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100回目 カメムシ

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカ

【プログラマー】


 労働というのは、今ではすべてロボットが行う時代です。


 命令こそ人間が行うのですが、生産、流通、販売に至るまですべてロボット頼り。行政はデータによる再分配、立法、司法はロボットによる公平な判断の下に行われ、人間はその結果を平等に享受し自由に活動できるようになったのです。


 そんな人間の医療についてはもちろんのこと、ロボットのメンテナンスでさえロボットが担っているのでした。ロボットがプログラミングなんて当然の時代なのですから。



 ただし、どのようなプログラムを作るべきか、その命令だけは人間が下します。


「シンコウジョウ デ セイサン ニ アタル マスター ロボット ノ プログラム ニ ツイテ デスガ」、


「そのことなら、全部門において自由に判断出来る権限を与えておいてくれ」


「ワカリマシタ」


 という命令を受けてプログラミング・ロボットは新しいプログラムを作りました。


 しかし、片言でしかしゃべれないこの旧式のロボットには、人間の滑舌までは判断する力がなかったようです。


 結果、書き上げられたのは「自由に反乱出来る」プログラムだったのでした。



おわり


 ※スマホのAI も時々間違えてくれますよね。

―――――――――――――――――――――――――――――――



【ボタン】


 君はこれが欲しいんだろ?


 この腐り切った世界を自分とともに消滅させることができるボタンだ。


 押せば一瞬にして世界が業火で焼き尽くされる。


 ただし……それは今すぐ押すという条件の下でのことだ。


 さすれば確かに世界は高温によって一瞬で灰になるだろう。


 しかし、押すのが遅くなればなるほど、高温に達するのには、それと同じだけの時間がかかるようになるぞ。


 一時間かかったのなら一時間後、十年かかったのなら十年後のことだ。


 時間がかかればかかるほど、世界は真綿で首を絞められるようにじわじわと熱せられ、残酷に蒸されていくことになるだろう。


 それを踏まえた上で、いつでも好きな時に押せばいい……。



 ボタンを受け取った男は、すぐに返そうとしたのですが、その時にはもうボタンをくれた何者かはそこにいませんでした。


 彼はその後、ボタンを押そうかどうしようか、ずいぶん悩んだのですが、よくあることで、悩んでいるうちに人生は好転したのです。


 結局、彼はそのボタンを使うことなく、深い海の底に捨ててしまうのでした。



 それから実に五十年ほどたった、ある日のことです。


 サメの腹から出てきたそのボタンを、漁師が偶然見つけてしまったのでした。


「ん?なんだこりゃ?押しても何にも起きんじゃないか」



おわり


 ※毎年暑くなるのは、そういうわけだったのか。

―――――――――――――――――――――――――――――――



【カメムシ】


 電車のつり革に掴まり、前に立つ良い香りのする女性の首筋をボーッと眺めていた時、私はそれを見つけてしまいました。


「お嬢さん、失礼ですが首にカメムシついてますよ」


「これはカメムシじゃありません」


「いやどう見てもそれはカメム……」


「違いますっ!」


「あ、すみません。でも、なぜそんなモノを付けているのですか?」


「どうしてそのことをあなたにいちいちお話しなければならないのですかっ!?」


 あまりの剣幕に驚き、私は一歩引き下がってしまいました。


 それと同時に、カメムシがもぞもぞと首筋を下に進み彼女の服の中に隠れて行くのを、私の目しっかりは捉えてしまったのです。


 カエルにされた王子の童話なら知っていますが、まさか……。


 どんなに綺麗な人であっても、カメムシを放し飼いにしている人とはお近づきになりたくないなぁと思ったのでした。



おわり


 ※彼女自身が、カメムシの化身なのかもしれません。

―――――――――――――――――――――――――――――――



【魔が差す】


「魔が差す」というのがありますが、ずっと「魔が刺す」だと思っていました。


 差すというのは「水を差す」と同じく注ぐという意味だそうですね。


 で、自らが悪いことをしてしまった場合に「魔が差した」「魔が差してしまった」と言うのですが、


 たとえば「魔が差す」を文章として捉えた場合……つまり、


 自分が主語であるならば「魔を差してしまった」となるはずであり、自分が受け身ならば「魔が差された」となるはずなのです。


「魔が差した」場合は、魔が「何か」を差したということで、


 ではその何かとは、一体何なのか。



「ふふふ。……これかぁ」


 どうやらこの男、その何かを手に入れてしまったようです。



おわり


 ※見せてはくれないんですね。

―――――――――――――――――――――――――――――――



【ココ掘れワンワン】


 イヌの散歩コースを変えてみました。


 空き地に差し掛かった時、飼い犬のポチが突然ダッシュして私を引っ張りだしました。


 ポチはいかにも不自然な土盛りを見つけ、そこに向かって吠えては私の方を振り返ります。まるで私にココを掘れと言っているように。


 私が躊躇しているのを見てたまらなくなったのか、ポチは前足でその小山を掻き始めました。


 しかし、イヌの前掻き程度で掘りきれるような土ではありません。


「もうあきらめようポチ」


「クゥゥン」


「ここは他人の土地なんだよ」


 諦めきれずに振り返るポチを引きずりながら、私は家路につきました。


 そこから所有者不明の五億円入りのケースが見つかったのは、六日経った後の事でした。


 見つけたのはその現場の工事担当である建設会社の社長さん。


 土地の所有者との間で、今なお、もめているそうです。



おわり


 ※ポチ、かわいそうですね。

―――――――――――――――――――――――――――――――



【カメムシ2】


「ねぇ、ここに置いてあるボタンは何?」


 ボタンがあったら押してみたくなる。


 例えばバスに乗ったら降車ボタンを押したくてウズウズしてしまうのは、子供に限らず人間の(さが)なのかも知れません。


「あ!それ絶対押しちゃダメ!」


 押すなと言われるとさらに押してみたくなるのが人情、ウケを狙って怒られるのもコミュニケーション。


 その時つい<魔が差して>しまったのです。


「あぁ、ダメだっていったのにぃっ! 押したらその人はカメムシになっちゃうんだから!」


 なぜそんなものをこんな目立つ所にと不思議に思いながらも、僕は自分の視界が大きく変わっていくのを為す術もないままに感じていました。



おわり


 ※あの時のカメムシは君だったのか!

―――――――――――――――――――――――――――――――



【まとめ】


 彼女と二人で鍋を囲む。


 今日の鍋は特別よ。


 鍋ではなく、僕は鍋の中味が食べたいなんて言ったら、くだらないと彼女に一蹴された。


 グツグツグツ


 よそってくれるのは嬉しいんだけど、僕の方には野菜ばっかりだね。


 僕のこと、草食系と決めつけているようだけれど、こう見えても以前は肉食系でモテモテだったんだ。


 そうは見えないって?前世の話だからね。


 僕の前世は舘ひろしだったんだ。


 舘ひろしはまだ死んでない!と、また一蹴された。


 そういえば、近所で五億円入りのケースが発見されたんだって。


 朝からこのニュースで持ち切りだったので、話題にしてみましたが、彼女はなぜかお金持ちがどれだけ大変かを説明してくれただけでした。


 僕が "お金持たず"なのは、案外良いことだったのかもしれません。


 貯金はわずかしかありませんが、ひとまず大好きな人が側にいてくれます。自分にとってはそれだけで十分。


 本当に幸せなのだと感じられるひと時だったのでした。


 ただ、カメムシに身を落としてしまった今、これが現実なのか、今現在の自分の夢なのか、判断することさえままならなくなりつつあるのが、目下の悩みだったりするのでした。



おわり

※ -完-

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