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16回目 タイム×パラドックス

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカッ。

 お菓子のパッケージに付いていたキャンペーンに応募したことなど、すっかり忘れてしまっていた頃に、当選の連絡が入ってきました。


  [ご希望の日にち、時間、場所をお知らせ下さいませ]


 物質を移動させるタイムトラベルは理論上不可能ということは前世紀から言われていましたが、物質以外であれば可能であるというのが、ここ数年で判明し、実用化に至ったのでした。


 ただ、時間を遡れば遡るほどにタイムトラベルは難しくなり、今のところ精度は十五年以内、しかも過去に限るということです。


 タイムトラベルの希望者は、明確な時間、場所を申請する必要がありますが、日記を欠かさず付けていた私は、自身にとって分岐となったに違いない日と時間を明示することができたのでした。




 学生時代、彼女と二人っきりになった時に言えなかったあのひと言を、今度こそ君に伝えたい。


「僕と付き合って下さい!」


 肉体の移動を伴わないタイムトラベル、行きついた先は学生時代の自分自身の中です。


 感覚でいうと、そのままズバリ"若返った"という以外には無いように思います。


「どうかお願いします」といいながら、私は彼女に向って手を差し伸べました。


 彼女は「はい」とだけ答えて私の手を取ると、二人して駅までへの道を進み始めます。


 以前に見た夕日は情けない涙でにじんでいましたが、今は人生最高の美しさと思えるようでした。




 そして……予定されていた三十分が過ぎた後、


「いかがでしたか、タイムトラベルは」


 係の人が私の帰りを迎えてくれたのでした。


「最高でした。もう人生で思い残すことなど何ひとつありません」


「帰って来られた皆さんがそう仰りますが、これからも人生はつつがなく続きますよ。でも、タイムトラベルによって、日常に少し変化が見られる場合もありますので、その点はご理解下さいませ」



 タイムトラベルでは、ごくまれにですが、過去に干渉することによって現在に変化をもたらす場合があります。


 必ずそうなるとは限らないというのが悩ましいところですが、私の場合は……どうやら現在が書き換わっていたようです。


 自宅に戻ると、父と母、それに "今朝まではいなかった妻と娘と息子" が、テーブルを囲んで夕食を取っているところでした。


「おかえり」


「おかえり」


「おかえりなしゃーい」


「ふんぎゃーーーーーー」


「今日は遅くなるんじゃなかったの?こんなに早く帰るんだったら、先に連絡くらいしておいてくれたらいいのに」


 先ほど、手をつないだだけで顔を赤らめ、はにかみ笑顔を見せてくれた彼女が、今はなぜか鋭い眼差しで私を睨みつけてくれます。


 この三十分間というか十年間、彼女と私の間に一体何があったのでしょうか?


 知らない事は思い出しようもありませんから、とりあえず記憶を失った事にしておいたらよいでしょうか?



おわり

※未来は、よほど直近でない限り、まだドロドロで形にすらなっていないので、予見することはできないのだそうです。逆に過去はシュレッダーのように細かく破砕されていきますので、復元することは難しいのだそうです。

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