艦や馬が擬人化され物語になっています。次は何が擬人化されるでしょうか。




