11回目 一緒に帰ろう
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカッ。
「一緒に帰る?」
つい先程までみんなとやっていた学校行事の打ち合わせが終わり、彼女と二人きりになったところで、さっきの延長みたいなノリで聞いてみたのでした。
「いいよ」
返事を聞いた僕は、その場で飛び上がりたい気持ちを押さえるのに必死でした。
応えてくれた彼女の笑顔は、とても自然に感じられるのですが、それに対する僕の表情は、果たして釣り合いが取れるものになっているのでしょうか。
打ち合わせの流れからの今までの会話に、ぎこちなさは無かったと思います。彼女はずっと笑顔で話しかけてくれましたから。
その彼女がバッグに付けているアクリルプレートのキャラクター。僕には見覚えがありました。僕も三話までは観ていたアニメの主人公です。
その名前を伝えると彼女の表情はさらに明るくなり、アニメの良さをとても楽しそうに語ってくれました。
続きを観ることを約束すると、彼女は大事を成し終えたような満足感を漂わせ、とても誇らしげな表情で笑ってくれたのでした。
ただ、楽しかった時間はあっと言う間。僕はここでバスを待たなければなりません。
そして彼女は、これから駅へと向かうのです。
「明日また一緒に帰ってくれる?」
僕が問いかけると、彼女は「いいの?」と返してくれました。
僕は、てっきり答えは『はい』か『いいえ』の二択しかないだろうと考えていましたから、『いいの?』という返答に戸惑い、その意味を探ろうとしてしまったのです。
そのため「うん」と返事をするまでに、二、三秒掛かってしまったのですが、それを変に思われてはいないでしょうか。
「じゃ、またね」
彼女が手を振った後、歩き出す後ろ姿を目で追っていると、雲に隠れていた太陽が現れたからでしょうか、街全体が突然鮮やかに彩られたように感じられたのでした。
『またね』というのは、次があるという意味に捉えて、もちろんよいでしょう……ね。
建物の陰に隠れて見えなくなってしまう前に、彼女はもう一度振り返って、小さく手を振ってくれました。
僕は即座にそれに応えます。
そしてその次の瞬間には、僕は、さっきの『いいの?』の意味を考えずにはいられなくなってしまったのでした。
おわり
※何か楽しいイベントがある時に、私はネガティブなハプニングが起こるパターンをあらかじめ何通りか予想して、過度な期待を持たないように心がけているのですが、実際にはなぜかその予想パターン以外のハプニングが起こるのが常だったりします。