33回目 あの日もこんなふう
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカッ。
彼が心の底から愛し続けていた相手は、アルバムの写真の中の女性でした。
彼自身がどんなに歳を取ろうとも、写真の中の彼女が老いることはなく、その微笑みが一瞬たりとも揺らぐことはありません。
しかし、今彼が見上げている、彼女の写真には黒い縁取りがあり、彼と同じように歳を取っていたのです。
思春期に結婚を誓いあった幼なじみ。
己が意志とは無関係に、彼の下を離れて行かざるを得なかった彼女は今、王国を挙げて行われる葬儀の祭壇に据えられた棺の中で横たわっているのでした。
面影だけを残して。
あの日もこんなふうでした。
離れた場所で彼女の結婚式を見守るだけだったのです。
彼とは金輪際係わり合うことのない王宮へと嫁いで行く彼女を、ただ見送るだけの儀式に感じられたのでした。
今も同じ。彼が暮らしているのとは別の世界へと旅立ってしまったのを、ただ見送っているだけなのですから。
ところが不思議なことに、彼は様々なしがらみから解放された彼女を、もうすぐ近くで感じられそうな気がしていたのです。
彼女が、彼をどれほど想ってくれているのかまではわかりませんので、その気持ちを単純に"うれしい"とは表現しかねるのですが。
もし、もう一度、この世界ではない別の場所で会えたとしたなら、それだけで彼は、奇跡を待ち続けただけの自身の生涯が報われたと感じられるかもしれないと考えていたのでした。
おわり
※別れた後に出会ったより多くの人たちとの関係が、その人への想いをどのように変化させるのでしょうか。




